桶川ストーカー殺人事件
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影響
- 「ストーカー規制法」の創設
- 本件の発生をきっかけとしてストーカー対策の整備は急速に進み[61]、2000年5月18日には国会において「ストーカー行為等の規制に関する法律」が成立、11月24日に施行された[16]。
- しかしその後も何件かのストーカー殺人事件が発生している。2012年11月には神奈川県逗子市の女性が殺害された(逗子ストーカー殺人事件)。この事件では犯人が被害者へ嫌がらせの電子メールを1000通以上送り続けていたが、「ストーカー規制法」に電子メールでの連絡を禁止する規定がなく、警察が立件を見送ったことが法律の不備として問題視された[62]。この規定がなかったのは、2000年当時に電子メールが一般に浸透していなかったためであるともされる[62]。また、2011年12月にストーカー被害を受けていた女性の家族2名が殺害された長崎ストーカー殺人事件では、警察が規制法を適用せず緩慢な動きに終始した結果、殺害に至ったとの指摘がある[63]。
- 栃木リンチ殺人事件の国賠訴訟
- 被害者遺族が桶川事件と同趣旨の国家賠償請求訴訟を起こし、2006年4月に地裁判決で警察の捜査怠慢と被害者殺害の因果関係が認定された栃木リンチ殺人事件は、桶川事件の遺族の姿に意を強くして訴訟に踏み切ったものだった[64]。桶川事件被害者の母親は栃木事件の地裁判決に寄せて「ちゃんとした判決を出せる裁判長もいることを、娘に報告したい」と述べた[64]。両遺族は互いの裁判を頻繁に傍聴しながら交流を深めており、母親は「同じような戦いをやった人間でないと分からないものがある。普通に暮らしていれば、会うこともなかったのにね」と語っている[64]。
- 上尾署員の処分に関わる副次的事件
- 2000年10月7日、埼玉県警警視の住むマンションの玄関扉外側から出火。県警は別の脅迫容疑で逮捕されていた巡査部長を放火容疑で再逮捕した。警視は桶川事件当時の上尾署刑事生活安全担当次長で、告訴取り下げや告訴状改竄を直接、間接に指示し得る立場にあった人物である。また逮捕された巡査部長は桶川事件当時上尾署の刑事であり、さらに最初の逮捕容疑となった脅迫事件の被害者も当時の上尾署員だった。容疑者は刑事から交番勤務に左遷されていたことから、恨みによる犯行とされた。一方で容疑者は、桶川事件では最初に被害者の女子大生に応対し、相談内容の深刻さに同情して当初は熱心に話を聞いてくれていたという。容疑者は有罪判決を受け服役中に自殺した。またこの放火事件への対処に不信感を表明した別の刑事ものちに自殺している[65]。
- 警察の「民事不介入」について
- 警察の「民事不介入」名目の怠慢が事件を引き起こしたとされ、国の警察刷新会議は2000年、この原則にとらわれないよう提言を発表した。しかしその反動で警察による行き過ぎた民事介入が顕著化していると、月刊誌『ZAITEN』2009年4月号が指摘した[66]。
注釈
出典
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- ^ a b c 『朝日新聞縮刷版』2003年2月、pp.1343
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- ^ 週刊文春2003年5月29日号『「消えない謎 桶川ストーカー事件」捜査員連続自殺の怪』
- ^ 森史雄「桶川ストーカー殺人事件10年目の呪縛 民事トラブルに積極介入する埼玉県警の「大暴走」」『ZAITEN』第53巻第4号、2009年4月1日、134-135頁。
- ^ a b 片岡健 (2013). “ストーカー首謀者の兄「知られざる冤罪疑惑」”. 冤罪File 19: 114-117.
- ^ 片岡, 健 (2015年11月3日). “衝撃取材! 桶川ストーカー殺人:黙殺された「新証言」と冤罪を訴える「主犯格」の手紙。近い将来、大逆転劇か?”. TOCANA. 2021年8月13日閲覧。
- ^ 久保田祥史・片岡健『桶川ストーカー殺人事件 実行犯の告白 Kindle版』(KATAOKA、2019年)
- ^ 久保田祥史・片岡健『もう一つの重罪 - 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』( リミアンドテッド 、2020年)
- ^ a b 進藤(2007)pp.406-407
- ^ a b 進藤(2007)pp.415-416
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