公園
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/24 04:12 UTC 版)
語源
中国記録の「公園」
前島康彦は、559年に成立した『北魏書』に「又明糊防賞罰之法表減公園之地以給無策貧口」とあり[6]、また、唐代の李延寿の同書解説書『北史』(659年)に「任城王澄為定州刺史表減公園之地以給無業」[7]等と(公園)の用語が使用されているを指摘している[8]。しかし何れも時代は古くてその内容も今日の公園の内容を類推することは不可能とされている。
「公園」の語が歴史的にこれまで知られているところでは、12世紀の北宋時代の李格非の書『洛陽名園記』の中に「富鄭公園」という語彙が見られる。野間守人『理想の庭園と公園』(大正12年)の中にも「李格非の洛陽名園記は当時の園を叙したもので富鄭公園、湖園薫氏西園、呂文穆園、獨楽園、集芳園等は有名なものである」と記述されている。しかし富鄭公園や公園という用語については全く言及されていない。その後丹羽鼎三が昭和36年に「北宋の洛陽名園記に富鄭公園なるものを載せているが其の文意は(公開された庭園)には非ずして(富鄭公館の庭園)を表はすものと解せられる。仍洛陽名園記に挙げられた(公園)は弦に論説する(公園)とは異るものであって所謂(公園)の前例と成す訳けには行かない」との意見を述べている[9]。 中国書『洛陽名園記』は既に徳川時代の考証随筆『嬉遊笑覧灯』(1830)の中にも引用されているが、富鄭公園更に公園そのものに解説等で触れるところはない。
日本記録の「公園」
また、島根県津和野の鷲原八幡宮に公園の用語が用いられた江戸時代の 天保年間(1830-44年)の奉納額に「鷲原公園」とあったことが発見され問題視されるようになった[10]。丹羽鼎三は、これを日本における「公園」呼称の嚆矢とした。
木村三郎は1988年に「しかしこのような辺境の山地の小藩の示例が文明開化の風潮(例:散髪令明治4年)の中にあって果して新政府の文明化路線の先例となり得たであろうかは甚だ疑問とせざるを得ない。換言すれば今日の公園という用語はもっと別の視点即ち我国の西洋文明化吸収の過程の中から発生した新語として究明して見る必要を痛感せざるを得ない」とし、以下の通りとしている[11]。Park又はGardenといった思潮が最も的確にかつ早々と日本に伝達されたのは岩倉使節団の米欧視察の記録と木村はみており、その中にPark(パーク:公苑・公園)、Garden(ガーデン:花園)、Square(スクワヤ:遊園)、Common(コンモン)などの用語が使用され、その中でParkについて特に興味のある記述も見られて「府中(ヒラデルヒヤ)ノ人言フ、(パーク)ヲ修ムル趣旨ハ天然ノ佳勝ヲ択ミ、之ニ人工ヲ加ヘテ修掃シ盤游ノ地トナスニアリ。尚ブ所ハ天真ヲ楽ムヲ要ス。新約克(ニューヨルク)ノ(パーク)ハ全ク人為ニ成ル。天真ノ美ヲ失ヘリト。新約克ハ又之ヲ諦(ソシ)リ、費府ノ人ハ野山ヲ以テ(パーク)トスルト笑フナリ。両都ハ互ニ繁昌ヲ頡頏(キツコウ)スル地ナリ。其民ノ相譲ラザルコト毎ニ此ノ如シ、云々」とあることで一行の脳裏にはParkとは如何なるものなりやという正しい概念が把握されており、そこに公苑(園)即ち正しくはPublicParkという概念も併せて会得されていたとされること、そして同『米欧回覧実記』の中には公園という表現よりもむしろ公苑という表現が目立つのも、その証左としている。
造園学者白幡洋三郎も、日本の「公園」の語は Public GARDEN を逐語訳して明治3年ごろに生まれた新語としている[12]。
こうして、現在では、都市計画学や造園学などの分野で専門用語として使われる「公園」は、英語Public park(パブリックスペース)の訳語で、緑地の一形態を指すようになっている。
- ^ 都市公園の種類、国土交通省,2024.3.3閲覧
- ^ 「公園に保育所」全国で可能 改正法が成立『東京新聞』夕刊2017年4月28日
- ^ 浮田志保 (2022年7月30日). “「手を上げて、右、左」 その名も「交通公園」、公園内に道路や信号 日本初が尼崎に存続、西宮にも”. 神戸新聞NEXT 2023年3月22日閲覧。
- ^ 文化庁2012、p.24
- ^ 1873(明治6)年明治時代年表(坂の上の雲)
- ^ 『北魏書』巻19中景穆12王伝
- ^ 『北史』巻18景穆十二王下、雲長子澄、魏宗室伝
- ^ 前島康彦『東京の公園、その90年のあゆみ』(昭38)
- ^ 丹羽鼎三「本邦公園の源流」(『新都市』昭和36年7月号所収)
- ^ 吉永義信「公園の語源」(『東京市政週報』昭17)、前島康彦「東京公園史話(13)」(『都市公園』第16号、昭33)、丹羽鼎三「本邦公園の源流」(『新都市』昭和36年7月号所収)、
- ^ 木村三郎「我国 「公園対緑地」 論議の再考を問う」(『造園雑誌』, 51 (5), 1988)
- ^ 白幡洋三郎『庭園の美、造園の心』日本放送出版協会〈NHKライブラリー〉、2000年
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