藍藻 分類

藍藻

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/07 08:22 UTC 版)

分類

古くは、藍藻は最も"原始的な植物"と考えられ、藍色植物門 (藍藻植物、Cyanophyta)、藍藻綱 (Cyanophyceae) に分類されていた[228][229]。しかし葉緑体の共生説が一般的となり、藍藻と他の"植物"の直接的な類縁性は認められなくなった (ただし上記のように、細胞内共生・葉緑体を通してつながっている)。現在でも藍藻は藻類の一群として扱われることが多いが[10][3][5][9]、このような系統的異質性から藻類から除かれることもある (ただし藍藻を除いても藻類は多系統群である)[230][231]。 これらの分類群名は植物命名規約 (現 国際藻類・菌類・植物命名規約) に基づくものであり、原核生物である藍藻に対しては近年ではほとんど用いられない[注 9]。また古くは、粘藻綱 (Myxophyceae) や粘藻植物門 (Myxophta)、分裂藻綱 (Schizophyceae) という分類群名が使われていたこともある[3][232]

藍藻は原核生物であり、細菌 (バクテリア、真正細菌) ドメインに属する。細菌の中では、藍藻は比較的独立した系統群を形成しており、シアノバクテリア門 (藍色細菌門)(学名:Cyanobacteria) として扱われる。メタゲノム研究によって見つかった、藍藻に近縁な従属栄養性細菌群である"メライナバクテリア綱" (Melainabacteria) や"セリキトクロマチア綱" (Sericytochromatia) などは、シアノバクテリア門に含めて扱われることがあるが、その場合は光合成能をもつ藍藻はオキシフォトバクテリア綱 (Oxyphotobacteria)[注 2] にまとめられ、これらの非光合成細菌群と併置される[207][208]。ただし、シアノバクテリア門を光合成性のグループのみに限る考えもある[7]

藍藻は分類学的には細菌として扱うべきであるが、ほとんどの学名は植物命名規約 (現 国際藻類・菌類・植物命名規約) に基づいて提唱されており、国際原核生物命名規約の基で提唱された学名は少ない[233]

クロロフィル b をもつ藍藻 (原核緑藻) は、発見当初は原核緑色植物門 (Prochlorophyta) として藍藻とは別の門に分けられていた[234]。しかしその後の研究から原核緑藻は系統的に藍藻に含まれることが示され、現在では分類群名として原核緑色植物門を用いることはない。ただし「原核緑藻 (prochlorophytes)」という語は、一般名としてはしばしば用いられる。

他の藻類と同様、藍藻はその体制 (おおまかな体のつくり) に基づいて分類され、いくつかの目に分けられてきた[45][235][236] (下表)。細菌の分類の基準となっていた「バージェイ細菌分類便覧 (Bergey’s Manual) 第2版」でも基本的には同じ体系が用いられていた[110]

古典的な藍藻の分類体系の一例[11][110]
バージェイ細菌分類便覧 第2版 での分類 特徴 代表属
クロオコックス目 (Chroococcales)[注 10] subsection I 単細胞または群体性 Synechococcus, Synechocystis, Chroococcus, Aphanocapsa, Coelosphaerium, Merismopedia, Microcystis
プレウロカプサ目 (Pleurocapsales) subsection II 単細胞または群体性、内生胞子 (ベオサイト) 形成 Pleurocapsa, Chroococcidiopsis, Xenococcus
ユレモ目 (Oscillatoriales) subsection III 糸状性、異質細胞を欠く Oscillatoria, Phormidium, Lyngbya, Arthrospira, Planktothrix, Pseudanabaena
ネンジュモ目 (Nostocales) subsection IV 糸状性 (真分枝なし)、異質細胞あり Anabaena, Nostoc, Aphanizomenon, Cylindrospermum, Calothrix, Scytonema
スチゴネマ目 (Stigonematales) subsection V 糸状性 (真分枝あり)、異質細胞あり Stigonema, Hapalosiphon, Fischerella


しかし分子系統学的研究の結果、上記の分類群の多くは多系統群であることが判明しており、特に単細胞性と糸状性の間では頻繁な平行進化 (特に糸状体から単細胞体への進化) が起こったと考えられている[237][236]。2019年現在までに報告されている分子系統解析の結果に基づくシアノバクテリア門内の系統仮説の1つを下に示す。

シアノバクテリア門

"セリキトクロマチア綱"[注 1]

"メライナバクテリア"[注 1]

オキシフォトバクテリア綱

グロエオバクター目 (Gloeobacter)

クレード G (Octopus Spring clade) (e.g. "Synechococcus" PCC7336, JA-3-3Ab)

