オレンジ 語源

オレンジ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/27 05:10 UTC 版)

語源

「オレンジ」という言葉は、サンスクリット語でオレンジの木を意味する「ナーランガ(नारङ्ग)」に由来し、これを更にさかのぼるとドラヴィダ語で「香り高い」を意味する「ナル(naru)」から来たものである[35]。このサンスクリット語は、ペルシャ語「ナーラング(نارنگ)」やアラビア語「ナーランジュ(نارنج)」を介して欧州言語に入ってきた。

このアラビア語がフランスの古プロヴァンス語に入ると、果実の色からラテン語で「黄金」を意味する"au-"が付されて「オーランジャ(auranja)」となり、フランス語では「金」を意味する"ou-"に置き換えられて「オルンジュ(orenge)」に変化した[35]。そして14世紀に、この古フランス語の単語が後期中英語に導入されて「オレンジ(orange)」になったとされる。最初に英語でオレンジ(orange)と表記されたのは1512年である[36][37]

オレンジ色はこの果物にちなんで名付けられた[38]

歴史

オレンジの花の拡大写真
趙令穰による宋代の絵画『橙黃橘綠』(国立故宮博物院所蔵)

スイートオレンジは野生の果実ではなく[39]、非純粋なマンダリンオレンジと実質的にマンダリン要素を持つブンタン交雑種との掛合わせからの栽培で生まれた。その葉緑体DNAはブンタンのそれで、恐らくブンタン1代戻し交配のブンタン交雑種だった可能性が高く、これが初代オレンジの母親となった[13][40]。ゲノム解析に基づくスイートオレンジ先祖品種の相対的な割合は、ブンタン約42%とマンダリン約58%である[41]。スイートオレンジの全品種はこの最初の掛合わせから派生したもので、農業繁殖中に選抜された突然変異によってのみ違いが生じる[40]。スイートオレンジは、ダイダイ(英名:ビターオレンジ、恐らく野生環境で独自発生した)と起源が異なり、純粋なマンダリンとブンタンを両親とする掛合わせから生まれた。中国文学における最も古いこの柑橘類への言及は紀元前314年に遡る[8]

ヨーロッパでは、ムーア人がイスラム統治下のイベリア半島にオレンジを導入し、一緒に大規模栽培が10世紀に始まった(同果樹園を支える特別に設えられた複雑な灌漑技術の証拠も存在する)[42]。柑橘類の果実は、9世紀のイスラーム統治期にシチリア島に導入されたが、イタリアとポルトガルの商人が地中海地域にオレンジの木を持ち込んだ15世紀後半か16世紀初頭まで、スイートオレンジは知られていなかった[16]。その後すぐに、スイートオレンジが食用果実に採用された。スイートオレンジは高級品と考えられ、富裕層はオランジェリーと呼ばれる私的な温室[43]でオレンジを栽培した。1646年までに、スイートオレンジは欧州全域でよく知れ渡った[16]。フランスのルイ14世はオレンジの木を特に愛でており、ヴェルサイユ宮殿に王室オランジェリーの中で最も壮大なものを造ってしまった[44]。ヴェルサイユでは、銀無垢の桶に植えられたオレンジの木が宮殿の部屋じゅうに置かれ、オランジェリーは一年中この果物を栽培して王宮に供給できるようにしていた。

スペイン人渡航者がアメリカ大陸にスイートオレンジを導入した。1500年代半ばに南米とメキシコ、そして1565年にはフロリダ州にスイートオレンジがもたらされた。オレンジはビタミンCが豊富であり簡単には腐らないので、大航海時代にポルトガル・スペイン・オランダの船員が壊血病を防ぐために貿易ルートに沿ってミカン属の果樹を植えていった。

日本に関しては、江戸時代の鎖国体制のため幕末まで欧米との交易は確立されず、古代から中国経由で導入されていたオレンジの近縁種ミカンが先に栽培され、国内流通していた[45]。欧米からオレンジが導入されるのは明治時代に入ってからの事である[5]

品種

普通オレンジ

ナイジェリアクワラ州のオレンジ販売業者が、オレンジの外皮を剥いているところ。

普通オレンジは、オレンジ生産量の約3分の2を占めている。この作物の大部分はジュースの抽出に使用される[28][29]

バレンシア

フロリダ州のオレンジ畑

バレンシアオレンジは晩生果実であり、ネーブルオレンジが季節外れの時に普及する品種である。スペインで開催された1982 FIFAワールドカップのマスコットに擬人化したオレンジが選ばれた。このマスコットはナランヒート(Naranjito,小さなオレンジ)と名付けられ、スペイン代表の色を身に着けていた[46]

ただし原産地はスペインのバレンシア州ではない。アゾレス諸島(ポルトガル領)から1870年頃に米国に持ち込まれ、フロリダ州でその果樹が売却されたのが発端である[47][48]

チェリーオレンジ

日本だと「紀州ミカン」または「小ミカン」と呼ばれている品種である[49]。日本で最も古くから育てられているミカン属の果実で、原産地は中国浙江省から長江一帯とする説が有力である[50]。江戸時代から明治時代中頃までは日本における食用ミカンの代表種だったが[50]、種有りで酸味が強かったこともあり、その後は食べやすい温州ミカン(種なしで甘みが強い)が台頭した。

