タイヤ メンテナンス

タイヤ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/12 06:38 UTC 版)

メンテナンス

空気圧調整

空気圧はこのようなエアゲージで簡単に計ることが出来る
エアゲージは安いものは数百円程度からある

初期のタイヤは木材や金属の車輪が主流だったが、1800年代中盤に空気の入っていないゴム製のソリッドタイヤが生まれ、1800年代後半には空気入りタイヤが次第に普及した[18]。空気入りタイヤは適正量の空気が入っていなければ役割を果たさない。空気が入って初めて車重を支えることが可能になる。

タイヤおよびその使用車種によって適正な空気圧が指定されており、ドライバー側のドアを開けたときに露出するボディ部分にステッカーなどで表示されていることが多い。適正数値は乗用車の場合200 kPa前後[注 6][注 7]バス・トラックなどの大型車で600 - 900 kPa程度[注 8]が指定されていることが多い。チューブレスで3か月程度、チューブタイプで1か月程度ごとに適正な空気圧を保つことが重要である。時間の経過とともに空気が漏れ出したり、暑い時に適正な空気圧で空気を入れたとしても空気の密度が低いので気温の低下により体積の減少=圧力低下を招いたり、様々な原因で空気圧は低下する方向に作用する[21]

軍用車両では舗装道路から野戦の不整地まで多様な走行状況に対応するため、車体側からタイヤの空気を加減するタイヤ圧調整装置を備えるものが少なくない[注 9]。砂泥や積雪など軟弱地では空気圧を下げ接地面積を増して沈み込みを軽減し、堅い路面では圧を上げて高速走行時のバーストを避ける。軽度のパンクなら空気抜けを補填して戦闘中の性能低下回避も期待できる。

  • 空気圧過少
    • 適正な空気圧の半分程度の圧力になると、潰れが大きくなっていることが目で見て分かるようになる。この状態で運転を続けるとスタンディングウェーブ現象が発生し、破裂(バースト)することがあり、大変危険である。
      • 2000年にはファイアストン製を装着するフォード・エクスプローラーで、乗り心地を重視するあまり、過度に低い空気圧指定をしていたため、高速道路などを走行している際の熱の発生により破裂(バースト)を起こす事件も発生している。これを受けてアメリカでは、空気圧を常に監視するタイヤ空気圧監視システム(TPMS)の装着が義務付けられており、その他の国でもTPMSは一部高級車やスポーツカーで採用されている。
    • 指定の空気圧より低い場合、接地面積が増加する。フローテーション(flotation)の増加[注 10]や低速域でのグリップ向上を見込める場合もある[注 11]が、撓み易くなるので接地面の変形が大きくなり、速度の上昇と共に駆動力・旋回力・制動力(走る・曲がる・停まるのすべての性能)が低下する。
    • 接地面積が増え、変形も大きくなるため、転がり抵抗の増大を招き、燃費が悪くなる。また、トレッドの両肩部から摩耗していく。
    • ホイールとは内圧により密着性を増しているため、リムの位置がずれたり[注 12]、場合によってはホイールから外れることがある。
    • 自励振動シミー現象)の発生を招きやすい。
  • 空気圧過大
    • 設計上、2 - 3倍の空気圧で空気を入れても破裂することはないように作られている。
    • 指定の空気圧より高めの圧力の空気が入っている場合、バウンドし易くなり段差や路面の凸凹のショックを直に受け取り、乗り心地が低下するとともに、接地面積の減少により路面への制動力・駆動力の伝達は低くなる。言い換えればグリップの悪化を招く(※グリップは悪くなるが燃費は抑えられる)。トレッドは中心部から磨耗していく。

窒素ガス (N2) の使用

2010年代以降、乗用車向けに、一部カー用品店ガソリンスタンドで窒素ガスを勧める場合が増えた。空気圧のメンテナンスを軽減することが最大のメリットと言われ、その他に派生的効果として、燃費悪化の防止などの効果も考えられるが、直接的なものではない。また、ロードノイズが低減するという話もあるが、科学的根拠は無い。また、もともと空気中の79%が窒素であるため(下記のようなシビアコンディションでなければ)、コストに見合わないとする声もある。

窒素が使われる理由は、酸素は窒素よりゴムの透過率が高いために失われて内圧が低下しやすい。純窒素を用いたほうが経時的に内圧の低下が小さいので、内圧管理が簡単になる。