●■クレード F (e.g. Pseudanabaena, "Synechococcus" PCC7502)

グロエオマルガリータ目 (Gloeomargarita)

葉緑体 (色素体)

クレード E (AcTh) (e.g. Acaryochloris, Thermosynechococcus)

●■Prochlorothrix クレード (e.g. Nodosilinea, Lagosinema, Prochlorothrix)

クレード C1 (SynPro) (e.g. Prochlorococcus, "Synechococcus" WH8102)

クレード C2 (Synechococcus s.s.) (Synechococcus elongatus)

●■クレード C3 (LPP-B) (e.g. "Synechococcus" PCC7335, "Phormidium" NIES-30)

クレード D (e.g. "Geitlerinema" PCC 7407, Leptolyngbya PCC 6306)

Geitlerinema PCC 7105 クレード

クレード A (Osc) (e.g. Trichodesmium, Arthrospira, Planktothrix)

●▲■クレード B2 (SPM) (e.g. Pleurocapsa, Microcystis, "Synechocystis" PCC 6803)

Moorea クレード

●■クレード B3 (e.g. Crinalium PCC 9333, Chamaesiphon PCC 6605)

●▲クロオコッキディオプシス目 (e.g. Chroococcidiopsis, "Synechocystis" PCC 7509)

ネンジュモ目

藍藻の系統仮説の一例 (基本的にゲノム塩基配列情報が明らかなもののみ). いくつかの系統解析結果に基づく[227][38][238][239][114][240][208]. = 単細胞・群体 (旧クロオコックス目)、 = 単細胞・群体、内生胞子あり (旧プレウロカプサ目)、 = 糸状性 (旧ユレモ目)、 = 糸状・異質細胞あり (旧ネンジュモ目・スチゴネマ目).

2019年現在、このような系統関係を完全に反映させた分類体系は提唱されていない。また、分子系統解析が行われた藍藻は、いまだごく一部に限られている[12]。そのため、藍藻の分類体系構築に関しては過渡的な状況にある。2019年現在、形態形質およに分子情報に基づく分類体系として、Komárek et al. (2014) をもとにした目レベルの分類体系を以下に示す[241][242][243]。また藍藻の分類においては、属レベルでも非単系統性 (ときに下記の分類体系において複数の目に分かれるほどの) が示されているものが少なくない (SynechococcusSynechocystisLyngbya など)[244]。これらの属の一部に関しては、ゲノムレベルでの分子系統解析に基づいて多数の属に分けることが提唱されている[114][245]

