刺激伝導系 刺激伝導系の概要

刺激伝導系

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/04/23 13:50 UTC 版)

刺激伝導系を構成する細胞は特殊心筋と呼ばれ、心房心室の壁を構成する一般の心筋細胞である固有心筋とは区別する。固有心筋は心房では長さ100 µm、直径5 µmの紡錐形をしており、心室では長さ100 µm、直径10 µmの枝分かれした円柱状をしている。これに対して特殊心筋は、これら周辺の固有心筋とは明らかに異なった形態をしており、組織学的に区別できる。

構造

刺激伝導系の興奮伝導と心電図との関係。最も高いQRS波が心室の収縮、その前のP波は心房の収縮、その後ろのT波は心室の拡張が、その主な発生理由である。ただし、心臓に疾患を抱えていると、このパターンは崩れる場合が有る。

刺激伝導系は洞房結節 (Sinoatrial node、SA node、別名:キース・フラック結節) に始まる。洞房結節は上大静脈と右心房の境界付近に存在するが、肉眼的にはほとんど判別できない。洞房結節は1000個から2000個の細胞から成り、洞房結節の細胞は長さ20 µm、直径4 µmの紡錐形で、固有心筋細胞よりも小さい。

洞房結節で発生した電気信号は、右心房壁の固有心筋細胞を波状に伝わり、この刺激によって心房が収縮し、右心房の下方で心室中隔近くに存在する房室結節(Atrioventricular node、AV node、別名:田原結節)へ至る。その伝導速度は0.5-1 (m/秒)である。

房室結節の細胞の大きさは、洞房結節に近い。房室結節では、電気信号の伝導速度が極端に遅く、0.05-0.1 (m/秒)に過ぎない。その結果、心室の興奮は、心房の興奮よりも0.12-0.18秒遅れる。これにより、心房の収縮によって心室に送り込まれた血液が、次いで起こる心室の収縮によって肺動脈大動脈へと駆出されるという、合理的で有効な心臓の収縮パターンが作られる。

房室結節を出た電気信号は、ヒス束 (Bundle of His) に移行して心室中隔に入る。ケント束のような奇形が無い限り、刺激伝導の上で、心房と心室は結合組織によって絶縁されている。このため正常な心臓ではヒス束の部分が、心房側から心室側へと電気信号が伝わる唯一の経路であり、この伝導速度は1 - 2 (m/秒)である。心室中隔にまで達したヒス束は、まもなく、左脚と右脚に分岐し、左脚はさらに前枝と後枝に分岐する。なお、左脚と右脚の部分での電気信号の伝導速度は2 - 3 (m/秒)程度である。左脚と右脚の先に存在する、さらに細くなって分岐を繰り返す部分はプルキンエ繊維 (Purkinje's fibre) と呼ばれ、その長さは数100 µm、直径10-100 µmと、心筋の細胞の大きさと比較すると、著しく長く太い繊維である。プルキンエ線維での電気信号の伝導速度は、2-4 (m/秒)と刺激伝導系の中では特に速い。このプルキンエ繊維が心臓全体の心室内膜下に至り、心室の心筋に刺激を伝導する。

心室においては、伝導速度が他の心筋細胞に比べて著しく速いプルキンエ繊維が電気信号を伝達する事により、心室全体が素早く、協調した収縮を行える。また、心筋には不応期と呼ばれる、一旦収縮すると、外部から新たな電気信号が入力されても、反応しない時間を有し、これによって過度な拍動の出現を防止している。これらの結果と、心臓の弁が血液の逆流を防ぐ事によって、心臓からの血液の有効な駆出を実現している。

生理

固有心筋と特殊心筋は共に、外部からの刺激を受けなくとも特有のペースで興奮を繰り返す。しかし、この状態では心臓全体で血液を駆出できるような有効な運動を行えない。ただ心筋は、その介在板と呼ばれる部分に、それぞれがコネキシンの6量体であるコネクソンを介した、ギャップ結合によって電気的に関連性を有している。

これらの心筋の自動的興奮のリズムは、洞房結節が70-80 (回/分)で最も速い。そして、この洞房結節から刺激伝導系が心臓全体へと伸びており、この洞房結節の興奮が電気信号として伝えられる。そのため、洞房結節が心臓全体の興奮のペースメーカーの役割を果たし、心臓が全体として、血液を駆出できるように運動できる。

また、刺激伝導系を通して電気信号として興奮を伝える方法で正常な心臓の拍動を実現しているため、外部から電流が流れた場合には、正常な電気信号の伝達が阻害され、心臓の動きに異常を来たす場合がある。

なお、心臓には交感神経系・副交感神経系双方の自律神経繊維が分布しており、交感神経の刺激は洞房結節を始めとした心筋細胞の興奮のペースを速くし、副交感神経の刺激は逆に遅くする。この自律神経の作用によって、運動やストレスなどで単位時間当たりの心拍数が増す傾向が出て、逆に休息中や眠っている際などに単位時間当たりの心拍数が減少する傾向が出る。

この他に、外部から取り入れた薬物が、単位時間当たりの心拍数に影響を与える場合もある。




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