租税条約 租税条約の歴史

租税条約

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/24 15:00 UTC 版)

租税条約の歴史

租税条約は、歴史的には、多数の国家が地続きで接するヨーロッパ諸国で先ず発展した。当初は、国内税制が各国でかなり異なっていたために条約のフォーマットも必ずしも共通ではなく、ごく一部の税目のごく一部分だけが取り上げられていたに過ぎない。しかし、第1次世界大戦ののち、欧州の復興、戦争回避のためには国際経済を発展させ各国が経済的に相互依存することが重要であると考えられるようになり、国際連盟は設立当初から、そのための方策を検討し始めた。米国は、そのような動きが自国の利益に適うと考えたためか、ロックフェラー財団が資金を拠出し、当時連邦財務次官を退官した直後のM.B.Carolを団長とする税制調査団を国際連盟に組織させ、当時の加盟国(米国は非加盟国であった)の国内税制を調査した。その成果を取り入れた国際機関初のモデル租税条約草案が1928年に公表された。しかし、この草案は、事業所得だけを対象としているという範囲の狭さや、人税、物税という当時の税目の分類方法に依存し、また、子会社と支店を同じ恒久的施設に分類するなどの問題点があったために採択されなかった。

租税条約の法的効果

日本においては締結された租税条約は国内法に優先して効力を有する。この優先の意味は、国内法の効力の一部を減殺するということである。租税条約が国内法よりも優先的な効力を有するからといって、そのような条約が国内において直接適用されるとは限らず(いわゆる、自力執行条約の問題)、租税条約の規定の中には直接適用が可能な規定と、直接適用ができず条約の国内的執行のための国内法が必要であると考えられる規定とが混在している。たとえば、租税特別措置法66条の4(移転価格税制)は、OECDモデル条約でいえば9条にあたる特殊関連企業条項の国内的執行のための規定であると解される(すなわち、9条は自力執行できない規定であると解される)。

また、租税条約は、当事国間の二重課税の防止、租税回避脱税の予防のための条約であるから、租税条約だけを根拠として課税することはできない。租税条約は、国内法上課税しうることを前提に、二重課税排除を目的に当事国間で課税権を譲歩し、二重課税を排除することを目的とする。これは、上述の租税条約と国内租税立法の効力関係とは無関係である。

アメリカ合衆国連邦憲法の下では、合衆国連邦憲法が最高法規であって、連邦議会制定法も対外条約も連邦憲法に劣位し、制定法と条約は対等の関係にある。従って、仮に租税条約を締結した後にその租税条約の恩典効果を減殺させるような国内立法がなされた場合には、後法優先の原則によりその国内法がそのまま適用されてしまういわゆる条約のオーバーライドの問題がある。これは、コモンロー諸国に見られる現象ではなく、アメリカ合衆国連邦憲法に固有の現象であって、英国では国会主権原理の下、内閣が締結した条約を国内で執行するためには国内立法が必要であるとの、国内法と条約の二元論に基づく個別的受容方式がとられている。コモンロー諸国だからといって条約の国内法上の位置づけは同じではない。

モデル条約

実際に効力を有する租税条約ではなく、加盟国間での租税条約締結の雛型として国際機関が立案した代表的なモデルとして、OECDモデル条約 (Model Double Taxation Convention on Income and Capital )や国連モデル条約 (United Nations Model Convention for Tax Treaties between Developed and Developing Countries )、がある。前者は、先進国同士のモデル、後者は先進国と途上国間のモデルであり、後者は源泉地国である途上国の課税権により配意した内容となっている。また、欧州共同体は1960年代に欧州共同体モデル租税条約の草案を公表していた。さらに、OECDは相続税(遺産税)についてもモデル租税条約を公表している。ASEANも独自のモデル条約を有する。

また、アメリカ合衆国、メキシコ、マレーシア、オランダ、ベルギーなどでは、独自に自国の租税条約締結方針を明らかにするため、モデル条約を公表しているが、モデル租税条約を公表する国は増加傾向にある。


  1. ^ 我が国の租税条約ネットワーク”. 財務省. 2024年2月24日閲覧。
  2. ^ 日本と台湾中華民国)は国交がないため民間団体である日本台湾交流協会亜東関係協会との「民間租税取決め」だが、実質的には租税条約
  3. ^ [手続名]特典条項に関する付表(様式17)”. 国税庁. 2019年7月23日閲覧。
  4. ^ 日独租税協定の改正について(PwC税理士法人)






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