西洋剣術 レイピア Rapier

西洋剣術

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/26 22:59 UTC 版)

レイピア Rapier

構造

突きに徹した剣であるものの、先端でのカット、あるいは引き、押しきりもできるよう両刃になっている。(後期では刃がなくなり突き専用のものもある)重さは1,2-1,5kg。剣身は長いものでは88cmほどある。拳をまもるヒルト部分は曲線で複雑なラインを構成するが、工芸的な美しさだけではなく、相手の剣の受け流しを計算に入れたものでもある。スェプトヒルトと呼ばれるものは∫状のフックがついており、これで相手の剣を絡め取ることができる。籠型ヒルトはかなり重い。そのご、登場したものはカップ型のヒルトである。半球形をしたヒルトは軽くて丈夫である。スモールソードになると剣は更に軽く、貝殻状のヒルトになる。

レイピアの剣は真っ直ぐで相当に長いが剣帯で吊ってあるので抜きやすい。また鞘を金属リングにかえると非常に抜きやすい。

右足を前、左足を後ろにして、肩幅に開く。前足のつま先は相手に対してまっすぐに向け、後足はそれに対して45度-90度の間で開く。上体は、頭上に風船があり上に引っ張られるようなイメージでまっすぐに立て(イタリア式は極端に前屈みになる)膝はロングソードなどよりやや強く曲げる。 ステップはフェンシングのようなリズミカルなホップはしない。足の裏全体を地面につける。日本の剣道がつま先よりなのに対してステップは踵から着地する。フェンシングと同じである。これは「歩く」が元になっている。

特にファント(ランジ)をするときは踵から着地すれば、その勢いを膝を曲げることでより前にだせるが、これをつま先から着地するとその時点で動きにストップがかかってしまう。

構え

右手は軽く肘を曲げ、手の甲を上にし、剣の指鐶に指を通して、ポンメルを手首の裏に当て、切っ先は相手の喉に狙いをつける。指を支点にポンメルは剣の重さで上に上がるため、剣先は下がらず、構えていても楽なのだ。この場合、刃は水平になる。イタリアではポンメルを手首に当てる持ち方はせず、刃は垂直にかまえる。

左手は頬の前に垂直に立てて、手を左右に振って顔面の防御をする。左腕を犠牲にして急所を守る。なお、剣の防御は近代フェンシングでは8番までだが、レイピアでは9番目まであり、その順序も異なっている。これらはカットがまだ残る古い型である。例えば5番は頭上に水平に構えるのだが、これは現在ではサーブルの頭へのカットに対しての防御に見られる。

また、イタリア式とフランス式では順序が異なる。たとえばイタリア式は腕を斜め上に伸ばし切っ先を斜め下(相手の中心)向けて1番、 切っ先の位置を変えず腕を右に2番、そのまま時計方向腕を下に3番、左に肘を反るようにして4番となる。

よくある誤解で、「レイピアは撓る」といわれる。これは競技フェンシングの剣ではある程度当てはまる。競技フェンシングは振込むことで先端が撓り、相手の背後を突く(正確には剣の先端を当てる)ことができた。しかし、これは競技テクニックであり生死を賭けるような剣術ではそのような攻撃はダメージを与えられない。また、撓ることで衝撃を逃がし安全になる。実際にレイピアはそれほど撓るものではない。撓ると先端がぶれ、正確で鋭い突きができないからである。 剣の見極めの一つに剣を持って拳で握った手を叩く。良い剣は中心部がぶれても先端はぶれない。悪い剣は先端が大きくぶれる。