しかし空気を充填したとしても先に酸素が透過して失われるので、窒素の分圧が増えてくる。透過して失われた酸素の分だけ空気を充填すると、また酸素が先に透過して失われるので、次第に窒素の分圧が大半を占めるようになるので内圧低下は穏やかになる。

酸素の透過による内圧低下は新品やパンク修理後に最初に空気を充填した時に著しいので、この際に窒素を充填することは内圧低下に一定の効果はあるが、空気充填を繰り返すと窒素の分圧が大半を占めるようになるので、特に窒素を補充する意味はなくなってくる。

一般に普及するきっかけになったのは、高速長距離運転を行う大型トラックに多く採用されたことである。これは高速長距離運転による内圧の変化を抑制するためである。逆に短距離と荒地での運用の多いダンプトラックなどでは普及していない。

空気に含まれる水分に関しては、通常の空気充填システムでは湿気を吸収するフィルターにより乾燥空気としているので、通常の空気充填と窒素充填でも湿度の影響は殆どない。

航空機(飛行機)用には通常、液体空気から分留した窒素ガスを充填する。これは、酸素を含まないために、火災や爆発の危険が少ない(着陸時、ブレーキや路面との摩擦により高温になるため。外部に酸素があるため安全率の差はわずかであるが、航空機ではあらゆる面においてコストより安全を優先するため選択される)。

F1に於いては窒素では無くドライエアー(強制的に乾燥された空気)が充填されることが多い。これはレースの走行時間が短く頻繁にタイヤを交換するため、酸素透過による内圧低下は無視できるからである。


注釈

  1. ^ 小説空飛ぶタイヤでは外れた車輪全体が問題を引き起こす。モータースポーツでのピット作業で「タイヤの交換」は車輪全体を交換している。航空機の降着装置はタイヤとも表現される。
  2. ^ 空気圧と負荷能力を通常規格より高く設定した規格で、レインフォースド規格(RF)とも呼ばれる。
  3. ^ 「Y」制定後に出来たスピードレンジなので、「新Y」とも呼ばれる。
  4. ^ 稀にナイロン製のものも存在する(表記はNYLON)。
  5. ^ 稀にチューブレスであってもチューブを利用することでチューブ専用ホイールにも使用出来る旨但し書きがされている場合もある[11]
  6. ^ 省燃費タイヤでは指定空気圧が240 - 280 kPa程度のものがあり、テンパータイヤでは420 kPaとなっている。
  7. ^ ETRTO規格の場合、指定空気圧より若干高い空気圧とする必要がある。とりわけXL規格の場合、空気圧を高めることで負荷能力を高く取ることができるため、一層慎重な空気圧の管理が必要となる[19]
  8. ^ 例として「295/80R22.5 153/150J」サイズの場合、900 kPaを最高圧力として指定している[20]
  9. ^ 陸上自衛隊の高機動車、96式装甲車など。
  10. ^ 砂・泥・雪などでの沈み込みが抑えられる。
  11. ^ スタッドレスタイヤ等のスノータイヤではないタイヤで出先で積雪してしまった場合に応急的に空気圧を下げて走行するという手段があるが、低い速度での運転に制限されるうえ、積雪地より脱出あるいは雪解け後には速やかに本来の空気圧に加圧する必要がある。
  12. ^ ホイールバランスが狂い、チューブタイプではチューブがずれてバルブ付近に無理な力が加わる。
  13. ^ ポルシェフェラーリ、あるいはアメリカ車などの輸入車旧車によく見られる、インチが小さめで高偏平率ながらも非常に横幅が広いサイズなど。国産量販車種の例では175/60R16が該当し、トヨタ・ラクティス/スバル・トレジアトヨタ・iQの実質2車種にしか(少なくとも純正では)設定がない。
  14. ^ 極端なインチアップの際に使用される18-22インチクラスの35/30偏平タイヤ、235/35R18など。
  15. ^ 例えば「155/55R14」はHA22SアルトワークスやMC22SワゴンR RR、H81W eKスポーツなどと台数としては決して少なくない車種に採用されたサイズでありブリヂストンが夏2/冬2/計4種、横浜が夏3/冬2/計5種、ダンロップが夏3/冬2/計5種を用意している。その一方でトーヨーは夏2/冬1/計3種、クムホは夏1種のみと減少気味のブランドもあり、ファルケンやハンコック(2017年版カタログでは夏1種のみ存在)のように、ラインアップが完全消滅したブランドも存在する(特記無き限り2018年3月2日現在、各社日本向け公式サイトより)。
  16. ^ 例:JR東海313系電車の床材
  17. ^ 世界大百科事典によるタイヤ・メーカーの分類。
  18. ^ 現在、台湾に同名ブランドが存在するが、関連は不明。

