操作的定義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/12 01:21 UTC 版)
pHは前述したように水素イオンの活量で定義されるが、電気化学的に測定されるものは陽イオンおよび陰イオンの活量の積であり、単独イオンの活量を直接測定することは熱力学の枠内では不可能である。このため単独イオンの活量で定義される厳密な意味でのpHは測定が不可能であることになる。そこで実験的にpHを測定するためには、デバイ-ヒュッケルの式などから推定される活量係数に基づく操作的な定義が必要となる。 pHの「測定操作を基礎とする定義」は、大まかには 試料溶液に入れた2本の電極の間の測定電位を、pH標準溶液に入れた同じ2本の電極の間の測定電位と比較してえられる値 と表現することができる。この定義は、セーレンセンがpHの概念を提唱したときから現在まで、大筋では変わっていない。時代や国によって変わるのは 測定電位(起電力)からどのようにpHを求めるのか えられたpHの物理化学的な意味は何か 標準溶液のpHをどのように決めるのか の三つである。 起電力とpHの関係 pHの操作的定義のうち、最もシンプルな定義は、ネルンストの式に基づくものである。 p H ( X ) = p H ( S ) + E ( S ) − E ( X ) ( R T / F ) ln 10 {\displaystyle \mathrm {pH(X)} =\mathrm {pH(S)} +{\frac {E(\mathrm {S} )-E(\mathrm {X} )}{(RT/F)\ln 10}}} ここで、pH(X) と pH(S) はそれぞれ試料溶液 X と標準溶液 S のpHであり、E(X) と E(S) は水素電極(と適当な参照電極)を用いたときのそれぞれの溶液の起電力である。ガラス電極(と適当な参照電極)で起電力を測定するときは、ネルンスト応答からずれるので、pHの異なる標準溶液を二つ使う。 p H ( X ) = p H ( S 1 ) + E ( S 1 ) − E ( X ) E ( S 1 ) − E ( S 2 ) ( p H ( S 2 ) − p H ( S 1 ) ) {\displaystyle \mathrm {pH(X)} =\mathrm {pH(S_{1})} +{\frac {E(\mathrm {S} _{1})-E(\mathrm {X} )}{E(\mathrm {S} _{1})-E(\mathrm {S} _{2})}}\left(\mathrm {pH(S_{2})} -\mathrm {pH(S_{1})} \right)} このとき、pH(X) より低いpHを持つ標準溶液 S1 と、より高いpHを持つ標準溶液 S2 を使う。例えば弱酸性の試料溶液のpHを測定する際には、フタル酸塩標準溶液と中性リン酸標準溶液を標準溶液として使う。試料溶液が弱アルカリ性の際には、中性リン酸標準溶液とホウ酸塩標準溶液を使う。 pHの物理化学的な意味 セーレンセンははじめ、水素電極を用いたときの起電力が水素イオン濃度 [H+] の対数に比例するものとした(1909年)。 p H = − log 10 [ H + ] m o l / L {\displaystyle \mathrm {{pH}=-\log _{10}{\frac {[{H}^{+}]}{mol/L}}} } その後、考えを改め、起電力が水素イオン活量 aH+ の対数に比例するものとした(1924年)。 p H = − log 10 a H + {\displaystyle \mathrm {pH} =-\log _{10}a_{\mathrm {H} ^{+}}} IUPACは、操作的に定義されたpHは簡単な解釈ができない、としている。ただし十分希薄な水溶液(pHが2から12の間にあって、かつイオン強度が0.1より小さい水溶液)に限れば、pHを水素イオン活量の逆数の対数とみなせる、ともしている。 標準溶液のpH 標準溶液のpHを定める方法のひとつは、ある溶液のpHを定義値として固定することである。例えばJISの旧規格では、15℃における 0.05 mol/L のフタル酸水素カリウム水溶液のpHを4と定義していた。IUPACが現在推奨している方法はこれとは異なる。2002年のIUPAC勧告では、標準溶液のpHの一次測定法を定義している。この勧告によると、一次標準溶液のpHは定義値ではなく一次測定から求められる値であり、不確かさを持つ値になる。
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