中枢神経系のリンパ管
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/17 03:17 UTC 版)
脳を含む中枢神経系においてリンパ系は存在しないものと多くの解剖学の教科書では記載されていた。しかし中枢神経系にも動脈から静脈への組織液の流れがあり、さらに常に免疫による監視を受けている。つまり、脳にもリンパ系の機能が備わっているにも関わらず、そのしくみがわかっていなかった。Nedergaardのグループはマウスのくも膜下に装着したカニューレを通して脳脊髄液に注入した蛍光物質が脳内でどう広がるかをライブイメージングの手法で検討した。その結果、脳内のグリア細胞がグリア・リンパ系(glymphatic system)をつくって、蛍光物質を脳内から除去していることを見出し、2013年にサイエンス誌に報告した。この発見の特記すべき点は、このグリア・リンパ系は眠っている時に活性化し、脳内に溜まった老廃物を除去しているということを見出したことである。脳脊髄液におけるAβタンパク質の病的滞留はアルツハイマー病発症の要因になることから、本研究の成果は睡眠による中枢神経系のリンパ系の活性化がアルツハイマ-病の予防に重要であることを予測している。しかしこの論文ではまだ脳内にリンパ管があることは想定していなかった。 2015年にKipnisとAlitaloのグループがそれぞれProxl-GFPレポーターマウスなどを用いてリンパ管が脳の髄膜に存在し、脳脊髄液から髄液と免疫細胞の両方を輸送できることを報告した。中枢神経系、角膜、毛髪、精巣、母体内の胎児は全身の免疫系から隔絶されているという免疫特権(immune privilege)という考え方があったが、中枢神経系に古典的なリンパ管システムが存在したことから見直しが必要である。また多発性硬化症などの様々な神経免疫疾患やアルツハイマー病のような神経変性疾患に髄膜のリンパ管の機能不全が関わっている可能性がある。
※この「中枢神経系のリンパ管」の解説は、「リンパ系」の解説の一部です。
「中枢神経系のリンパ管」を含む「リンパ系」の記事については、「リンパ系」の概要を参照ください。
- 中枢神経系のリンパ管のページへのリンク