ケミカルピーリング ケミカルピーリングの概要

ケミカルピーリング

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/22 03:12 UTC 版)

薬剤の種類

角質を融解、または凝固させる剥離剤を塗る[2]。効果としては、皮膚の層を剥離させ皮膚の一部を壊し、そのことで創傷(キズ)となり、表皮や真皮が再生されることで皮膚の質や外観が変化する[2]

皮膚科などで行う専門的なケミカルピーリングは、pHの調整や使用する酸の濃度などを厳密に調整して行われる。酸を5 - 10分ほど皮膚に浸透させる。処置後に酸の刺激により肌に赤みが出ることがある。

ケミカルピーリングは角質層のバリア機能を減少させるため、ほかの薬剤の浸透を促進する[3]マイクロニードリングなど他の施術を併用したり、施術後に医薬品(ヒアルロン酸など)を用いることによって皮膚の再生を促進させることもある[2]

主に皮膚の浅い層に作用するのはレチノイン酸、アルファヒドロキシ酸 (AHA)、サリチル酸であり、グリコール酸やトリクロロ酢酸ではより深い層に作用する[2]。この作用の深さは薬剤の濃度にもより、調合・調整される[2]。ニキビや、軽度の変色、色素沈着、紫外線による問題では、浅い層までの作用でよく、中程度の問題では中程度の層でまた1週間ほどの肌の再生期間を要し、深い層では皮膚の上皮化(再生)を待つため2-3週間かかる[2]。失敗などでより深く剥離された場合には、表皮の再生には数週間から数か月かかり、盛り上がりができることもある[4]

強い薬剤では副作用もそれなりに生じるということであり、マイクロニードリングの提唱者のフェルナンデスは、乳酸のような弱い薬剤で皮膚への浸透力を高めてビタミンA、ビタミンCを併用することで皮膚の生成を促した方がいいという考え方を提案している[4]。スキンケアのためのトーナーは、化粧水のように用いビタミンの浸透性を高めるという目的でも弱いアルファヒドロキシ酸が配合されており、ニキビではAHAを多くするかベータヒドロキシ酸 (BHA、ここではサリチル酸) が配合される[5]

レチノイン酸

レチノイン酸は医師による施術は不要である[1]トレチノイン(オールトランスレチノイン酸)によるピーリングは2001年に肝斑の治療選択肢として発表されたが、そのほか光老化などに対してもランダム化比較試験による厳格な効果の調査が必要であると2017年に言及されている[6]

アルファヒドロキシ酸

アルファヒドロキシ酸(AHA)[1]。これらはリンゴ酸、酒石酸(ブドウ)、クエン酸(レモンなど)、グリコール酸(サトウキビ)、乳酸のように果物に由来する[2]乳酸は単独か、アルファヒドロキシ酸と併用され副作用が少ない[3]。合成の乳酸(l型・d型混在)より天然の乳酸(l型のみ)の方が刺激が弱い[7]。10-15%濃度以上から専門家の施術となり[8]、それ以下では一般的な家庭用の化粧品に含まれている。グリコール酸(後述)もこのグループに入るが濃度が高い場合強い剥離作用がある[2]

AHAは角質層の死んだ細胞を自然にはがすことを促す[7]。フェルナンデスは毎日定常的に使うものではなく、AHAは一時的に週に数回にとどめて使うもので、紫外線を避ける必要があるので夜の使用を推奨している[7]

水などによる中和を必要とする[2]

サリチル酸

サリチル酸には、樹木の由来で、抗炎症性もあり、30%までの濃度では中和剤は不要である[3]。ベータヒドロキシ酸 (BHA) に属し、脂溶性であるためAHAより毛穴の汚れを除去しやすい[9]。ケミカルピーリングでは10-30%の濃度で使用される[2]。塗布後、3-5分で灼熱感がする[2]。水溶性のAHAと異なり脂溶性なので毛穴の汚れを取ることもできる[7]。2%濃度以上から専門家による施術となり[8]、それ以下では一般的な家庭用の化粧品に含まれている。

さらに2種の形態をとる。

  • サリチル酸マクロゴール - 最も浅い角質のみに作用する[1]
  • サリチル酸エタノール - 脂腺から吸収されサリチル酸中毒英語版を起こす危険性がある[1]。使用のための証拠はないため推奨されない[1][10]

グリコール酸

グリコール酸はよく使用されている[1]。30%以上の濃度では浮腫やびらんの危険性が増える[1]。生理食塩水などのアルカリ性溶液で解離作用を中和して止める必要がある[3]

酢酸

トリクロロ酢酸は、タンパク質と結合する[1]。そこで作用も失うため、全身副作用はないが局所での瘢痕のおそれがある[1]。タンパク質の変性、コラーゲンの破壊などを起こし、濃度に応じて深い層に達する[3]

