科学学術雑誌 掲載基準とインパクトファクター

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科学学術雑誌

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/11 05:42 UTC 版)

掲載基準とインパクトファクター

ジャーナルが出版可否を決めるうえでの基準は、誌によって広く異なる。ネイチャーやサイエンス、米国科学アカデミー紀要フィジカル・レビュー・レターズ英語版といった論文誌は特にその分野で根本的なブレイクスルーを起こす論文が掲載されるとされている[25]。多くの分野で科学学術雑誌間の公式・暗黙のヒエラルキーが存在し、その分野で最も権威があるとされる論文誌はどの論文を載せるかにおいて特に選択的で、多くの場合その分野で最も高いインパクトファクターを持っている。国によってはジャーナルのランクが資金提供の決定に利用されることもあり、個々の研究者の評価でさえ資金提供の判断において軽視されることもある[26]

再現性と複製可能性

科学学術雑誌において、科学的結果の再現性と複製可能性は、他の科学者が論文に記載されているのと同じ条件下で結果が再現できることを確認することを可能とする中心的な概念である。論文内に書かれた詳細事項だけで結果を再現できると期待されてはいるが、実際は出版のために第三者による再現の有無が求められることは一般的ではない[27]。したがって、記事における結果の再現性は、報告された手順の質やデータの一致から暗黙のうちに判断される。

しかし、オーガニック・シンセシズインオーガニック・シンセシズ英語版などの化学分野のいくつかのジャーナルは、査読プロセスの中で独立した実験による結果の再現を求めている。独立した実験で論文中の結果を再現できないケースは広く広まっており、調査によっては70%の追試者がほかの研究者の実験結果を再現できなかったと報告しただけでなく、その半分以上のケースではその自分の追試実験結果を再び再現することもできなかったと報告されている[28]。再現失敗の原因は様々であり、出版された内容が改ざんされていたか誤っていたパターンや、手順の公開が不十分だった例などがある[29]

記事の種類

世界最初の科学専門誌であるフィロソフィカル・トランザクションズの創刊号表紙

科学学術雑誌の記事には、正確な呼称と定義には分野やジャーナル間で違いがあるものの、主に以下のような種類がある。

  • レター論文(コミュニケーションとも呼ばれる。編集者とのやり取りの手紙のレターとは別のもの。)- 最新の重要な研究についての発見を短く速報的に伝えるもので、緊急性が高いとされるため迅速に査読・出版がなされる。
  • リサーチノート - 現在の研究内容についての短い記述で、レター論文よりも重要度の低いもの。
  • 原著論文 - 著者による現在の独自の研究による発見が書かれた一般的なタイプで、通常5ページから20ページで書かれるが分野による分量の違いも大きく、数学理論計算機科学では80ページを超えることも珍しくない。
  • 補足論文 - 現在の研究で得られたデータを主論文への補足として表のように列挙したもので、数値データが数百ページにわたって記載されることもある。そのためいくつかのジャーナルではウェブ上で電子的にしか公開していない。補足情報には、日常的な手順の説明、方程式の解法、ソースコード、不可欠でないデータ、その他雑多な情報など、主論文には適さない大量の資料がここにまとめられる。
  • 総説論文 - 独自の研究ではなく特定のトピックについての多くの異なる研究を集めてまとめた論文。トピックに関する情報だけでなく、取り上げた原著論文の引用元についての情報も提供する。内容は1つのストーリー仕立てになっていることもあれば、メタアナリシスの手法によって量的な推定値を具体的に求める場合もある。
  • データ出版英語版 - データセットを説明するための論文記事。この種の記事は人気があるため、サイエンティフィック・データ英語版のような専門のジャーナルも設立されている。
  • ビデオ論文 - 近年科学出版の中に新しく加わった形式。多くの場合、新しい技術やプロトコルのオンライン動画によるデモンストレーションと、従来通りの厳格な文書が組み合わさっている[30][31]

記事の形式は様々だが、多くの場合ICMJE勧告英語版によるIMRAD方式が踏襲されている。この方式ではアブストラクトと呼ばれる1~4段落での論文の要約から始まり、導入部で類似研究についての議論も含めた研究背景が説明される。その後方法の節で実際にどのように研究が行われたかを説明し、その研究の結果と意味が結果・議論の節に記される。最後に結論部で研究の結論や今後の発展についての展望が記述される[32]

これに加え、サイエンスなどのいくつかの科学学術雑誌では、政治的問題も含めた科学の発展についての話題を取り扱うニュースのセクションがある。この記事は科学者ではなく科学ジャーナリストが執筆する[33]。さらに誌によっては編集者によるセクションや編集者への手紙を扱うセクションもあるが、これらの記事は査読を受けないため科学学術雑誌に掲載されていても、業績の上では科学学術雑誌の記事とは扱われない。


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