安全 学問

安全

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/03/28 04:37 UTC 版)

学問

安全問題を扱う学問としては安全学安全工学がある。2000年2月に、日本学術会議より「安全に関する緊急特別委員会報告」において、社会の安全をより確実なものにするために、従来の安全工学的なアプローチを拡大して、より広い立場からの「安全学」を構築することが提案された[16]。 なお、関連する学問として失敗学もある。オーストラリアに本部を置き、米国、メキシコ、オランダ、ベルギーなどに支部を持つ経済平和研究所によると、安全な国は一人当たりのGDPが高く、インフレが比較的低く、腐敗が少なく、資源配分の不平等が少ないなど、多くの面でプラスの効果があると言われている[17]

リスクマネジメント

安全(許容できないリスクがない)を実現するためには、以下のステップを繰り返す必要がある[1][2][18][19]

  1. リスク対象の定義
  2. リスクの見積もり
    (上記2つを「リスク分析」という。)
  3. リスクの評価
    (上記3つを「リスクアセスメント」という。)
  4. そのリスクが許容できるか判定
  5. リスク対応・・・・・そのリスクが許容できない場合はリスクを許容できるまで低減・回避
    (リスクアセスメントとリスク対応を合わせて、リスクマネジメントという。)

リスクの特定手法およびリスク分析手法には、トップダウン手法ボトムアップ手法がある。「モノづくり」の安全分野において、トップダウン手法としては、一般的なFTA (フォルトツリー解析) や、原子力分野で使われているETA (事象の木解析イベントツリー解析) などがある。ボトムアップ手法としては、FMEA(故障モード影響解析)などがある。

リスクの許容判定方法では、一般には影響の大きさと、影響の頻度から求める。 影響の大きさとしては人を基準にして多数死傷〜軽症、頻度としては隕石で死ぬ頻度から、交通事故ぐらいまでで考える。対象分野によっては、回避性などを考慮する場合がある。

リスク対応では、そのリスクが許容できない場合はリスクを許容できるまで低減・回避させる。低減方法には、本質安全と機能安全などがある。

安全文化

安全文化[20] (あんぜんぶんか、:safety culture)の概念は、『国際原子力機関(IAEA)の国際原子力安全諮問グループ(INSAG)が、旧ソ連のチェルノブイリ原子力発電所事故に関しとりまとめた「チェルノブイリ事故の事故後検討会議の概要報告書」(INSAG-1、1986)において取り上げられ、その後国際的な場で広く議論されるようになった』 [21]

日本の現場で頻繁に用いられている緑十字。日本での安全のシンボル。
日本人が現場で好んで掲示する「安全第一」のサイン。日本の文化のひとつであり、安全性の向上に貢献してきた。

日本国内における安全文化と、欧米での安全文化は異なる、と言われている。日本では「人の努力」や「メンテナンス」、「改善」によって安全を担保しようとするのに対し、欧米では「人はミスする」「機械は壊れる」という前提に立って安全を考える[4]。 日本の安全文化は「性善説」で、欧米の安全文化は「性悪説」と見なすことができる [22]。 日本では発生件数を減らすという点を重視しており、欧米では重大災害が起こらないという点を重視している[4]


注釈

  1. ^ フランス語のsécuritéの第一義は日本語の「安全」とほぼ同じ意味である。Situation dans laquelle quelqu'un, quelque chose n'est exposé à aucun danger, à aucun risque, en particulier d'agression physique, d'accidents, de vol, de détérioration http://www.larousse.fr/dictionnaires/francais/s%C3%A9curit%C3%A9/71792?q=s%C3%A9curit%C3%A9#70996  ある人やあるものがいかなる危険やリスクにもさらされていないことであり、特に物理的な侵害や事故や窃盗や劣化などにさらされていない状態のこと。(安全を守ること、とはしていない。保安ではない。)フランス語のsécuritéは「保安」という意味ではない。

出典

  1. ^ a b c d ISO/IEC GUIDE 51:2014
  2. ^ a b c d 向殿政男「ISO/IECガイド51:2014 改訂について」2014
  3. ^ イザヤ・ベンダサン著『日本人とユダヤ人』
  4. ^ a b c d e 向殿政男「日本と欧米の安全・リスクの基本的な考え方について、標準化と品質管理 Vol.61 No.12」 2008
  5. ^ a b 一般社団社団法人 電気情報通信学会 Fundamentals Review Vol.1, No.2 安全性研究会 解説論文
  6. ^ http://tech.jemima.or.jp/doc/func_safety_201311.pdf JEMIMA 機能安全規格の技術解説
  7. ^ a b ISO/IEC GUIDE 51:1990
  8. ^ 「機械安全/機能安全実用マニュアル 付録ISO/IECガイド51」日刊工業新聞2001
  9. ^ ISO/IEC GUIDE 51:1999
  10. ^ 大辞泉 【安全】
  11. ^ a b 広辞苑第六版「安全」
  12. ^ https://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/anzen/houkoku/04042302/1242079.htm 文部科学省「安全・安心な社会の構築に資する科学技術政策に関する懇談会報告書 第2章 安全・安心な社会の概念 2004
  13. ^ ISO/IEC GUIDE 51:1990
  14. ^ ISO/CD 45001:2014
  15. ^ http://fukuoka-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/library/fukuoka-roudoukyoku/6anzen/anzen11.pdf 福岡労働局「絶対安全はあり得ません!」
  16. ^ 日本学術会議、安全に関する緊急特別委員会「安全学の構築に向けて」(平成12年2月28日)[1]
  17. ^ Positive Peace Report 2022 – Systems Presentation”. 2022年6月15日閲覧。
  18. ^ JIS Z 8051:2004(ISO/IEC Guide 51:1999)「安全側面」
  19. ^ JIS Q 31000 「リスクマネジメント―原則及び指針」
  20. ^ 「安全文化―その本質と実践 (JSQC選書)」、日本品質管理学会
  21. ^ http://www.nsr.go.jp/archive/nsc/hakusyo/hakusyo17/pdf/gaiyou01hen.pdf 第1編 安全文化の醸成 - 原子力規制委員会
  22. ^ https://xtech.nikkei.com/dm/article/COLUMN/20060710/118990/?P=2&rt=nocnt ものづくりの「順序」と「日本性善説・欧米性悪説」論、日経テクノロジー
  23. ^ http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/003/pdf/003_002.pdf 工学システムの安全設計思想について、総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 第3回会合 参考資料1


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