歴史

古くは紀元前エジプトのパピルスにピーリングを行った記録がある[2]

近代的には1871年にはTulbury Foxが20%濃度のフェノールを肌に使った[2]。ニキビには1903年にマッキー (Mackee) がフェノールを使った[2]。後にサリチル酸が提唱されたが大量に使うと中毒を起こし耳鳴りや嘔吐が起こった[7]。1960年にはエアーズがフェノールよりトリクロロ酢酸の方が適しているとした[2]。フェノールは皮膚の深い層まで破壊し、しばらくは綺麗な肌になったが、時間と共に不自然な皮膚になっていくという特徴があり廃れていった[7]。フェノールほどではないがトリクロロ酢酸はダウンタイムが7日程度と長かった[7]

1960年代にスコットがグリコール酸を使い、レチノイン酸が脚光を浴びた後、1980年代にはアルファヒドロキシ酸 (AHA) が広く認識されていった[7]

日本では、ケミカルピーリングによる被害例があったため、2000年には業として実施していれば医業に相当すると厚生省が明言し、2001年より日本皮膚科学会がガイドラインを作成してきた[1]。ガイドラインの作成によって皮膚科でケミケルピーリングが実施されることが増えた[11]。2006年に根拠に基づく医療に忠実としてガイドラインを改訂、2008年には第3版となった[1]


  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p ガイドライン3版 2008.
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u Chemical peels: A review of current practice 2018.
  3. ^ a b c d e Castillo DE, Keri JE (2018). “Chemical peels in the treatment of acne: patient selection and perspectives”. Clin Cosmet Investig Dermatol: 365–372. doi:10.2147/CCID.S137788. PMC 6053170. PMID 30038512. https://www.dovepress.com/chemical-peels-in-the-treatment-of-acne-patient-selection-and-perspect-peer-reviewed-fulltext-article-CCID. 
  4. ^ a b デスモンド・フェルナンデス 著、畠山けんじ 訳『デスモンド・フェルナンデスのスキンケア・ハンドブック』(新訂版)ハック畠山けんじ事務所、2002年、136-137、201-206頁頁。ISBN 4-939097-02-1 
  5. ^ デスモンド・フェルナンデス『Dr.フェルナンデスのスキンケアのすべて 世界70ヶ国以上の人から愛される美容の真実』幻冬舎、2011年、95-97頁。ISBN 978-4-344-99796-7 
  6. ^ Sumita JM, Leonardi GR, Bagatin E (2017). “Tretinoin peel: a critical view”. An Bras Dermatol (3): 363–366. doi:10.1590/abd1806-4841.201755325. PMC 5514577. PMID 29186249. https://doi.org/10.1590/abd1806-4841.201755325. 
  7. ^ a b c d e f g h i j デスモンド・フェルナンデス『Dr.フェルナンデスのスキンケアのすべて 世界70ヶ国以上の人から愛される美容の真実』幻冬舎、2011年、155、158、160-162、168-170、224頁頁。ISBN 978-4-344-99796-7 
  8. ^ a b Katie Rodan, Kathy Fields, George Majewski, Timothy Falla (2016-12). “Skincare Bootcamp: The Evolving Role of Skincare”. Plastic and reconstructive surgery. Global open 4 (12 Suppl Anatomy and Safety in Cosmetic Medicine: Cosmetic Bootcamp): e1152. doi:10.1097/GOX.0000000000001152. PMC 5172479. PMID 28018771. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/pmid/28018771/. 
  9. ^ デスモンド・フェルナンデス『Dr.フェルナンデスのスキンケアのすべて 世界70ヶ国以上の人から愛される美容の真実』幻冬舎、2011年、166-168頁。ISBN 978-4-344-99796-7 
  10. ^ a b 林伸和、古川福実、古村南夫 ほか「尋常性痤瘡治療ガイドライン2017」『日本皮膚科学会雑誌』第127巻第6号、2017年、1261-1302頁、doi:10.14924/dermatol.127.1261NAID 130007040253 
  11. ^ 渡辺幸恵、森田明理「ざ瘡に対するグリコール酸ピーリング199例の治療経験」『西日本皮膚科』第68巻第5号、2006年、548-552頁、doi:10.2336/nishinihonhifu.68.548NAID 130004831577 
  12. ^ Spring LK, Krakowski AC, Alam M, et al. (August 2017). “Isotretinoin and Timing of Procedural Interventions: A Systematic Review With Consensus Recommendations”. JAMA Dermatol (8): 802–809. doi:10.1001/jamadermatol.2017.2077. PMID 28658462. 


「ケミカルピーリング」の続きの解説一覧



英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「ケミカルピーリング」の関連用語

ケミカルピーリングのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



ケミカルピーリングのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのケミカルピーリング (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS