Intel Atom Silvermont マイクロアーキテクチャ

Intel Atom

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/06 13:07 UTC 版)

Silvermont マイクロアーキテクチャ

第3世代のAtom向けマイクロアーキテクチャで、Atom向けとしては最初の機能強化版である。22 nmプロセスルール。Intel VT-x や AES-NI 対応など、サーバ向けの機能が強化されている製品もある。デスクトップ・ネットブック向けのチップは Atom ブランドではなく CeleronPentium のブランドで発売される。最初に発表された製品がサーバー向けで2013年9月4日発表。

Silvermontマイクロアーキテクチャは、Atomとしては初めてアウト・オブ・オーダー型の設計となった。命令デコード、リタイアは依然としてクロック当たり2命令であるが、整数×2、浮動小数点/SIMD×2、ロード/ストア×1の計5つの命令発行ポートを備え、クロック当たり最大5命令を順不同で発行可能である。これらの発行ポートは各々に独立したスケジューラ (リザベーション・ステーション) を備えており、IntelのマイクロプロセッサとしてはNetBurstマイクロアーキテクチャ以来の分散型のスケジューラを持つ構造となっている。従来のAtomマイクロアーキテクチャではロード+演算の型を持つCISC命令に対応するため、命令パイプラインの共通部分にL1Dキャッシュへのアクセス段を組み込み、キャッシュアクセスのレイテンシを隠蔽する構成を取っていたが、Silvermontではこれを廃し、独立したロード/ストアパイプをバックエンドに設けている。このため、パイプライン長は従来と比較して短くなり、整数演算命令における分岐ミス時のペナルティも13サイクルから10サイクルへと短くなっている。

5つのスケジューラのうち2つの整数スケジューラは完全なアウト・オブ・オーダーの実装になっており、オペランドが準備できた命令から発行可能である。一方で他の3つのスケジューラはプログラム順の発行しか許しておらず、スケジューラ内の最も旧い命令が発行されない限り他の命令の発行はできない。このため、浮動小数点演算/SIMD命令で順不同での発行が可能なのは、別のスケジューラに割り当てられた命令同士の組み合わせのみである。ロード/ストア命令に関してはスケジューラが1つしか存在しないため、同種の命令同士で順不同の発行は不可能であるが、可能な限り命令発行をブロックしないために2つの工夫が導入されている。1つはキャッシュミスに対するノンブロッキングな設計で、キャッシュミスが起きても最大8命令までは後続命令をブロックすること無く命令発行が可能である。もう1つはRehab Queueと呼ばれるサブ命令キューの設置で、TLBミスやアドレス計算に必要なオペランドが到着していない等の理由で命令が発行できない場合に、このRehab Queueにスケジューラから命令を追い出すことができる。これらの工夫により、ロード/ストアパイプはインオーダ型のスケジューラ1つでも命令の"詰まり"による性能低下が起こりにくい設計になっている。

Silvermontは2つのコアと1 MBのL2キャッシュで1つのモジュールを構成しており、モジュール間はIntra-Die Interconnect (IDI) と呼ばれるポイント・ツー・ポイント型のインターコネクトで結ばれる。従来は低速なFSBがコア間通信やDRAMアクセスのボトルネックとなっていたが、新アーキテクチャではこれを廃している。サーバ向けには最大8コア、タブレット/ネットブック向けには最大4コア、スマートフォン向けには最大2コアの構成が予定されている。いずれの場合も1コアで1スレッドを実行し、従来のようにハイパースレッディング・テクノロジーには対応しない。対応する命令セットはSSE4.1、SSE4.2、AES-NIなどが新たに加わっているが、2011年より同社のCore系のプロセッサに搭載されているAVXには対応しない。

Intelは前世代の32 nmのSaltwellマイクロアーキテクチャと比較して、シングルスレッドではIPCが50 %程度改善し、同じ消費電力で性能は2倍になると主張している。また、マルチスレッドではSilvermontの4コアで2コア4スレッドの前世代と比較してピーク性能が2.8倍、同じ消費電力の場合は性能が2.5倍になると主張している。

デスクトップPC向け (Bay Trail-D)

2013年11月発表。Cedar Trailの後継として登場。静音性 (ファンレス構造) や省エネ性を重視したタワー型デスクトップやA4型ノートにも搭載されるようになり、以前よりも用途が広がった。Atom の名を冠さず、CeleronPentium のブランドで発売される。