Komárek et al. (2014) による藍藻の分類体系[241] (その後に報告されたグロエオマルガリータ目を付加)
  • グロエオバクター目 Gloeobacterales Cavalier-Smith, 2002
    単細胞性。チラコイドを欠く (光化学系細胞膜に存在する)。藍藻の中で最も初期に分かれたものであることが示されている。グロエオバクター綱 (Gloeobacteria) として他の藍藻と分けられることがある[246]
    代表属:グロエオバクター属 (Gloeobacter)
  • グロエオマルガリータ目 Gloeomargaritales D.Moreira et al., 2017
    単細胞性。細胞内に炭酸塩の顆粒を含む。アルカリ湖沼に生育。真核生物色素体 (葉緑体) に最も近縁な藍藻であることが示唆されている[227]。シネココックス目に含めることもある[243]
    代表属:グロエオマルガリータ属 (Gloeomargarita)
  • シネココックス目 Synechococcales L.Hoffmann, J.Komárek & J.Kastovsky, 2005
    単細胞、群体または糸状性 (細いものが多い)。チラコイドは細胞膜に沿って同心円状に配置する。おそらく非単系統群であるが、藍藻の中で初期に分岐したものが多い。糸状性のものをプセウドアナベナ目 (Pseudanabaenales) として分けることがある[236][6]
    代表属:シネココックス属 (Synechococcus)、シアノビウム属 (Cyanobium)、プロクロロコックス属 (Prochlorococcus)、アカリオクロリス属 (Acaryochloris)、シネコキスティス属 (Synechocystis)、メリスモペディア属 (Merismopedia)、コエロスファエリム属 (Coelosphaerium)、カマエシフォン属 (Chamaesiphon)、プセウドアナベナ属 (Pseudanabaena)、プロクロロトリックス属 (Prochlorothrix)、リムノスリックス属 (Limnothrix)、レプトリングビア属 (Leptolyngbya)
  • ユレモ目 Oscillatoriales Schaffner, 1922
    糸状性で比較的太いものが多い。単細胞性の種も含まれる。チラコイドは放射状または不規則に配置する。おそらく非単系統群。
    代表属:シアノテーセ属 (Cyanothece)、ユレモ属 (Oscillatoria)、フォルミディウム属 (Phormidium)、プランクトスリックス属 (Planktothrix)、アルスロスピラ属 (Arthrospira)、リングビア属 (Lyngbya)、ミクロコレウス属 (Microcoleus)、アイアカシオ属 (Trichodesmium)
  • スピルリナ目 Spirulinales J.Komárek, J.Kastovsky, J.Mares & J.R.Johansen, 2014
    糸状性。同心円状のチラコイド配置をもつことからシネココックス目に分類されていたが、同目の他の種とは系統的に離れているため独立の目とされた[241]
    代表属:スピルリナ属 (Spirulina)[注 11]、ハロスピルリナ属 (Halospirulina)
  • クロオコックス目 Chroococcales Schaffner, 1922
    単細胞または群体性。チラコイドは同心円状ではなく、多少とも不規則に配置。おそらく非単系統群。
    代表属:クロオコックス属 (Chroococcus)、シアノバクテリウム属 (Cyanobacterium)、ミクロキスティス属 (Microcystis)、クロログロエ属 (Chlorogloea)、ゴンフォスファエリア属 (Gomphosphaeria)、グロエオカプサ属 (Gloeocapsa)
  • プレウロカプサ目 Pleurocapsales Geitler, 1925
    単細胞または群体性。内生胞子 (ベオサイト) 形成を行う。チラコイドの配置は不規則。1つの系統群を形成するものが多いが、一部は系統的に離れており非単系統群。
    代表属:シアノキスティス属 (Cyanocystis)、ヒエラ属 (Hyella)、クセノコックス属 (Xenococcus)、プレウロカプサ属 (Pleurocapsa)
  • クロオコッキディオプシス目 Chroococcidiopsidales J.Komárek, J.Kastovsky, J.Mares & J.R.Johansen, 2014
    単細胞または群体性。内生胞子 (ベオサイト) 形成を行う。チラコイドの配置は不規則。プレウロカプサ目に分類されていたが、分子系統解析からネンジュモ目の姉妹群であることが示唆されている。
    代表属:クロオコッキディオプシス属 (Chroococcidiopsis)、アリテレラ属 (Aliterella)
  • ネンジュモ目 Nostocales Borzì, 1914
    糸状性 (無分枝、分枝)。異質細胞やアキネートを形成する。藍藻の中で明瞭な単系統群を形成する。伝統的に、真分枝するものはスチゴネマ目として分けられていたが、系統的にはネンジュモ目の中に含まれることが示されている。
    代表属ネンジュモ属 (Nostoc)、アナベナ属 (Anabaena)、ドリコスペルマム属 (Dolichospermum)、アファニゾメノン属 (Aphanizomenon)、シリンドロスペルマム属 (Cylindrospermum)、トリポスリックス属 (Tolypothrix)、ミクロカエテ属 (Microchaete)、カロスリックス属 (Calothrix)、スキトネマ属 (Scytonema)、ハパロシフォン属 (Hapalosiphon)、スチゴネマ属 (Stigonema)

注釈

  1. ^ a b c d 光合成能をもたない。シアノバクテリア門には含めないこともある[7]
  2. ^ a b この名はまだ一般的ではなく、植物命名規約に基づく「藍藻綱 (Cyanophyceae)」が暫定的に用いられることがある[8]
  3. ^ 目レベルの分類は過渡的であり、必ずしも系統を反映していない (本文参照)。
  4. ^ 2019年現在、高等学校の教育指導要領や、高等学校の生物教育における重要用語の選定について では、「シアノバクテリア」が選定されている。
  5. ^ 補色適応 (chromatic adaptation) ともよばれる[5][78]
  6. ^ ヘテロシスト (heterocyst) ともよばれるが、一般的な意味でのシスト (休眠細胞) ではない[91]
  7. ^ これらの藍藻はいくつかの属に分けることが提唱されている[114]。ただし2019年現在、これらの新しい属名は一般的ではない。
  8. ^ アナベナ属 (Anabaena) とされていた藍藻のうち、プランクトンとしてふつうに見られる種の多くは、ドリコスペルマム属に移されている[120]
  9. ^ ただし2019年現在、原核生物の分類体系では、藍藻を分類する一般的な綱レベルの分類群名がないため、藍藻綱 (Cyanophyceae) が暫定的に用いられることがある[8]
  10. ^ 外生胞子 (エクソサイト) を形成するものはカマエシフォン目 (Chamaesiphonales) として分けられることもあった[10]
  11. ^ 一般的に「スピルリナ」とよばれる藍藻は Arthrospira に属する[189] (この分類体系ではユレモ目)。

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