宇田一の交配形式の理論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/13 22:47 UTC 版)
「競走馬の血統」の記事における「宇田一の交配形式の理論」の解説
戦前、満州の奉天農業大学学長を務め、戦後は明治大学教授となっていた宇田一は、中央競馬会から委託された研究として、サラブレッドを両親と自身のいずれがインブリードでいずれがアウトブリードかの組み合わせとして分類し、競走馬として優秀なもの、種馬として優れたものを統計的に明らかにしようとした。 宇田が目指したのは、近親係数と近交係数を用いた育種学的な配合理論であった。近交係数は個体の相同遺伝子が同一の祖先遺伝子から由来する確率として定義され、家畜等の改良において個体の近交度を表す時に広く用いられる。現代では、牛など家畜の改良には近交係数を基に綿密な交配計画が立てられることが既に一般的である。 宇田はサラブレッドを近親係数によりR型とr型、近交係数によりF型(いわゆるインブリード、近交係数1.6%以上)とf型(いわゆるアウトブリード、近交係数1.6%未満)に分けた。関連係数については、現代のサラブレッドのほとんどがR型を示すためここでは省略する。近交係数による産駒の系統型と両親の系統型の組み合わせは次の6通りとなる。 両親の系統型 産駒の系統型 1 F×F F 2 F×f F 3 f×f F 4 F×F f 5 F×f f 6 f×f f このうち2と5の交配形式がインブリードとアウトブリードを使った望ましい交配で「基準交配」と呼ばれる。「基準交配」はインブリードの近交弱勢とアウトブリードの遺伝力の弱さを避け、遺伝力があり、競走にも強い馬を生産する目的の交配形式である。 1の型はインブリード馬同士からインブリード型を作る交配形式で遺伝力が一番期待できるが,近交弱勢の影響を最も受けやすい。3の型はアウトブリード馬同士の配合からインブリード馬を作る交配形式で優秀な競走馬としての型。4の型はインブリード馬同士の配合からアウトブリード馬を作る交配形式で優秀な競走馬としての型。6の型はアウトブリード馬同士の配合からアウトブリード馬を作る交配形式である。遺伝力も少なく,競走能力も高くないので望ましい配合ではないということになる。 すなわち、2によって生産された馬には5によって生産された馬を、また5によって生産された馬には2によって生産された馬を交配し、こうした基準交配を繰り返すことによって、継続的に安定して優秀な競走馬を生産することができる。ネアルコの血統において、何代にも渡って基準交配が継続されていたように、こうした交配形式は伝統的な育種学の中でも有力な方法論の1つとして用いられており、宇田の研究結果はこれに裏付けを与えるものとなった。
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