第3世代のAtom向けマイクロアーキテクチャSilvermontを搭載したCPU。22 nmプロセスルール。Intel VT-x や AES-NI 対応など、サーバ向けの機能も強化されている。Bay Trail-Dはデスクトップ向けでPentium J / Celeron J、Bay Trail-Mはノート向けでPentium N / Celeron Nとして販売される。

Bay Trail-D
プロセッサーナンバー CPU周波数 (GHz) コア数 キャッシュ TDP DDR3Lメモリ GPU EU数 GPU周波数 (MHz) 発売時期
Base Burst Base Burst
Pentium J2900 2.41 2.66 4 2 MB 10 W 1333×2 4 688 896 Q4'13
Pentium J2850 N/A 854 Q3'13
Celeron J1900 2.0 2.41 Q4'13
Celeron J1850 N/A 792 Q3'13
Celeron J1800 2.41 2.58 2 1 MB Q4'13
Celeron J1750 N/A 750 Q3'13

ノートPC向け (Bay Trail-M)

2013年9月発表。GPU は Intel HD Graphics。Intel NUCなどのミニPCでも使われている。

Bay Trail-M
プロセッサーナンバー CPU周波数 (GHz) コア数 キャッシュ TDP (W) DDR3Lメモリ 帯域 (GB/s) GPU EU数 GPU周波数 (MHz) 発売時期
Base Burst Base Burst
Pentium N3540 2.16 2.66 4 2 MB 7.5 1333×2 21.32 4 313 896 Q3'14
Pentium N3530 2.58 Q1'14
Pentium N3520 2.42 854 Q4'13
Pentium N3510 2.00 N/A 750 Q3'13
Celeron N2940 1.83 2.25 854 Q3'14
Celeron N2930 2.16 Q1'14
Celeron N2920 1.86 2.00 844 Q4'13
Celeron N2910 1.60 N/A 756 Q3'13
Celeron N2840 2.16 2.58 2 1 MB 311 792 Q3'14
Celeron N2830 2.41 313 750 Q1'14
Celeron N2820 2.13 2.39 756 Q4'13
Celeron N2815 1.86 2.13
Celeron N2810 2.00 N/A Q3'13
Celeron N2808 1.58 2.25 4.5 W 1333×1 10.66 311 792 Q3'14
Celeron N2807 1.58 2.16 4.3 W 313 750 Q1'14
Celeron N2806 1.60 2.00 4.5 W 756 Q4'13
Celeron N2805 1.46 N/A 4.3 W 667 Q3'13

タブレットPC向け (Bay Trail-T)

2013年9月11日発表。タブレットPC向け (Windows 8.1 や Android 対応)、Clover Trail の後継製品。Silvermont マイクロアーキテクチャ。プロセスルールは22 nm。GPU は PowerVR から第7世代 Intel HD Graphics (Ivy Bridge 世代) になり、DirectX 11, OpenGL 3.2, OpenCL 1.2 に対応。Intel 64, Intel VT-x, SSE 4.2 対応。H.263, H.264, VC1, Multiview Video Coding, VP8, Motion JPEG のハードウェアデコーダー、H.264 のハードウェアエンコーダー搭載。HDMI 1.4, DisplayPort 1.2, eDP 1.3, WiDi 出力対応。

Bay Trail-T
プロセッサーナンバー CPU周波数 (GHz) コア数 L2キャッシュ (MB) SDP (W) メモリ メモリ帯域 (GB/s) GPU EU数 GPU周波数 (MHz) 発売時期
Base Burst Base Burst
Z3680 1.33 2.00 2 1 2.0 LPDDR3-1066×1 8.5 4 311 667
Z3680D 2.4 DDR3L-RS-1333x1 10.6 313 688
Z3740 1.86 4 2 2.0 LPDDR3-1066×2 17.1 311 667 Q3'13
Z3740D 2.2 DDR3L-RS-1333×1 10.6 313 688
Z3770 1.46 2.39 2.0 LPDDR3-1066×2 17.1 311 667
Z3770D 1.50 2.41 2.2 DDR3L-RS-1333×1 10.6 313 688