出典

  1. ^ 空気なしタイヤ、東洋ゴム開発 パンクしないクルマ実現へ”. itmedia (2017年9月8日). 2019年6月10日閲覧。
  2. ^ ミシュランとGM、「パンクしないタイヤ」を共同開発”. CNN (2019年6月6日). 2019年6月10日閲覧。
  3. ^ JAMAGAZINE 2007年2月号-日本自動車工業会
  4. ^ [1][2]
  5. ^ OUTEX オリジナル クリアーチューブレスキット
  6. ^ a b c タイヤの材料”. ブリヂストン. 2020年6月17日閲覧。
  7. ^ 国土交通省 - 道路運送車両の保安基準の細目を定める告示【2010.03.22】別添4(トラック、バス及びトレーラ用空気入タイヤの技術基準) (PDF)
  8. ^ Tire Size Helper
  9. ^ 乗用車用のサイドウォールの一例
  10. ^ タイヤを見れば製造年月日(製造年週)がわかる?”. ジェームス. 2024年4月10日閲覧。
  11. ^ [3]
  12. ^ Uniformity(ユニフォミティ)|タイヤ関連用語集|【DUNLOP】ダンロップタイヤ 公式
  13. ^ “新品タイヤの黄 赤マーク 何を意味する? 黄は「軽点」 赤は「ユニフォミティマーク」”. 乗りものニュース (メディア・ヴァーグ). (2020年3月20日). https://trafficnews.jp/post/94675 
  14. ^ 回転方向指定のあるタイヤとはどんなタイヤ?”. ブリヂストン. 2024年4月11日閲覧。
  15. ^ 近藤暁史 (2020年4月9日). “回転方向指示のあるタイヤとないタイヤの違いとは! 間違えて逆に装着するとどうなる?”. WEB CARTOP. 2024年4月11日閲覧。
  16. ^ 非対称タイヤとはどんなタイヤ?”. ブリヂストン. 2024年4月11日閲覧。
  17. ^ 非対称タイヤの位置交換(ローテーション)はどうすればいいの?”. ブリヂストン. 2024年4月11日閲覧。
  18. ^ タイヤにゴムが使われている理由”. ブリヂストン. 2020年6月17日閲覧。
  19. ^ エクストラロード(リインフォースド)とはTOYO TIRES
  20. ^ 広田民郎「バスのすべて」 グランプリ出版 p161参照
  21. ^ タイヤ空気圧管理 - ブリヂストン(2016年版/2016年12月24日閲覧)
  22. ^ 急増する欧米の廃タイヤ輸出、インドの村が処理場に”. ロイター (2019年10月26日). 2019年10月25日閲覧。
  23. ^ JATMAニュース No.1132 (PDF)
  24. ^ MOTUL GT-Rのストップ、“犯人”はなんとタイヤカス - AUTOSPORT web
  25. ^ a b “車の走行でタイヤ摩耗による粉じん 欧州で新たに規制する動き”. NHK (日本放送協会). (2023年8月11日). https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230811/k10014160301000.html 2024年1月30日閲覧。 
  26. ^ “EVの性能を向上させるタイヤ、グッドイヤーが技術発表…ジュネーブモーターショー2018”. Response. (イード). (2018年3月15日). https://response.jp/article/2018/03/15/307294.html 2024年1月30日閲覧。 
  27. ^ “電気自動車、タイヤの減り早すぎ。交換ペースがガソリン車の倍以上”. ギズモード (メディアジーン). (2024年1月29日). https://www.gizmodo.jp/2024/01/ev-car-wheels.html 2024年1月30日閲覧。 
  28. ^ a b c d e f g タイヤ技術の系統化 (PDF) - 国立科学博物館産業技術資料情報センター
  29. ^ 新聞記事文庫 護謨工業 (01-076) - 報知新聞 1917年7月23日(大正6) - 日本護謨株式会社の活躍
  30. ^ a b c d e f g h i j 琺瑯看板 - ゴム・タイヤ - お散歩 Photo Album


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