スローターハウス5 構成

スローターハウス5

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/18 16:55 UTC 版)

構成

『スローターハウス5』は、20世紀が舞台で、第二次世界大戦での経験と家族との関係を中心として、ビリー・ピルグリムの様々な時代での物語が絡み合っている。この本は、一見無作為に見える出来事の連続だが、それらが組み合わさって作品の主題を提示している。

書名

「スローターハウス5」(小説中では「シュラハトホーフ=フュンフ」(ドイツ語: Schlachthof Fünf))とは「第5屠殺場」を意味し、ドレスデンの爆撃の間、主人公ビリー・ピルグリムが捕虜として収容された場所である(これは、ドレスデンで捕虜となったヴォネガット自身の体験と対応している)。ヴォネガットは、『チャンピオンたちの朝食』などの他の著作でもしているように、当作にも副題を付けている。当作のそれは『子供十字軍』である。ヴォネガットは最初の章で、子供たちが奴隷として売られた13世紀の少年十字軍について触れている(実際の歴史上の出来事がどのようなものであったかについては異論があるが、文学的には子供たちを意図的に奴隷として売ったことを意味する)。ヴォネガットは戦争を「子供を奴隷として売ること」に比せて、この副題をつけた。

あらすじ

第二次世界大戦中、ろくに訓練も受けていない米兵のビリー・ピルグリムは道に迷い、ドイツ兵に捕らえられ、ドレスデンにある使われていない屠殺場の奥深くに設けられた代用監獄で生活することになる。理由は説明されないが、ビリーは時間の中に解き放たれる(ただし、後に、飛行機事故を生き延びた際に軽い脳障害が残った結果、死を含む人生の様々な時点を無作為に繰り返し訪れることが示唆されている)。

彼はトラルファマドール星からやって来た地球外生物に出会い、後には誘拐されて星の動物園でポルノ映画スターのモンタナ・ワイルドハックとともに展示される。トラルファマドール星人は、物理的にはトイレのプランジャー(吸引具)と似ていて、四次元(4つめの次元は時間である)を見ることができる。トラルファマドール星人はその人生のすべての瞬間を既に見ており、その運命を変えるような選択をすることはできないが、自分が集中したいと思う人生の瞬間を選んで焦点を合わせることはできる。

この物語を通じて、ビリーは時間の中を行き来し、人生の様々な場面を何度も追体験する。このせいで、次に人生のどの場面が現れるのか分からないビリーはいつもあがり症を感じることになる。彼はトラルファマドール星で時を過ごし、ドレスデンで過ごし、捕虜になる前の第二次世界大戦中のドイツで深い雪の中をぼんやりと歩き、戦後のアメリカで結婚生活を送り、何年も後の地球上での自分が撃たれて殺される瞬間に向かう。あらかじめそこでの運命を知っているビリーはトラルファマドール流の運命論を受け入れており、すばらしい個人的な平和を手に入れて、この哲学を多くの人々に広めて地球上で有名な人物になる。

ビリーの運命論は現実(少なくともビリーが知覚した現実)に基づくもののようである。ビリーがオフィスに平安の祈りの写しを持っていることに気づいた後、語り手は言う。「ビリー・ピルグリムが変えることのできないもののなかには、過去と、現在と、そして未来がある。」

トラルファマドール星人の誘拐者の中の人間に同情的に見えたひとりは、彼が訪れたことがある31の生命が住む惑星のうち、「自由意志といったものが語られる世界は地球だけだった」と言う。

この本は、妻の死や、第二次世界大戦でのナチスによる捕囚や、この本を書くきっかけとなったドレスデン爆撃など、ビリーの人生で起きた他の様々な出来事も分析する。この小説では特定のフレーズが繰り返し使われている。例えば、死(人であれ動物であれシャンパンの泡であれ)に触れる時には「そういうものだ」("So it goes.")という語が使われ、死すべき運命を軽く見せ、死がありふれた事でユーモラスでさえあるかのようにしている。また、「芥子ガスバラ」が、腐乱した死体のひどい臭いや酔っぱらいの息に対して使われている。

ビリーの死は、奇妙な一連の出来事の結果である。戦闘の間、仲間の兵士のローランド・ウェアリーによると、ビリーは信じられないほど戦闘に不向きで、そのせいで2人は捕虜となった。ローランド・ウェアリーが、自身が捕虜になったことを(そして死ぬことも)ビリーのせいにするので、ウェアリーの陰気な友人ラザーロは、“ビリー・ピルグリムを殺す”と誓う。ラザーロは「復讐こそが人生における最も甘美なもの」と信じていたが、ビリーはいつも時空を旅していた為いつどうやって自分が殺されるのかを知っていた。彼はアメリカ合衆国が多くの小国に分裂した未来に、公衆の前で演説中に、ラザーロに撃たれて死ぬ。ビリーはその演説中、演説が終わるとわたしは殺されるだろうと宣言し、この“動かしようのない”事実を彼のメッセージを伝えるために使う。

時間は、3次元の切片に加わるもうひとつの次元であり、我々はその切片が同時に存在することを知っているのだから、誰もが常に生きており、死は悲しいものではないと。

日本語訳


  1. ^ a b c d e 上田伸治『アメリカで裁かれた本:公立学校と図書館における本を読む自由』 大学教育出版 2008年 ISBN 9784887307988 pp.136-170.






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