Bay Trail Refresh

2014年3月発表。B2/B3 step (Z3xx0) から C0 step (Z3xx5, Z3xx6) に改良され GPU 周波数が向上している。

Bay Trail Refresh
プロセッサーナンバー CPU周波数 (GHz) コア数 2次キャッシュ SDP メモリ メモリ帯域 (GB/s) GPU EU数 GPU周波数 (MHz) 発売時期
Base Burst Base Burst
Z3735D 1.33 1.83 4 2 MB 2.2 W DDR3L-RS-1333×1 10.6 4 311 646 Q1'14
Z3735E 5.3
Z3735F 10.6
Z3735G 5.3
Z3736F 2.16 10.6 Q2'14
Z3736G 5.3 646
Z3745 1.86 2.0 W LPDDR3-1066×2 17.1 778 Q1'14
Z3745D 2.2 W DDR3L-RS-1333×1 10.6 792
Z3775 1.46 2.39 2.0 W LPDDR3-1066×2 17.1 778
Z3775D 1.49 2.41 2.2 W DDR3L-RS-1333×1 10.6 792
Z3785 LPDDR3-1333×2 21.3 313 833 Q2'14
Z3795 1.59 2.39 2.0 W LPDDR3-1066×2 17.1 311 778 Q1'14

スマートフォン/タブレット向け (Merrifield, Moorefield, SoFIA)

2014年2月24日発表、スマートフォン/タブレット向け、Clover Trail+の後継製品。Silvermontマイクロアーキテクチャ。プロセスルールは22 nm。Z34xx が Merrifield (メリーフィールド)、Z35xx が Moorefield (ムーアフィールド)。

Merrifield
プロセッサーナンバー CPU周波数 コア数 2次キャッシュ GPU GPU周波数 メモリ モデム
Z3460 1.60 GHz 2 1 MB PowerVR G6400 457 MHz LPDDR3-1066 8.528 GB/s XMM 7160 (LTE)
Z3480 2.13 GHz 533 MHz
Moorefield
プロセッサーナンバー CPU周波数 コア数 2次キャッシュ GPU GPU周波数 メモリ モデム
Z3580 2.33 GHz 4 2 MB PowerVR G6430 533 MHz LPDDR3-1600 2.8 GB/s
  • XMM 7160 (LTE)
  • XMM 6360 (HSPA+)
  • XMM 7260 (LTE-Advanced)
Z3570 2.00 GHz 640 MHz
Z3560 1.80 GHz 533 MHz
Z3530 1.33 GHz 457 MHz

SoFIA (ソフィア)

2015年3月2日発表[30]。プロセスルールは28 nmであり、インテル社外の半導体製造事業者が製造[31]x64 対応。このシリーズからモデル名がAtom x3/x5/x7の3種類に細分化され、そのうちAtom x3がこれに属する。

SoFIA
プロセッサーナンバー CPU周波数 コア数 2次キャッシュ GPU GPU周波数 メモリ モデム
x3-C3440 1.4 GHz 4 2 MB Mali T720 MP2 LPDDR2/3-1066 32bit×1 LTE
x3-C3230RK 1.2 GHz Mali 450 MP4
  • LPDDR2/3-1066 32bit×1
  • DDR3/DDR3L-1333 16bit×2
HSPA+
x3-C3230RK 1.0 GHz 2 1 MB Mali 400 MP2 LPDDR2-800 32bit×1

サーバー向け (Avoton)

2013年9月4日発表。Avoton (アヴァトン) が一般サーバー向け、Rangeley (レンジレイ) がネットワーク機器組み込み向け。Rangeley の方が製品の提供期間が長い (組込み機器向けオプションあり)。Silvermont マイクロアーキテクチャ。メモリは DDR3-1600 デュアルチャンネル (25.6 GB/s)。搭載メモリの最大容量は16 GB - 64 GB。プロセスルールは22 nm。Intel 64, Intel VT-x, SSE 4.2, AES-NI 対応。Rangeley は C2338, C2358 以外はバースト・ブースト・テクノロジー非対応。

Avoton (アヴァトン)
プロセッサーナンバー CPU周波数 (GHz) コア数 2次キャッシュ QuickAssistテクノロジー TDP 価格
Base Burst
C2350 1.7 2.0 2 1 MB × 6 W $43
C2530 4 2 MB 9 W $70
C2550 2.4 2.6 14 W $86
C2730 1.7 2.0 8 4 MB 12 W $150
C2750 2.4 2.6 20 W $171

組み込み向け (Rangeley)

