日本版ESOP 日本版ESOPスキームの概要

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日本版ESOP

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2015/10/11 02:38 UTC 版)

日本版ESOPスキームの概要

 会社による金銭の給付に基づいて購入され、積み立てられた株式について、従業員が退職時等に清算給付を受けるもので、三菱UFJ信託銀行が開発したストック・リタイアメント・トラスト、および、みずほフィナンシャルグループが開発した株式給付信託(J-ESOP)がある[3]

 米国をはじめとする欧米諸国で制度化されているESOPと同様の、会社従業員に対する雇用者会社による株式給付と、これによる資本の分散所有を日本法上で実現することを目的とする退職給付型信託スキーム[4]である。(ESOPを参照。)

 このスキームは、米国のレバレッジドESOP[5]と類似の形態をとっているが、信託による借入は行わず、この代わりに給付予定資産の現金による前払い企業拠出によって運営されることを前提としたものであると説明されている。レバレッジドESOPでは、会社の将来資産を担保とした借り入れを行うため、債務不履行のリスクが生じるが、日本版ESOPでは前払い拠出を行ってしまうことから、給付資産の安全性が高い反面、会社の負担が大きいものとなっている。


信託の構成

 信託の形式は、退職給付信託や年金信託等と類似の、会社を委託者、退職従業員を受益者とする他益信託として設定される。会社は金銭の拠出のみを行い、将来の受益者たる従業員のために、信託が裁量によって株式を購入または売却するため、会社は将来の株価に対する危険を負担しない。これは、信託財産が拠出された時点で、前払い分も含めて従業員の財産となり、会社はこれに対する取戻権も別の財産との交換権も有しないことによる。また、会社は信託の委託者ではあるが、信託契約の変更権を単独では有せず、契約の変更には受益予定者である従業員(一義的には信託管理人)の指図を必要とする。

 一方の給付を受ける側の従業員は、株式購入資金を負担しないため、株価の変動によって受取財産額は変動するが、個人の財産が侵害されるおそれはない。[6]また、信託された株式にかかる議決権の行使または信託に対する株式売却要求等によって、給付財産の減価、会社の破綻等に対応する権利が信託管理人を通じて付与されている。

会計・税務関連

 米国ESOPと異なり、形式要件の適格性が定められた制度ではないため、個別の事例についてそれぞれ判断する必要があるが、経済産業省による「新たな自社株式保有スキームに関する報告書」において、考え方が示されることとなったことから、ある程度の想定の元に導入を検討することが可能である。

 退職給付型の会計処理については明示的な方針は示されていないが、会社における経済的効果は、確定拠出型年金・退職給付制度と同様であるため、これらと同様の処理となることが予想されている[7]

 税務に関しては、退職給付信託等と同様に、法人税法第十二条に規定される委託者課税の信託[8]と解釈されるのが一般的であるといわれている。

労働法関連

 現行法においては、賃金通貨払いの原則(労働基準法第二十四条)により、給与その他の賃金の一形態として株式を現物給付することができないと考えられるため、給付時点で権利の確定した株式を換金給付することが前提となるが、従業員の希望により株式のままで受け取ることも可能であると解釈されているようである。また、労働基準法第十一条でいう賃金に相当するとの解釈が成り立つため、既存の年金・退職給付制度を自動的にこのプランに移行することはできないとも考えられることから、年金・退職給付の制度変更、減額等とESOPの導入はそれぞれ別個の手続きで行われる必要がある。既往の給付制度を変更せずに導入する事例では、実質的に労働分配を増加させる効果がある。


