制度的場面の会話分析
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/29 10:02 UTC 版)
会話分析という研究領域の確立には、いつ誰がどのくらい話すのか決まっていない日常会話において、発言の順番交替がどのようにおこなわれているかがあきらかにされたことが大きく貢献している(4-1)。このことは逆に言えば、日常会話ではない場面で人びとが言葉を交わす方法についても、それをあきらかにするために会話分析が貢献できることを意味している。つまり、日常会話でない場面での順番交替の方法や、その順番で発言がおこなわれる手続きを見ることで、その場面の特徴をとらえることができるのである。そうした観点から日常会話以外の場面を対象にした会話分析研究も数多くおこなわれている。 そうした研究の中でも、特に制度的な場面(教育、法、医療など)に焦点をあてたものは「制度的会話」の分析と呼ばれることがある。制度的会話には、一般的に、日常会話とは異なった特徴がある。 第一に、制度的会話ではいつ誰がどれくらい発言するかが、あらかじめ決まっている場合がある。たとえば授業であれば基本的に発言権は教師にあり、生徒が発言順番をとるためには教師に指名される必要がある。もちろん順番交替にどの程度の制約がかかっているかは制度によって異なる。 第二に、制度的会話では参加者がどのような行為をおこなってよいかがあらかじめ決まっている場合がある。たとえば法廷での尋問では、尋問する側には基本的に「質問」することしか許されておらず「議論」をおこなったりすることはできない。 第三に、制度的会話には多くの場合達成すべき課題がある。授業であれば知識の伝達、評議であれば判決を下すこと、医療であれば診断を下すことなどである。このことは会話の構造にも影響をもたらす。たとえば警察への緊急通報では、特に電話を受けた警察の側からすれば、実際に警官を派遣するかどうかを決めることが重要な課題となる。それゆえ、通報によって出動の「依頼」があってから、それに対して「受諾」もしくは「拒否」がおこなわれるまでのあいだに、しばしば状況を尋ねるための長い挿入連鎖(3-2-2-2)が起きる。 ほかにも修復(3-3)や表現の選択(3-5)の仕方、経験や知識に対する権利を主張する方法(3-4)などについても、日常会話との違いから制度的会話の特徴を考えることができる。 重要なのは、そうした特徴は、場面が制度的であることによって自動的にもたらされているのではないということだ(評議中や診療中であっても、ちょっと雑談をしたりするときには、そうした特徴は解除されるだろう)。むしろ、会話の仕方はそれ自体、その場面が制度的場面として成立していることの重要な一部分なのである。会話参加者がしかるべき仕方で会話をしないなら、制度は成り立たなくなってしまうだろう。
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