ホイール・アライメント ターニングラジアス

ホイール・アライメント

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/10/21 15:53 UTC 版)

ターニングラジアス

ターニングラジアス(ターニングアングル)は、旋回時における左右の前輪の切れ角度である。ターニングラジアスが狂うと、直進時のホイールアライメントが正しくても、タイヤの磨耗を早めることになり、旋回時の走行や安定性にも大きな影響を与える。車輛の運動上、常に適切な切れ角を持たせることが望ましい。ステアリングリンケージでのナックルアームの曲がりや、タイロッドの左右長さの不等などが発生すると、必ずタイヤの異常磨耗(トーによる磨耗)につながる。

理論的には、速度がごく低速でそれぞれの車輪がその向いている方向に動いている場合は、アッカーマン・ジャントー機構により、ほぼ理想的な方向に左右の前輪を向かせている(厳密に理想的なステアリングを機械的なリンケージで実現しようとするのは複雑になる)。速度が上がるとそれぞれの車輪でコーナリングフォースを発生させるのと同時にスリップ角が発生し、旋回の中心が、アッカーマン・ジャントー機構で仮定されている後軸の延長線上から、前方に移動するので前提が変化する。

セットバック

セットバック (Set-Back) とは、頓挫、挫折、退歩、後退、退学のことをいうが、ホイールアライメントにおけるセットバックとは、左右輪の位置のずれ言う。ホイールアライメントテスタによって表示の方法が異なるが、左右輪どちらか一方を基準にして、他方の車輪が前に出ているか後ろに下がっているかを±で表す。ホイールベースの左右差をmm で示す場合と角度を示す場合がある。セットバックの狂いが大きければ、フレーム歪みもあり得る。

スラスト角(スラストアングル)

スラスト角とは、自動車の進行線(スラストライン)すなわち自動車の進行方向と、自動車の中心線(正しくは幾何学的中心線)とのズレを言う。スラスト角 (Thrust Angle) は、別名をスラストライン偏差角 (Deviation in Alignment)、ジオメトリカル・ドライブ・アクシス (Geometrical Drive Axis) などと言う。

スラスト角の狂いは、後輪の左右個別のトーのアンバランス=スラストラインそのもののずれやフロントメンバーの横ずれ=幾何学中心線すなわち測定の基準線のずれ などが原因で生じる。

スラスト角は、日本ではそれほど重要される傾向はないが、スラスト角が自動車の安全や安定性、ドライバーの疲労にまで影響することから、高速道路の発達したヨーロッパでは非常に重要視されており、スラスト角の許容範囲も0度±10分(0.17度)以内に限定されている。

トータル・ホイールアライメントにおけるスラスト角の設定は、0度±10分(0.17度)以内はもちろん、限りなくゼロ(0度)が望ましい。

スラスト角の特性(弊害)

自動車が進んでいく方向、すなわち自動車の進行線(スラストライン)は、後輪のトーによって決定される。後輪のトーの左右差が大きいほど、自動車の進行線と自動車の中心線(正しくは幾何学的中心線)の角度差が大きくなり、自動車は斜進する。自動車の進行線が自動車の幾何学的中心線と同一(スラスト角=0度)の場合は問題はないが、自動車の進行線が自動車の幾何学的中心線の角度差が大きい、すなわちスラスト角が大きい場合、自動車を運転する上でいろいろな不具合が生じる。

  • 自動車が斜めになって直進するようになり、極端な場合には、自動車の前部が通過しても後部が障害物に当たる
  • ステアリングホイール(ハンドル)のセンターが狂い、ステアリングホイールをまっすぐに保っても直進しない
  • 左右の旋回時に、一方がオーバーステア(曲がりすぎる)で、一方がアンダーステア(曲がりにくい)になる(一方だけ限界が低く腰砕けのような感覚になると危険)
  • ホイールアライメントテスタでステアリングホイールを正しい位置に調整しても、路上テストでステアリングホイールのセンターが合わない。
  • 加速や減速で不安定な挙動を示す。

メンテナンス

近年の状況

現代の一般的な自動車ユーザーでは、通常に自動車を運転する上であまり意識しなくなっている調整項目となっている。しかしながら、走行中にタイヤを溝に落としたりしてサスペンションに衝撃を加えてしまった後に、自動車が直進しないように感じたら、直ぐ調整する必要がある。そのままではタイヤのグリップレベルも不揃いであり、いざ急ブレーキという時に重大な事故を招きかねない。放置すると、タイヤの偏磨耗にもつながる。

