フライト・レベル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/10 09:09 UTC 版)
背景
従来より航空機の高度測定装置には、高度の上昇とともに気圧が低下することを応用し、気圧を高度に換算する気圧高度計が使用されてきた。しかしながら、気圧は場所や時間を含む大気の環境変化に影響を受けやすいため、何らかの方法で気圧高度計を事前に調整しなければ、離れた地点から出発した複数の航空機が、それぞれの気圧高度計は異なる高さを示しているにもかかわらず、実際には同じ高さを飛行する可能性が生じてしまう。そこで、国際民間航空機関(ICAO)が定める国際標準大気に各機が搭載する気圧高度計の基準をあらかじめ合わせることで、この問題の解決が図られている。標準大気を基準として気圧高度計を規正することをQNEセッティングといい、このセッティングで得られる高度がフライト・レベル(FL)となる。
フライト・レベルは海面からの高さを表す真高度とは異なる。たとえば、「FL320」は必ずしも海抜32,000フィートであるとは限らない。しかしながら、共通の大気モデルにもとづくフライト・レベルを利用して、航空機間に十分な垂直間隔を定義することで空中での衝突が起こらない仕組みとなっている。
転移高度および転移レベル
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フライト・レベルと真高度
QNEセッティングによって得られるフライト・レベルは巡航中の航空機が他機との間隔を保つには十分な精度であるが、絶対高度を表しているわけではない。したがって、離着陸地に近い場合などの低い空域では、航空機同士または航空機の地表への衝突を避けるために真高度(空港が正しい標高を示す高度)を示すよう高度計をQNHセッティングとする必要がある。このとき使用する高度計規正値は航空交通管制(ATC)や現地のMETARから入手する。国によっては低高度で飛行場標高または着陸地点で高度計がゼロになるように合わせるQFEセッティングを採用しているところもある。
転移高度(TA)、転移レベル(TL)および転移層
航空機が上昇時に高度計をQNHセッティングからQNEセッティングに切り替える高度を転移高度 (transition altitude、TA)といい、下降時にQNEセッティングからQNHセッティングに切り替えるフライト・レベルを転移レベル (transition level、TL)という。TAとTLは各国で異なり、TAとTLの間の空域を意味する転移層 (transition layer)についても、最低限維持すべき幅(垂直間隔)が国ごとに定められている。
各国の適用範囲
日本では平均海面から14,000フィート未満でQNHを使用し、それ以外の場合はQNEを使用するよう定められており、アメリカとカナダでは18,000フィートを境としている。
欧州ではTAが国ごとに異なり、3,000フィートと低く設定されていたり、同一国内でも地域によってTAが変わったりする場合がある。さらに、複数の国で下降時のTLを可変としており、そのときのQNHによって各ATCが航空機に指示することとしている。欧州では域内のTAを統一するための検討が続けられている[1]。
下表に国別の転移高度(TA)および転移レベル(TL)の例を示す。
国 | TA (フィート) | TL |
---|---|---|
日本 | 14,000 | (QNH適用空域外ではQNE) |
アメリカ | 18,000 | (QNH適用空域外ではQNE) |
カナダ | 18,000 | (QNH適用空域外ではQNE) |
ニュージーランド | 13,000 | FL150 |
イギリス | 通常3,000 5,000 (リバプールやマンチェスター等付近) 6,000 (ロンドン付近) |
QNHによって可変 (そのため各ATCが指示する) |
オランダ | 3,000 | QNHによって可変 |
デンマーク | 3,000 または 5,000 (コペンハーゲン付近) |
QNHによって可変 |
ドイツ | 5,000 | QNHによって可変 |
ベルギー | 4,500 | QNHによって可変 |
東南アジアの多く | 11,000 | FL130 |
香港 | 9,000 | FL110 |
中国 | 主に3,000m | FL3,600m |
垂直間隔(管制間隔)
航空機の垂直間隔は、飛行方式が有視界飛行方式(VFR)か計器飛行方式(IFR)によって、また飛行方向別に各国ごとに定められている。
日本では飛行方向を東西に分けて、原則として以下のフライト・レベルでIFR機は飛行することとなっている(VFR機については下記に500フィートを加えた高度)。
- 磁方位 000 ~ 179° - 1,000フィートの奇数倍 (例:FL250、FL270など)
- 磁方位 180 ~ 359° - 1,000フィートの偶数倍 (例:FL260、FL280など)
このように磁方位を二分してフライト・レベルを航空機に指示する方式を英語ではsemicircular ruleなどと呼んでいる。国によっては東西よりも南北の交通量が多いため、それに合わせて二分する方位を変えている場合もある(例:ニュージーランド、イタリア、ポルトガルなど)。
また、英国など、一部の国では磁方位を四分割してフライト・レベルを割り当てている場合もある。たとえば、英国では3,000フィート以上FL195未満を飛行するIFR機はこの方式をとるものと定められている。この四分円による方式を英語ではquadrantal ruleなどという。
- 磁方位 000 ~ 089° - 1,000フィートの奇数倍 (FL70、FL90、FL110など)
- 磁方位 090 ~ 179° - 上記に500フィートを加えたFL (FL75、FL95、FL115など)
- 磁方位 180 ~ 269° - 1,000フィートの偶数倍 (FL80、FL100、FL120など)
- 磁方位 270 ~ 359° - 上記に500フィートを加えたFL (FL85、FL105、FL125など)
- ^ “A Common European Transition Altitude; An ATC perspective” (PDF). Eurocontrol. 2010年8月25日閲覧。
- 1 フライト・レベルとは
- 2 フライト・レベルの概要
- 3 短縮垂直間隔 (RVSM)
- 4 メートル法に基づくフライト・レベル
- 5 参考文献
- フライト・レベルのページへのリンク