間合い

シングル・レイピアは剣の中で最も間合いの長い部類に入る。突きを主体としているので剣先は必ず相手の体よりも内側を向いている。レイピアの間合いを考えるとき、このようなイメージを想像するとわかりやすい。自分の正面130cmほどのところに直径20cmほど厚さ十数cmほどの円盤が縦になって宙に浮いている。この円盤がもっとも有効な攻撃/防御ゾーンである。もちろん、強い踏み込みをすればこの円盤はもっと厚みが増え円筒形になるだろう。この攻撃/防御ゾーンが間合いである。この概念をほかの剣にもイメージすると、レイピアの防御/防御ゾーンが非常に小さいことがわかるだろう。これがレイピアの特性なのだ。もしダガーがあれば、ダガーの扇形をした、攻撃/防御ゾーンが自分の左側50cmほどのところにもう一つあるわけだ。相手を攻撃する場合、この防御/防御ゾーンをどのようにかいくぐるかが剣術テクニックといえる。

しかしイタリア式の間合いはかなり短い※

防御

レイピアは防御のテクニックである。したがって相手を殺傷するよりも自分の身を守ることが大切とされる。フェンシングでもこの考えは同様であり、判定はやられたほうをカウントし、結果的に自分が生き延びて勝ったとなる。 さて、フェンシングのフルーレと違うのはフェンシングはルール上、「攻撃権」というのがあり攻撃をするにいたって、相手の剣を防御し捉えなくてはならない。したがって剣の動きは肘を中心に扇状に動かし防御空間は肘を中心とし剣先は外を向く円錐状になる。相手の剣を捕らえて1、攻撃して2と2テンポにならざるを得ない。しかしレピア(フェンシングのエペも同様)では防御と攻撃は同時であるため、相手の剣を肘を押し当てるようにして防御し剣先は相手にむけた、逆円錐状になる。つまり防御したと同時に剣先はあいてに届いているわけだ。(この感覚はドイツロングソードに近い。) あなたが攻撃を受け、後ろに後退するとき最も良いのは、腕を左に切っ先を相手に向ける4番の構えだ。相手は追い討ちで突き返しをすると、自然にこのラインと重なる。 もうひとつはブロードソードでも使う1番の構えである。これは腕を上に、切っ先を相手の中心に向けたガードである。

攻撃

レイピアの主攻撃は突きである。フェンシングに特徴的な、体を伸ばしきって行う突きをファント(ランジ)といい、レイピアにおいても重要とされるが、現代フェンシングに比べると使用頻度は落ちる。

レイピアにおいてランジをする場合は、すぐに姿勢を戻すか他の姿勢を取らねばならないとされる。戻る場合には、前足で地面を蹴る。より距離を保つために、そのまま右足を交差させ後ろまで下がる場合もある。相手が下がった場合に更に前進する方法もあり、後足を前足まで引きつけ、もう一度ランジする。このときは腕を引く暇がないので、剣先を動かさず、肘を伸ばしたまま、肩と手首で角度を付け円錐状の空間を意識して角度をつけた突きをする。あるいは後ろ足を交差させ歩いて、相手の後退と共に小走りで追いかける形もある。

レイピアは、刃は鋭く両刃なので切ることもでき、裏刃のテクニックもある。たとえば、フェンシングのサーブル、バンデロールは、袈裟切りに切りつける寸前に腕を内転させ、剣先を下に向けることで、通常の斬りつけよりも早く相手に剣を届かせる方法である。

その他、通常の構えからは、手の甲を上にして切っ先を相手に向けている状態から、そのままの鳩尾や喉を狙っての突き、足を狙っての表刃の切り下げ、裏小手を狙っての裏刃の切上げ、などが可能である。

チボーのレピア剣術はまたスタイルがことなりシングルソードであった。かれは体や腕の長さを基準に剣の長さ、相手との距離、ステップの位置や歩幅などを分析して詳細な図形として表した。これはダ・ヴィンチのウィトルウィウス人体図のような感じで円とそれに接する正方形などを基準に数学的に間合いなどを解析してい る。当時の幾何学と西洋宇宙論に影響を受けており、また彼も人体と宇宙を関連づけて考えていたようだ。かれはその著書のなかでマスケット銃やツーハンドソード、シールド&ソードに対抗する手段などを残している。

ヴォルテ

レイピアにおけるカウンターの技術で、相手が踏み込んできた時、剣は相手の移動線上においたまま、体を捻って突きをかわすものである。フェンシングで時おりみられるダッキングはこれの変形で、剣を残したまましゃがみこむ。

