ゴウザンゴマシジミ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/13 23:36 UTC 版)
生態
本種は、卵から孵化したのち終齢幼虫になるまでは植物を食べて成長し、終齢期になるとアリの巣内でアリの幼虫を食べるようになる複雑な生活環をもち[2][3][5][8]、アリと関係の深い好蟻性(英語: myrmecophilous) 昆虫として知られている[2][3][8]。本種の基本的な生活史は古くから知られていたが、1970年代イギリスにおける個体数の激減にともなう研究の進展によって、生態にかんする知見の蓄積が進むこととなった[8]。
成虫は6月から7月に出現し、幼虫の食草となる植物の花序に産卵する。卵はおよそ1週間後に孵化し、幼虫は3週間ほど食草を摂食して成長する。成長して終齢(4齢)にいたった幼虫は食草を降り、採餌行動中のアリによって巣に運び込まれる。巣内に侵入した幼虫はアリの幼虫を捕食して成長し[5][8]、およそ9か月後には蛹化する[8]。その3週間ほど後には成虫が羽化して巣の外に這い出して翅を伸ばし[5]、ふたたび成虫が出現することで生活史を完了する[5][8]。成虫は短命であることが知られており、羽化後3 - 9日しか生存しない[5]。
幼虫の食草として利用されるのは基本的にイブキジャコウソウ属 Thymus に属する種(タイム)に限定されるが、タイムが利用できない際などにはオレガノ Origanum vulgare が利用される場合もある[8]。終齢幼虫の寄主として選択されるアリはクシケアリ属 Myrmica に限定される[2][3][8]。寄主アリは、イギリスでは基本的に Myrmica sabuleti 一種に限定される。M. sabuleti とごく近縁な種である M. scabrinodis の巣内で発育する幼虫もいるが、生存率が大きく下がるため、あくまで主要な寄主アリは M. sabuleti であるとされている。しかしながら、ヨーロッパの他の地域においては状況が異なり、M. sabuleti が分布しない地域における本種の生息やM. lobicornis などの他のクシケアリの利用が報告されるなど、本種の寄主特異性が従来考えられていたものよりも複雑である可能性が示唆されている[8]。
本種の終齢幼虫は体表に蜜腺(dorsal nectary organ)などの高度に発達したアリ関連器官を有しており、アリの巣に侵入する際にこれらの器官を用いていると考えられている[5][8]。また、アリの巣内における長期の生存を可能とするために化学擬態(英語: chemical mimicry)や音響擬態を行っている可能性も報告されており、本種の幼虫期における寄生的な生活様式はさまざまなシグナルの関与によって成立していると考えられている[8]。
注釈
- ^ Phengaris cyanecula も参照。
出典
- ^ Gimenez Dixon 1996.
- ^ a b c d e 上田 2018.
- ^ a b c d e f FRIC et al. 2007.
- ^ a b c d e SIBATANI, SAIGUSA & HIROWATARI 1993.
- ^ a b c d e f g h i j ハワース 1974.
- ^ a b c d Higgins & Riley 1970, pp. 264–265.
- ^ a b c d Wynhoff 1998.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n Hayes 2015.
- ^ a b Sielezniew & Dziekańska 2011.
- ゴウザンゴマシジミのページへのリンク