フッ素 名称

フッ素

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/12/12 22:01 UTC 版)

名称

フランスのアンドレ=マリ・アンペールが「fluorine」と名付けた。この名前は蛍石(Fluorite)にちなんでいる[2]

アンペールはその後、「phthorine」に名前を改めた。ギリシア語の「破壊的な」という語に由来している。ギリシア語は、アンペールの新名称(Φθόριο)を採用した。

しかしながら、イギリスハンフリー・デーヴィーが「fluorine」を使い続けたため、多くの言語では「fluorine」に由来する名称が定着した。日本語の「弗素」も、宇田川榕菴が音訳した弗律阿里涅(フリュオリネ)が由来である[3]

歴史

古くから製鉄などにおいて、フッ素の化合物である蛍石(CaF2)が融剤として用いられた[4]。たとえば、ドイツ鉱物学ゲオルク・アグリコラ1530年に著書『ベルマヌス(Bermannus, sive de re metallica dialogus)』において、蛍石を炎の中で加熱し、融解させると、融剤として適切であると記している[4]1670年には、ドイツのガラス加工業者のハインリッヒ・シュヴァンハルト(Heinrich Schwanhard)が蛍石の酸溶解物にガラスをエッチングする作用があることに気づいた。

蛍石に硫酸を加えると発生するフッ化水素1771年カール・シェーレが発見していた。

フランスのアンドレ=マリ・アンペールは、未知の元素が蛍石(Fluorite)に含まれる可能性から、未発見の新元素に「fluorine」と名付けた。彼は、フッ化水素塩化水素の組成がフッ素と塩素の違いだけであると主張した。

しかし、フッ化水素の研究は進まなかった。酸素を発見したアントワーヌ・ラヴォアジェも、単離には至らなかった。

1800年イタリアアレッサンドロ・ボルタが発見した電池が、電気分解という元素発見にきわめて有効な武器をもたらした。デービーは1806年から電気化学の研究を始めると、カリウムナトリウムカルシウムストロンチウムマグネシウムバリウムホウ素を次々と単離した。しかし1813年の実験では、電気分解の結果、漏れ出たフッ素で短時間の中毒に陥ってしまう。デービーの能力をもってしてもフッ素は単離できなかった。単体のフッ素の酸化力の高さゆえである。実験器具自体が破壊されるばかりか、人体に有害なフッ素を分離・保管することもできない。

アイルランドのクノックス兄弟は実験中に中毒になり、1人は3年間寝たきりになってしまう。ベルギーのPaulin Louyetとフランスのジェローム・ニクレも相次いで死亡する。1869年、ジョージ・ゴアは無水フッ化水素に直流電流を流して、水素とフッ素を得たが、即座に爆発的な反応が起きた。しかし、偶然にもけがひとつなかったという。

1886年、ようやくアンリ・モアッサンが単離に成功する[2]白金イリジウム電極を用いたこと、蛍石をフッ素の捕集容器に使ったこと、電気分解を−50 °Cという低温下で進めたことが成功の鍵だった。当時は材料にも工夫があり、フッ化水素カリウム(KHF2)の無水フッ化水素(HF)溶液を用いた。さらに、この分解は銅製の容器中で行われた。これは、モアッサンがフッ素やフッ化物フッ化銅と反応しないということを発見したためで、発生したフッ素の一部を銅と反応させることで、フッ化銅を発生させ、安定して保存できるようにした[5]。しかしモアッサンも無傷というわけにはいかず、この実験の過程で片目の視力を失っている。フッ素単離の功績から、1906年ノーベル化学賞はモアッサンが獲得した[4]。翌年、モアッサンは急死しているが、フッ素単離と急死との関係は不明である。

以上のような単離への挑戦の歴史や、反応性の高さから単体のフッ素は自然界に存在しないと考えられてきたが、2012年に鉱物アントゾナイトにフッ素分子が含まれていることが確認された[6]

分布

反応性が高いため、天然には蛍石氷晶石などとして存在し、基本的に単体では存在しない。


  1. ^ Storer, Frank Humphreys (1864). First outlines of a dictionary of solubilities of chemical substances. Cambridge. pp. 278–280 
  2. ^ a b フッ素 - イラスト周期表”. 愛知教育大学. 2022年6月14日閲覧。
  3. ^ ニュートン式超図解最強に面白い!!周期表
  4. ^ a b c 丹羽源男 (1995年9月). “フッ素 - 推測と発見、単離をめぐる人々 (PDF)”. 日本歯科医史学会. 2022年6月14日閲覧。
  5. ^ a b c d e 『元素を知る事典』海鳴社、2004年11月、79-80頁。ISBN 9784875252207 
  6. ^ 自然界に単体フッ素=鉱物で確認、定説覆す-独大学[リンク切れ] 時事ドットコム 2012年7月6日
  7. ^ http://www.youtube.com/watch?v=1p3bWWJsLxI&feature=related(英語)
  8. ^ 「ダイキン、独にフッ素樹脂開発拠点」『日本経済新聞』電子版(2018年8月9日)2018年9月19日閲覧。
  9. ^ 「ダイキン、フッ素化学拠点に100億円 IoT向け需要増」『日本経済新聞』朝刊2018年9月4日(2018年9月19日閲覧)。
  10. ^ 長倉三郎ら編、「フッ素」、『岩波理化学辞典』、第5版CD-ROM版、岩波書店、1999年
  11. ^ J. D. Clark, Ignition!: An informal history of liquid rocket propellants, Rutgers University Press, 1972.
  12. ^ F. J. Krieger, "The Russian Literature on Rocket Propellant", The Rand Corporation, 1960.
  13. ^ G. P. Sutton and "O. Biblarz, Rocket Propulsion Elements 8th Ed.", Wiley, 2011.
  14. ^ 岩井 伯隆. “フッ素と環境”. 2022年6月14日閲覧。






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