  1. ^ インドでは、Employee Stock Option PlanをESOPと通称しており、米国などのESOP推進団体等の解説の多くには、この点についての注釈が付されている。
  2. ^ 株価が上昇した場合に限り、残余資産を分配するタイプのものが多いが、従業員の積極的要請に基づかないで会社が従業員の個人財産を流用することになるため、一部には社会的不公正であるとする批判がある。
  3. ^ 但し、三菱UFJ信託銀行は、こちらのスキームにはESOPの名称を用いず、ESOPとは異なる信託型従業員持ち株制度ESOPの名称を冠して取り扱っている。また、みずほ信託銀行も信託型従業員持ち株制度を取り扱っており、これにはESOPの名称を用いていないが、株式給付信託(従業員持株会処分型)というESOPと混同しかねない名称を用いている。
  4. ^ 平成22年3月現在、退職給付型スキームを提供しているのはみずほ信託銀行のみである。類似のスキームとしては、三菱UFJ信託銀行が以前提供していたストック・リタイアメント・トラストを挙げることもできる。これらの仕組みは、会社によるインセンティブ制度として導入され、スキームによって議決権行使に対する明示的な手続きの確保、長期安定性、従業員の権利保護等の手当てがなされるものとなっている。
  5. ^ 雇用者会社によって、従業員の口座に一定の金額を拠出する制度。株式の購入に借入を併用することができる。マネー・パーチェス年金(money purchase)の一種。
  6. ^ 会社破綻時には、予防的に株式売却等の早期処置がとられていることが望ましいが、信託は財産を換価したうえで、従業員の権利に基づいて残余の財産を分配する。給付確定分を分配してなお余りある場合には、あらかじめ規定したとおり従業員に対して平等に分配が行われることとなる。
  7. ^ 退職給付信託が、金銭的資産の保全を目的とすることから会社が資産の運用責任を免れえないのに対し、ESOPでは会社は資産拠出後の運用責任を負わないことから、より資産の独立性が高い(オフバランス性が高い)。
  8. ^ 受益者が存在する以前(受益者不確定あるいは不存在)の状態では信託の委託者である会社を課税対象者(みなし所有)とし、信託にかかる損益等を会社の損益等とみなす課税方法をとる。受益者が確定または存在する状態となった時点で、資産の移動があったものとされ、課税対象が委託者から受益者に移る。
  9. ^ 単に、会計は経済実態を表現しているだけで、会社が議決権行使に直接参加しないのであれば会社法上の自己株式としなくても良いという見解をとるものや、議決権を従業員が行使していれば問題ないとする見解がある。しかしながら、経済実態上自己株式とみなされる(自己株式として会計処理される)のであれば、議決権の所在とは無関係に、経済権である配当の支払いは停止されると考えるのが自然である。また、会社法においては自己株式の定義はなく、実態から自己株式であるかどうかを推定するほかないこと、第三百八条第二項においては「自己株式については、議決権を有しない。」とされていることからすると、そもそも議決権の有無が問題とされるのであって、従業員が行使できる議決権が存在するのかどうかが問題なのであり、議論の順序が逆ではないかとの指摘にも留意する必要がある。
  10. ^ 従業員持株会活用型スキームは、株価下落時に事後的な補填義務を会社が負うことで、スキームを成立させている。このとき、新株発行または自己株式処分による信託への株式拠出が行われた場合には、取締役会決議事項としての株式の発行・処分価額を事後的に引き下げる可能性を留保していることになる。将来的な株価下落により会社に対する払込資本が毀損するため、このスキームに対しては、株式の不公正(有利)発行の問題が指摘される。また、株式取得資金(信託借入金)の裏づけを実質的に会社が行っていることから、見せ金増資の問題も指摘される。このようないくつかの株式の不公正発行(処分)についての指摘がある。これらの指摘に対しては、会社が信託から適正な保証料を収受していれば問題はないのではないかとの整理がなされているようである。但し、この保証料は会社が当初信託する金銭から支払われるか、信託の借入によって賄われるため、会社自身が保証料を負担していることから、この整理自体が実質的には無意味であるとの指摘もある。
  11. ^ 井上真由美「日本の企業における従業員による企業統治の成立過程の研究 兼松史料をもとに」神戸大学研究実績報告書2005年、2006年
  12. ^ http://kanegold.com/page4a.html





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