相手が大きく踏み込んでくるのが見えたら、その相手の体の正面に切っ先を向け、左足は後ろから横へと移動させる。足の移動と身を捻る角度によって、デミ・ヴォルテ(45度)、ハーフ・ヴォルテ(90度)、フル・ヴォルテ(180度)の3種類がある。

フル・ヴォルテでは、左足が体を中心に元の位置とは反対の位置まで移動し、相手に完全に背中を向ける形になる。 手の平を上を向け、手首は剣と90度の角度をつけることで、踏み込んできた相手に切っ先を向ける。フル・ヴォルテはまた、後ろ向きにランジする形で、軸線をずらす攻撃としても使用される。

ヴォルテは片手剣でのみ使われる。ヴォルテは自分の軸を相手の中心からはずしつつ攻撃する。剣道には見られないとても西洋剣術的な動きである。

喧嘩的なテクニック

相手の剣をフックヒルトダガーで捉えるとそのまま捻りあげる。レイピアは指環のなかに指を通しているのですぐに離せない。そのままねじって指を折る。 腹に剣が刺さったら、そのまま膝でポンメルを蹴り上げ、更に深く突き刺し右に剣を押し上げる。

レイピアの間合いは遠いが攻撃は突きが主体だから、踏み込むことが多い。相手も同じタイミングで突きを出せば、あなたが基本に忠実に剣でそれを押しのけ防御したとしてもその間合いは一挙に縮まる。3m近い間合いが一挙にコンタクト・レンジまでになる。こうなると切っ先は外を向いているので動けない。ダガーがあればダガーが有効だが(まさにダガーをもつということは間合いが長短2つあることだ)なければ相手の腕をつかむのがもっとも安全な選択肢である。軽やかな剣技にみられるレイピアだが、実際には間合いが近づけば、護拳でなぐったり相手の腕をつかんで引き倒す、蹴り上げるといった荒っぽいものになることが多かったようだ。

左手

左手では、防御のためにダガー、剣の鞘、マント、帽子などを使った。

マントは相手の剣を振り払い絡めるほか、顔面に投げつけたり、マントの裏からマントごと剣を刺し通して相手から読まれにくい攻撃を行うこともできる。相手の構えた剣はあなたの前数十cmに剣先があり、この剣先にマントを乗せるだけでも片手で剣を持つ相手の握力はそれに耐えられず、剣先は下に向く。 自分の腕に巻きつけて、完全に盾や鎧などの防具としても使える。

マントは裾に重りを入れたり、裏と表をコントラストの強い配色にして相手の目を眩ませるなどの工夫がなされた。このマントは180度の開きを持つサークル型ものがよい。長さは羽織って手首が出る半マントである。あまり長く広いと重すぎるし払ったときのウェーブが裾まで届くのにタイムラグがある。 このマントを使う防御は闘牛士のマタドールが使うムレタの扱いに見られる。

ダガーは剣と並行に構えるのではなく、必ず角度をつけて持つ。相手に対しても 自分の剣に対しても45度位の角度をもち、パリーは肘を中心に扇状にカバーする。この時、左右の足は通常の構えとは逆に、左腕・左足を前にして短剣などを相手に向けても良い。 ランジの後、体を引く際には、ダガーを剣を引いた分だけ前に出して防御する。

ダガーの形状にはいくつかあるが、十手のようなヒルトを持つものはやや斜めに、船の帆型の手を防御するガードがついたものは垂直に立て腕を伸ばす。これはバックラーと同じと見てよい。すなわち、盾(この場合はダガー)の影を大きく取るのである。

レイピアの場合、最終的な攻撃は剣先が必ずこちらを向いている。したがって日本刀のように垂直・水平・斜めからの、斬り上げ・斬り下ろしのカットラインもある剣術よりも読みきりは容易である。日本古流の二刀流に比べると、さほど難しいものではない。 ダガーを持っている場合はあなたが集中するのは左のダガーである。右の剣ではない。とにかくダガーで防御することを考えよ。







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