ファウルハーバーの公式
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/03/26 01:53 UTC 版)
1乗和と2乗和については、アルキメデスの時代から知られていた[2]。3乗和に関して
が成り立つことは、歴史上たびたび再発見されている。1世紀の数学者ニコマコスは「n 番目の立方数は n 個の連続した奇数の和である」ことを証明なしに述べており[3]、既知の結果「最初の m 個の奇数の和は m の平方に等しい」と合わせると、3乗和の公式を知っていたとも見なせる[注釈 3]。西暦500年頃、アリヤバータは3乗和の公式を明示的に与えた。西暦1000年頃、アル=カラジは図形および数学的帰納法を用いて3乗和の公式を証明した。同じくイスラムの数学者イブン・アル・ハイサムは、4乗和の公式を与えたが、その方法を用いれば何乗和でも求めることができる[4]。
フェルマーは、求積法のために冪乗和が重要なことを認識し、一般的な公式およびその証明を得たと述べたが、詳細は明らかにしなかった。一方、ファウルハーバーは Academia Algebrae(1631年)において17乗和までの公式を与えた[5]。彼は一般的な公式を与えるまでには至らなかったが、Sk(n) は、k が奇数のときは S1(n) の多項式で書け、k が偶数のときは S2(n) で割れてその商がやはり S1(n) の多項式で書けることを指摘した。実際、例えば
などとなる。この事実は後にヤコビが再発見し、厳密な証明を与えた[6]。
ベルヌーイ数を用いて一般的な冪乗和の公式を与えた初めての文献は、1712年の関孝和『括要算法』および1713年のヤコブ・ベルヌーイ『推測術』(Ars Conjectandi) である。共に遺稿であり(関は1708年没、ベルヌーイは1705年没)、どちらが先に公式を発見したのかは不明である。ベルヌーイは、公式を用いて 1 から 1000 までの10乗の和を計算し、8分の1時間もかからずに 91, 409, 924, 241, 424, 243, 424, 241, 924, 242, 500 を得た、と述べている[7]。
注釈
- ^ 参考文献コンウェイ・ガイ『数の本』や MathWorld では「ファウルハーバーの公式」である。一方、日本では固有名詞のように呼ばれることは少なく、荒川・金子・伊吹山『ベルヌーイ数とゼータ関数』では「べき乗和の公式」である。
- ^ B1 = 1/2 となるようにベルヌーイ数を定義する流儀と、B1 = −1/2 となるように定義する流儀がある。ここでの定義は、関孝和と同様に前者である。MathWorld など、後者の流儀を採用している場合、冪乗和の公式も一見異なるもののように見えるかもしれないが、本質的に同じものである。
- ^ ニコマコスの主張は、13 = 1, 23 = 3 + 5, 33 = 7 + 9 + 11, 43 = 13 + 15 + 17 + 19, … ということ。これより例えば 13 + 23 + 33 + 43 は最初の (1 + 2 + 3 + 4) 個の奇数の和であるから (1 + 2 + 3 + 4)2 に等しい。
出典
参考文献
- 荒川恒男、金子昌信、伊吹山知義『ベルヌーイ数とゼータ関数』牧野書店、2001年 ISBN 978-4795201392 -- 特に第1章。公式の厳密な証明が与えられている。
- ジョン・ホートン・コンウェイ、リチャード・ガイ著、根上生也訳『数の本』シュプリンガー・フェアラーク東京、2001年 ISBN 978-4431707707 -- 特に第4章「ベルヌーイ数」の節。公式の略式の証明が与えられている。
- John H. Conway and Richard Guy, The Book of Numbers, Springer, 1996 ISBN 978-0387979939
- L. E. Dickson, History of the Theory of Numbers, Volume ll: Diophantine Analysis, Dover Publications, 2005 ISBN 978-0486442334
- ヴィクター・カッツ著、上野健爾他訳『数学の歴史』共立出版、2005年 ISBN 978-4320017658
- Victor J. Katz, History of Mathematics, 3rd edition, Addison Wesley, 2008 ISBN 978-0321387004
- 日本数学協会「関孝和没後300年記念懸賞問題」数学文化第9号 pp. 13-16、2008年 ISBN 978-4535602397