Rangeley (レンジレイ)
プロセッサーナンバー CPU周波数 (GHz) コア数 2次キャッシュ QuickAssistテクノロジー TDP 価格
Base Burst
C2308 1.25 N/A 2 1 MB 6 W
C2316 1.5 7 W
C2338 1.7 2.0 ×
C2358
C2508 1.25 N/A 4 2 MB 9.5 W
C2516 1.4 10 W
C2518 1.7 × 13 W $75
C2538 2.4 15 W
C2558 $86
C2718 2.0 8 4 MB × 20 W
C2738 2.4
C2758 $171

  1. ^ インテル (2008年1月19日). “Intel Processor A100 and A110 on 90 nm Process with 512-KB L2 Cache Datasheet” (PDF) (英語). 2008年4月5日閲覧。
  2. ^ インテル (2006年6月27日). “Marvell To Purchase Intel’s Communications And Application Processor Business For $600 Million” (英語). 2008年4月5日閲覧。
  3. ^ Intel、22nm世代のAtom CPUコア「Silvermont」の詳細を公表
  4. ^ Atomシリーズを終了:Intel、モバイル向けSoC事業を廃止 (1/3) - EE Times Japan
  5. ^ Intel Quietly Launches Apollo Lake SoC: Goldmont CPU, 6 SKUs, 6 & 10 Watts
  6. ^ Intel Atom Processor Z5xx Series Datasheet - Apr 2008 Intel
  7. ^ IEEE Spectrum: The High-k Solution - Mark T. Bohr, Robert S. Chau, Tahir Ghani, and Kaizad Mistry - 2008
  8. ^ 疑似クアッドコアのAtom 330、消費電力が上昇:ニュース
  9. ^ 【特別企画】台湾ネットブック開発者インタビュー MSI編
  10. ^ インテル (2009年12月21日). インテル、次世代のインテル® Atom™ プラットフォームを発表。CPU にグラフィックスとメモリー・コントローラーを統合したインテル初のチップにより、消費電力の削減、システムの小型化、性能の向上を実現 - ウェイバックマシン(2010年8月5日アーカイブ分)
  11. ^ Technology@Intel · Deciphering Intel codewords for Mobile Internet Devices (MIDs)
  12. ^ Ittousai (2008年8月17日). “インテル、Centrino Atomブランドを捨ててAtomに一本化”. Engadget Japanese. 2008年8月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年2月5日閲覧。
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  15. ^ High frequency mode
  16. ^ 【PC Watch】 Intel、タブレット向けプロセッサ「Atom Z670」を発表
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  18. ^ 日経BP
  19. ^ インテル (2009年9月25日). “インテル、インターネット TV を実現する SoC 製品 インテル® Atom™ プロセッサー CE4100 を発表”. 2009年10月1日閲覧。
  20. ^ インテル (2009年9月25日). “Intel® Atom™ Processor CE4100”. 2009年10月1日閲覧。
  21. ^ intel社のページ
  22. ^ インプレス PC.watch「後藤弘茂のWeekly海外ニュース」
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  24. ^ Intel Atom Processor Z2760 Datasheet
  25. ^ MWC2011 IntelがAtom系列の32nm品「Medfield」のサンプル出荷を開始 - ニュース:ITpro
  26. ^ 2013 International CES:「Haswell」より重要かもしれない「Lexington」 (1/3)”. ITmedia PC USER (2013年2月27日). 2013年3月18日閲覧。
  27. ^ Intel Atom Microarchitecture for Tables and Smartphones
  28. ^ 【笠原一輝のユビキタス情報局】Clover Trail+と最先端プロセスを武器に前進するIntelスマホ事業 - PC Watch” (2013年2月27日). 2013年3月18日閲覧。
  29. ^ 【仮想化道場】 サーバー向けのAtomプロセッサが登場、2013年はマイクロサーバー元年となるか? -クラウド Watch
  30. ^ 【イベントレポート】Intel、3G/LTE統合型SoC「Atom x3 C3000」シリーズ - PC Watch
  31. ^ Intel,「Atom x7」「Atom x5」「Atom x3」の概要を発表。タブレット向けのAtom x7&x5は「Cherry Trail+第8世代グラフィックス」に - 4Gamer.net
  32. ^ Intel Marks 30 Years in China with New Products, Investments and Collaborations
  33. ^ 【イベントレポート】Intel、14nmのCherry TrailをAtom x7/x5として正式発表 ~GPUが大幅に性能向上 - PC Watch






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