カーボンフットプリント
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カーボンフットプリントの算定手法と制度
現存するものとしては、環境ラベルについて規定する国際標準化機構(ISO)のISO14025があるが、これにはカーボンフットプリントを念頭に置いた細かい規定がなく、さらなる制度整備が必要とされてきた。ISOの技術委員会では、企業がカーボンフットプリントを商品に表示する場合、どのような基準で算定するかの検討を行い、標準化を目指している。概ね2011年までにはカーボンフットプリントを規定したISO14067が発表される見通し[5]。
現段階では、イギリスのPAS2050(ドイツ語)が2008年秋ごろに発表されて実証段階にあり、これが世界初の基準となった[6]。このほか、日本やドイツで独自基準が作られ始めている。
基準は各事業者が決めているが、参考として京都議定書や欧州連合域内排出量取引制度(EU ETS)、ライフサイクルアセスメント(LCA)などにおいて用いられている科学的な排出量の証明方法があり、これを用いるのが現状では最も信頼性のある方法である。
ただ、排出量の算定は煩雑な計算を伴う。業種や製造法などによって算出式も異なる上、原材料の採取や廃棄など自社が直接関わっていない部門の排出量をも算出しなければならない。そのため、費用対効果が少なければ敬遠されがちだとされ、普及に際しては算定方法を簡素化したりといった支援が必要になるのではないかという指摘がある[7]。簡素化に関しては、無数の部門や作業工程などのうち、全排出量に占める割合が低いものについては、算出対象にしなくても良いというカットオフ(cut off)の制度がある。イギリスのカーボンフットプリント規格であるPAS2050の場合、全排出量の1%以上を占める排出源をすべて算出に含め、かつ全排出量の95%以上の排出源を算出対象にする場合に限ってカットオフを認めている[8]。
また、算出データについては、事業者が自ら測定・調査した生のデータと、事例から明らかになっているデータを当てはめて算出した二次的なデータの2種類がある。PAS2050の場合、全排出量の60%以上の排出源で生のデータを用いることを定めている[8]。
制度化に関しては、次のような論点が挙げられている[8]。
- 算定対象に含める範囲はどこまでか。例えば、シャンプーにおいて、使用後に容器を洗うときにお湯などを使用するが、それを含めるか、といったこと。
- 原材料にリサイクル・リユースのものを用いた場合、新規製造時と比較した排出量の増減を算出に加味してよいか。
- 廃棄時にリサイクル・リユースをする場合、新規製造時と比較した排出量の増減を算出に加味してよいか。
- 同種の製品において寿命が異なる製品がある場合、(寿命を全うした)1個あたりの排出量を採用するか、(例えば1年間あたりなど)一定期間あたりの排出量を採用するかによって、排出量が変わり有利・不利も変わってくるが、どう表示するか。
- 科学的根拠の証明や信頼性の担保をどうするか。第三者機関による関与をどうするか。
また、表示の仕方や制度に工夫を凝らす試みも行われている[9]。
- 廃棄に関して、現状よりもリサイクル率を上げれば排出量が減ることを示し、消費者に分別等を促す試み(フランス、Casino社)。
- 排出量を示すのではなく、一定の排出量からの削減率を表示する(オランダ、SGS社)。
- 排出量とともに削減マークを表示、2年後までに削減できなければマークの貼り付けを停止する案も(イギリス、Carbon Trust社が提供する制度)
- ^ G.Hammond, Nature, 445(256),2007. [1]
- ^ 5-1 家庭からの二酸化炭素排出量(世帯当たり、燃料種別、用途別-2006年) JCCCA。
- ^ Walkers carbon footprint Walkers Snacks Ltd
- ^ resource-efficient business innocent drinks
- ^ PAS 2050を用いた二酸化炭素量の算出 IRCA
- ^ LCA日本フォーラムニュース No.46 日本LCA学会、2008年9月1日。
- ^ 商品のCO2排出量を“見える化”する 「カーボンフットプリント」とは? 呉琢磨、R25、2008年8月22日。
- ^ a b c カーボンフットプリント制度のあり方に関する論点と考え方 経済産業省、2008年8月4日。
- ^ a b c d e f 「見える化」の海外事例(概要版) 環境省、温室効果ガス「見える化」推進戦略会議(第2回)、2008年8月。
- ^ 「カーボンフットプリント制度」は何のため?小林珠江、nikkeiBP、2009年7月21日。
- ^ 安全科学研究部門で期待されるLCAとは何か 稲葉敦、産業技術総合研究所、2008年9月。
- ^ 「見える化」の国内外の事例 環境省、温室効果ガス「見える化」推進戦略会議(第3回)、2008年9月。
- ^ 経産省が研究会設置 ISO化にも対応 エコプロ展で表示へ 環境新聞
- ^ カーボンフットプリント制度の実用化・普及推進研究会経済産業省
- ^ “カーボンフットプリント・統一マークの公募要領”. みずほ情報総研 (2008年7月29日). 2008年11月4日閲覧。
- ^ 配付資料一覧(第4回) 農林水産省、2008年7月23日
- ^ “ビールでは世界初2009年から黒ラベル缶で順次全国展開”. サッポロビール (2008年6月19日). 2008年10月12日閲覧。
- ^ “ビール缶に排出量表示”. 読売新聞2009年3月6日13S版37面. 2009年4月7日閲覧。
- ^ カーボンフットプリント・統一マークの決定について 経済産業省、2008年11月14日。
- ^ カーボンフットプリント事業案内産業環境管理協会
- ^ “カーボンフットプリントの制度試行事業を開始 (PDF)”. 経済産業省 (2009年5月29日). 2009年10月14日閲覧。
- ^ “国内初CO2の“見える化”「カーボンフットプリント」 (PDF)”. イオン (企業) (2009年10月13日). 2009年10月14日閲覧。
- ^ “カーボンフットプリント”. 経済産業省 (2012年4月16日). 2013年3月19日閲覧。
- ^ “CFPプログラムについて”. 社団法人産業環境管理協会. 2013年3月19日閲覧。
- ^ “「製品のカーボン・ニュートラル制度」試行事業研究会”. 経済産業省 (2012年12月24日). 2013年3月19日閲覧。
- ^ “「製品のカーボン・ニュートラル制度」試行事業”. 経済産業省 (2012年11月27日). 2013年3月19日閲覧。
- ^ “「CFPを活用したカーボン・オフセット製品等」試行事業研究会(第1回)‐配布資料”. 経済産業省 (2013年9月4日). 2013年3月19日閲覧。
- 1 カーボンフットプリントとは
- 2 カーボンフットプリントの概要
- 3 カーボンフットプリントの算定手法と制度
- 4 カーボンフットプリント表示の効果
- 5 各国のカーボンフットプリント表示状況
- 6 脚注
- カーボンフットプリントのページへのリンク