POLY LIFE MULTI SOUL
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/15 06:19 UTC 版)
音楽性
本作は、前作『Obscure Ride』からのジャズやネオソウルを基軸にしたエクレクティックかつポエティックな日本語ポップスという基本路線は変わらず[3]、そこに、複数の打楽器、複数の鍵盤楽器、男女混声コーラスからなる、ポリリズムとポリフォニーが高度に融合したアフロ的なテイストが加わっており[2]、ライヴ・サポート陣も加わって練り込まれたバンド・アンサンブルがメロウなトーンを維持しながら全編をスムーズに聴かせるエクスペリメンタル・ポップアルバムとなっている[1]。
- Modern Steps
- イントロダクション的に置かれたアルバムの幕開けを飾る楽曲。前作におけるアブストラクトなR&B世界の色香を運び込みながらも、それを壊すように、橋本によるエレキ・ギターの鮮烈なコード・ストロークがアルバムの開幕を告げている[14]。この曲を作曲した荒内によると、ギターはフランク・オーシャンの「ムーン・リバー」をイメージにしていたという[15]。
- 魚の骨 鳥の羽根
- ポリリズムのポップ・ミュージック化を図った本作において、最大のテーマを象徴する楽曲[1]。ドラムスが叩き出すアフロ・ビート的リズムに乗りながら、太い筆致で塗りたくるシンセサイザーが現れ、歌メロディーと呼ぶには異様なまでに奔放な旋律が器楽音と錐揉みしながら空間を進んでいく[14]。
- ベッテン・フォールズ
- スネア・ドラムが叩き出すリズムにジャジーなギターとヴォーカルがポリリズミックなよじれを創り出しいる楽曲。コーラスがプリティなフレーズを添えている[14]。
- 薄闇の花
- ピアノの裏打ちがレゲエを連想させる楽曲[14]。「ベッテン・フォールズ」とBPMがほとんど同じだが、一転してジャジーで、しっとりとしたムードを演出している[15]。
- 遡行
- サポートを務める古川麦によるサンバのようなガット・ギターの流麗な響きが特徴的な曲。ここでもリズム隊はあくまで硬質なビートを提供している[14]。
- 夜になると鮭
- 髙城が、レイモンド・カーヴァーの詩の村上春樹訳「夜になると鮭は」を朗読するエレクトロ・ジャズ・ポエット[14]。
- Buzzle Bee Ride
- アルバム後半1曲目の楽曲。ふたたび太い筆致のシンセサイザーがうねり上がるなか、ダーティー・プロジェクターズを思わせる早いパッセージのコーラスが宙を舞っている[14]。"「魚の骨 鳥の羽根」と対になるもの"を念頭に、アフリカのリズム型のあるパターンを7拍子に変形させたカウベルのパターンにアフロ・ビートが混ざってくる展開が演出されている[16]。
- Double Exposure
- 美しい歌メロを伴う、前作からの流れを感じさせる楽曲。ブラック・ミュージックへのリスペクトが溢れる清涼な世界ではあるが、リズム・ボックスを思わせる素朴なビートが退場した後は、パルス的リズムとヒプノティックなドローンが交錯し[14]、後半のパートでは、関口のチェロを始め、田島のヴァイオリン、須原のヴィオラといったストリングスが取り入れられている[16]。
- レテの子
- キッチュなシンセの音色とフロアタムの連打によるジャングル・ビートがディープな薫りを発散させる曲。却ってその歌メロディーやリフレインはアルバムの中でも比較的ポップなものとなっている[14]。山下達郎の「アトムの子」が下敷きになっているという[16]。
- Waters
- シングルカットされた楽曲。曲中で走る複数のリズム、それぞれに持たせた異なる音楽のニュアンスがアングルによって変化し浮かび上がってくることで、トラップやステッパーダブ、またハウスやファンクのようにも聴こえる楽曲となっている[2]。
- TWNKL
- 「レゲエ・マナーというかステッパーみたいなリズムに、複雑な譜割の歌詞を乗せてみようと」作曲された楽曲[17]。そのアンビエント的R&B世界に関して、フランク・オーシャン以降における美意識との共振を指摘されている[14]。
- Poly Life Multi Soul