近年の自動車ではあからさまなコスト削減で構造が簡略化され、アライメントを調整するための機構を備えておらず、そのままでは調整できない。なんとか調整するにしても、作業者のスキルが求められる。しかし近年のブームでアライメント調整業務を始めた多くのタイヤショップなどでは、調整機構のない車両での作業はまず出来ない。誰もが気軽に調整を受けられるようになった反面、「調整機構の備わった部分だけ調整して終わり」という中途半端な作業しか受けられないことが多い。ノウハウのある専門店では、本来調整不可能だったリジットアクスルのようなサスペンションでも調整する事がある。

アライメントの調整と設定

ホイールアライメント調整または設定は、車両の重量がサスペンションの可動部分に適当に配分された上で、1.走行上の安全性、2.適正なタイヤ寿命が確保できるものでなければならない。

ホイールアライメントの調整作業は、後輪から始め、その後に前輪のキャスター、キャンバー、トーの順序で進めていくのが一般的なやり方である。後輪は操舵機構はないが、自動車の進んでいく方向、つまりスラストライン(自動車の進行線)は、後輪の左右のトーと左右のキャンバで決められているので、後輪のホイールアライメント調整が重要となる。足回りを含む事故の修復におけるアライメント調整は、ボデーアライメントの狂いがないこと、サスペンションまわりの部品すべてについて異常がないことが大前提となる。事故車などで、サスペンションまわりの部品を新品に交換しホイールアライメントに異常がないのにまともに走らない場合、その原因はボデーアライメントの歪みであると考えられる。

サイドスリップテスタによる誤り

サイドスリップテスタは、(前輪の)ホイールアライメントを総合的に判断する測定器であって、このテスタだけではホイールアライメント調整を完了することはできない。

現在、整備工場や修理工場では、日本の車検で使用しているサイドスリップテスタによりアライメントを点検するのが一般的であるが、このテスタで原因不明の異常値が出た場合、すぐにトーの調整をしてしまうのではなく、総合的にホイールアライメントの問題がないか確認する必要がある。

基本的には、サイドスリップテスターの測定値と、アライメントテスターで測定したトウインの値は同じではなく、測定している内容が異なるため、この測定値だけを比較することは問題がある。(かなり近い値ではあるが)

日本の道路運送車両法の保安基準が定められたのは昭和20年(1945年)代のことで、操舵を有する前輪のサイドスリップ値の合否の判定基準は±5 mm以内に定められている。この基準に従い国産車ではサイドスリップ値が±5 mm以上の自動車は作らないが、輸入車には±5 mm以上の自動車も存在し、このような前輪サイドスリップ値に関して運輸支局も認めているものもある。

輸入業者がサイドスリップ値について型式認定時に申請し、実際の車両にはエンジンルーム内にアライメントの設定値が記載されたラベルが貼付けられる。並行輸入車についても、正規輸入車と同等の扱いがなされる。

アライメントが狂う主な原因

アライメントが狂う主な原因は、「パーツの消耗・劣化」または「部位・パーツの損傷」の2つ。その対象となる部位・パーツは、「ボディー」「サスペンション」「タイヤホイール」の3つである。

部位・パーツ 原因
消耗・劣化 損傷
ボディ  
  • ボディ(内板骨格、特にアンダーフレーム)の歪み・曲がり
サスペンション
  • パーツの馴染み
  • ラバー・ブッシュ類の変化(劣化・消耗)
  • 車高の変化
  • サスペンションの交換
  • サスペンションのへたり、油漏れ
  • パワーステアリングの油圧制御不良
  • サスペンションパーツの変形(損傷・故障)
  • サスペンション調整機構のずれ
  • ショックアブソーバーの不良
  • 車検時のトウ調整ミス(サイドスリップテスタのみで調整のため)
  • ブレーキ機構のアンバランス
タイヤ・ホイール
  • タイヤの空気圧や片べり(異常、左右差)
  • タイヤ・トレッドパターンの相違
  • タイヤの磨耗
  • ホイールバランスの狂い
  • ホイールオフセットの相違
  • ホイールの損傷(歪み・キズ)

  1. ^ 作業時に進行方向に対して横向きの力が働くモーターグレーダーは、操舵とは別に、直進するために両前輪を同じ方向へ大きく傾ける「リーニング」機能が備わっている。


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