サンクトペテルブルクのパラドックス 標本抽出による解答

サンクトペテルブルクのパラドックス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/07 02:07 UTC 版)

標本抽出による解答

数学的に正しい一つの解答として、ウィリアム・フェラー (en:William Feller) による標本抽出がある。フェラーの解答を正しく理解するには確率論、統計学に関する十分な知識が必要であるが、直感的には「大人数でこのゲームを行い、その標本抽出から期待値を算出する」という手法を用いている。この手法によれば、このゲームの期待値が無限大となるのは無限回ゲームを行うことが仮定される必要があり、ゲームの回数が有限回数である場合、期待値は遥かに小さな値に収束することが示されている[7]

発展的話題

このパラドックスを理解するポイントの一つは、ゲームを繰り返す回数である。一言で説明すれば、あらかじめゲームを何回繰り返すかを決めておけば、比較的公平な賭け金を設定できる、ということである。

先述のように、賞金の期待値 W は発散する。したがって、第 n 回目の獲得賞金(n 回コインを投げるという意味ではなく、n はこのゲームに何回参加したかを表す) を Xn とすると、任意の実数 W に対して、

を満たす正数 ε は存在しない。

次に、どのように発散するかを定量的に評価することを考えてみよう。任意の正数 ε に対し、

となるような関数 f は存在しないのだろうか。実は、W = 1 とすると、f(n) = n log2 n ととることができることが知られている。つまり、log2 n のように発散していく。

したがって、このゲームを公平に設定したければ、参加者は最初に何回このゲームに参加したいかを申告してもらい、その回数 n に応じて参加費を n log2 n とすればよいということになる。このゲームへの参加費は、参加回数に対して非線形に増加する特殊な財である。

具体的に考えてみよう。仮に n = 1000 とする。すなわち、このゲームの販売店は、ゲーム1000回分をワンセットとして販売するのである。このときの価格は、約 9969 (≈ 1000 log2 1000) 円程度になる。

一方、ゲーム参加権はまとめ買いするよりもバラで買ったほうが得なので、消費者はバラで買おうとするだろう。すると、販売店側としてはせっかく参加費を非線形化した意味がなくなってしまい、販売店側にとっては不利である。つまり、販売店側はセットを売れば売るほど損をしてしまうし、いつかは大当たりを出されて破産してしまうと予測される。


  1. ^ 表が出る確率と裏が出る確率が、それぞれ正確に1/2という意味である。
  2. ^ 通貨単位は本質ではなく、どんなものでもいい。ベルヌーイの原論文ではダカット金貨が単位となっている。これは現在の日本円に換算すると約500円相当である。
  3. ^ 言い換えれば、このゲームの主催者がトータルで損を出さないための参加費はいくらか、という問題である。当然、その参加費より実際の参加費が高ければ結局は主催者が儲け、安ければ参加者が平均して勝って主催者は損失を被る。
  4. ^ 底は何でもいいので、以下では単に log と書く。
  5. ^ 例外として、賞金額が常に一定ならば等しい。
  6. ^ 日本家庭の資産中央値がこの程度である。
  1. ^ トドハンター p.205
  2. ^ トドハンター p.233
  3. ^ トドハンター p.234
  4. ^ トドハンター p.242
  5. ^ トドハンター p.295
  6. ^ トドハンター p.327
  7. ^ 「確率論とその応用」- 紀伊國屋書店 (1960/01):ISBN-13 978-4314000123






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