- タイトル曲にして終曲となる楽曲。これまでアルバムで開陳された様々な表情を総括するような8:36秒という長尺の楽曲となっている[14]。ライド・シンバルの響きが優しく空間を埋めながら、様々な音素が多レイヤー的に塗り込められている。アウトロでは、エレキ・ギターのストイックなフレーズを伴いながらリズム・パターンが4つ打ちへと変化し、フィジカル且つ祝祭的なハウス・ビートが出現する[14]。荒内はこれについて「通して聴いてここまで来て、4つ打ちが入ってきた瞬間に『あ、これってダンス・ミュージックのアルバムだったんだ』と気付いてもらいたかったんです。で、また1曲目から再生すると違った聴こえ方をすると思う。今作においてはそういう解決の仕方に落ち着いたっていうことです。」と述べている[17]。
注釈
出典
- ^ a b c “cero 『POLY LIFE MULTI SOUL』 洗練を極めたエクスペリメンタル・ポップ。かつてない深淵な世界が現れる”. Mikiki (2018年6月6日). 2021年2月1日閲覧。
- ^ a b c d e “ceroの傑作『POLY LIFE MULTI SOUL』を、5人のライターが語る 1/2”. cinra.net (2018年5月31日). 2021年2月1日閲覧。
- ^ a b c d “ceroの傑作『POLY LIFE MULTI SOUL』を、5人のライターが語る 2/2”. cinra.net (2018年5月31日). 2021年2月1日閲覧。
- ^ 「クロス・レヴュー」『ミュージック・マガジン』第50巻第8号、ミュージック・マガジン、2018年7月。
- ^ 「アルバム・レヴュー」『ミュージック・マガジン』第50巻第9号、ミュージック・マガジン、2018年8月。
- ^ 「クロス・レヴュー」[4]、「アルバム・レヴュー」[5]において5人の評者がつけた点数の平均値。
- ^ a b “POLY LIFE MULTI SOUL【初回盤A】cero”. オリコン. 2021年2月1日閲覧。
- ^ a b “Hot Albums 2018/05/28 付け”. Billboard Japan. 2021年2月1日閲覧。
- ^ “cero新作アルバムから「Waters」をアナログ化、sauce81のリミックスも”. 音楽ナタリー (2018年4月12日). 2021年2月1日閲覧。
- ^ “cero「Poly Life Multi Soul」をアナログ化、KEITA SANOのリミックスも”. 音楽ナタリー (2019年5月23日). 2021年2月1日閲覧。
- ^ “第8回CDショップ大賞2016 受賞作品”. 全日本CDショップ店員組合. 2019年12月25日閲覧。
- ^ a b c d e f “Interview Part.01”. POLY LIFE MULTI SOUL 特設サイト. 2021年2月1日閲覧。
- ^ a b c “cero『POLY LIFE MULTI SOUL』ダンス・ミュージックの自由度を拡張する魅惑のポリリズム”. Mikiki (2021年2月5日). 2021年2月1日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l “Album Review cero 『POLY LIFE MULTI SOUL』”. ele-king. 2021年2月1日閲覧。
- ^ a b “Part.02 INTERVIEWER 磯部涼”. POLY LIFE MULTI SOUL 特設サイト. 2021年2月1日閲覧。
- ^ a b c “Part.03 INTERVIEWER 磯部涼”. POLY LIFE MULTI SOUL 特設サイト. 2021年2月1日閲覧。
- ^ a b “Part.04 INTERVIEWER 磯部涼”. POLY LIFE MULTI SOUL 特設サイト. 2021年2月1日閲覧。
- ^ “CDショップ大賞”. 全日本CDショップ店員組合. 2021年2月1日閲覧。
- ^ “SPACE SHOWER MUSIC AWARDS 2018”. Space Shower Music. 2021年2月1日閲覧。
- ^ a b "特集[決定版]2010年代の邦楽アルバム・ベスト100"、MUSIC MAGAZINE、2021年3月号、株式会社ミュージック・マガジン
- ^ “Top Albums Sales About Charts [ 2018/05/28 付け ]”. Billboard Japan. 2021年2月1日閲覧。
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