公開鍵暗号 歴史

公開鍵暗号

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/19 07:12 UTC 版)

歴史

1960年代、イギリスの政府通信本部 (GCHQ) に所属するジェイムズ・エリス英語版が公開鍵暗号(非秘密暗号)を考案し提案は受諾された。しかし理論的には有用性が認められたが、一方向性関数が見つけられずこのアイデアは実用化されなかった。1973年、同機関に入所したクリフォード・コックス英語版がこのアイデアに取り組み「作用は可能だが、逆転させられない関数」から素数と素因数分解を基に30分程度で数式を組み立て、さらにマルコム・ウィリアムソン英語版が鍵配送問題に解決の糸口を見つけ、今日の"RSA"と呼ばれる暗号システムの基礎を確立した。同時期に、彼らとは無関係な米国のアマチュア数学者、ウィットフィールド・デフィーが独学で公開鍵暗号開発に取り組んでいた。1976年に、ラルフ・マークルの研究の影響を受けたデフィーとマーティン・ヘルマンが公開鍵暗号に関する世界最初の論文「New Directions in Cryptography[1]」を発表した。

公開鍵暗号という新規な発明は、本来、エリス=コックス=ウィリアムソン組が先であったが、論文にして公表し、その有用性を広く伝えたのは、デフィー=ヘルマン=マークル組となったため、本発明の特許権と栄誉は彼らが得た。先に考案していたエリス=コックス=ウィリアムソン組は、英軍の管理下であったGCHQが国家機密となっていたために、後発組が公開鍵暗号の論文を発表しても、契約により口外できなかった。後年、公開鍵暗号が広く普及したことで本暗号に関する機密扱いが解除され、エリス=コックス=ウィリアムソン組の功績が世に知られることになった[2]。デフィーの「先に開発していたのは本当ですか?」との問いに、エリスは「我々より、君達の方がより多くの事をやっている」と答えている。

公開鍵暗号の概念を実現する具体的な方式は、MITの研究者であったロナルド・リベストアディ・シャミアレオナルド・エーデルマンの3人が1977年に開発した。この方式は、開発者各人の頭文字を取って「RSA方式」と呼ばれるようになった。1982年、彼らはカリフォリニア州レッドウッド市にデータセキュリティ専門の会社「RSAデータセキュリティ社」を設立した[3]

1990年代初頭、フィル・ジマーマンがパーソナル・コンピュータに搭載可能なプログラム「PGP(Pretty Good Privacy)」を開発し公開した。PGPが世界に普及したことで、誰でも公開鍵暗号が使用できるようになった。

公開鍵暗号は、1980年ごろには「公衆暗号 (public cryptography)」とも呼ばれていた。用語「公衆暗号系 (public cryptosystem)」も使われていたが、DES のような公衆が用いる共通鍵暗号を含むかどうかが紛らわしかったので、これらの用語はすぐに使われなくなった。


注釈

  1. ^ 入力のは、1が個並んだもののことであり、セキュリティパラメータを一進法で表したものである。もしを2進数で(つまり、ビットで)表して入力することにすると、ビットを出力するために指数時間かかることになり、多項式時間アルゴリズムではなくなってしまう。一進法を使うことで、これを回避できる。

出典

  1. ^ Whitfield Diffie; Martin Hellman (1976). “New directions in cryptography”. IEEE Transactions on Information Theory 22 (6): 644. doi:10.1109/TIT.1976.1055638. 
  2. ^ 井上孝司著、「通信と情報の保全 暗号化の話」『軍事研究2011年11月号』、(株)ジャパン・ミリタリー・レビュー、雑誌 03241-11、ISSN 0533-6716、227-228頁
  3. ^ Press Releases Archived 2011年9月29日, at the Wayback Machine. - RSA社サイト(英語、2012年2月19日閲覧)






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