19世紀末に、日本から米国へと持ち込まれて「キノクニ マンダリン(Kinokuni mandarin)」と呼ばれているほか[49]、ヨーロッパでは「チェリーオレンジ (Cherry Orange」のブランド名で売られている。

その他

フィリピンの市場で売られている様々なオレンジ
  • ハムリン:1879年に米国フロリダ州で発見された栽培品種。高収量で耐寒性があり、10月から12月に良質の実が成る。食用果実だが商業利用には小さすぎる[39]。フロリダ州では最も人気のあるジュース用オレンジの1つ。
  • バリ:インドネシアのバリ島で栽培。他のオレンジよりも大きい
  • ビオンド・コムーネ:地中海盆地の、特に北アフリカ・エジプト・ギリシャ・イタリア・スペインで広く栽培され、「ベレディ」「ノストラーレ」とも呼ばれる[28]
  • カダネラ:アルジェリア・モロッコ・スペインで栽培される種なしオレンジで、風味に優れている。11月に熟し始め「種なしバレンシア」ほか様々な商品名で知られる[28]
  • 福原オレンジ:日本の千葉県で誕生した晩生種。1909年頃、福原周平がユズの台木にジョッパを接ぎ木した際の枝変わりで生まれた[51]
  • ガードナー:フロリダで生育している中生品種で、2月初旬頃に熟す。果実は比較的固い[52]
  • ジャッファ・オレンジ:中東産の品種で「シャムーチ」とも呼ばれる
  • ジンチェン(錦橙):中国で最も普及しているオレンジ
  • ジョッパ:南アフリカとテキサス州で栽培。
  • コナ:ジョージ・バンクーバーによって1792年にハワイに導入されたバレンシアオレンジ品種。19世紀はこのオレンジがハワイ島コナ地区からの主要輸出品で、同地区では最初に植えた果樹が今でも結実する。
  • ルーギムゴン:フロリダで栽培。「ミカンの天才」とも称される中国系移民の劉錦濃(刘锦浓)が生み出した、彼の名に由来する品種[16][53]。交雑種ではなく珠心胚実生の品種で[54]、2006年以降は一般名バレンシアで売られている。
  • マセテラ:スペインで栽培、独特な風味で知られる
  • マルターゼ・ブロンド:北アフリカで栽培
  • マルターゼ・オーバル:南アフリカとカリフォルニアで栽培、「ギャレイズ」「カリフォルニア地中海スイート」といった名前でも知られる
  • マース:テキサス州、カリフォルニア州、イランで栽培され、酸味が比較的低い
  • ミッドスウィート:フロリダで栽培され、ハムリン品種に似た新しい穂木、果実は硬くて晩生。果物の生産と品質はハムリンのと同様ですが、果汁の色がより濃い[52]
  • モロ・タロッコ:イタリアで栽培。楕円形の果実でタンジェロに似ており、内果皮が独特のキャラメル色。この色は赤い果実・花に共通するアンソカルピウムと呼ばれる色素によるもので、通常はミカン属に存在しない。起源は17世紀にシチリアで起きた突然変異。
  • ナリンジャ:南インドのアンドラで栽培
  • パーソンブラウン:フロリダ・メキシコ・トルコで栽培され、かつてはフロリダ広く栽培されたジュース用オレンジ。但し現在は他の品種に押され気味で人気低迷。1865年にフロリダ州で偶然の種苗で始まった。果実は丸くてサイズ中程度、厚くてごつごつした外皮で、10-30の種が入っている。米国で最も早生な果実で、通常は9月上旬(テキサス州)[29] や10月上旬-1月(フロリダ州)[52]に成熟する。外皮と果汁の色が貧弱で、果汁の品質も同様である[29]
  • ペラ:ブラジルで栽培され、ブラジルの柑橘類産業で非常に人気があり、2005年に750万トンを収穫した。ペラコロア、ペラナタル、ペラリオなどの変種もある
  • ポンティアナック:特にインドネシアのポンティアナックで栽培された楕円形のオレンジ
  • ロードレッド:バレンシアオレンジの突然変異だが、果肉の色が鮮烈。バレンシアよりも多くの果汁・酸味・ビタミンCがある。1955年にフロリダ州で発見された。
  • ローブル:1851年にスペインからフロリダ州に最初に船で運んだ人物ポール・ロードの名を冠した品種。糖度が高いことで知られる。
  • セレタ、セレクタ:オーストラリアとブラジルで栽培され、酸味が強い
  • シャムーチ・マスリー:エジプトで栽培。より結実するシャムーチの変種
  • サンスター:フロリダで栽培。この新しい品種は中生(12月から3月)の果実で、耐寒性かつ落果しづらい性質がある。果汁はハムリンの色よりも暗い[52]

ネーブルオレンジ

ネーブルオレンジは、頂点で第2の果実が膨らんで僅かに突出し、人間のへそ(navel)に似ているのが特徴である。様々な理由で人間の消費向けに栽培されている。一般に、厚い外皮が皮をむきやすくしており、果汁は少なめながら、ジュースに不向きな苦味も少ない[28]。栽培可能地域の広さと長い収穫期間がネーブルオレンジを非常に普及させた。.米国では11-4月にかけて収穫可能で1月-3月が出荷のピークである[55]

1917年のアメリカ合衆国農務省による研究によると、ブラジルのバイーア州に植えられたセレクタオレンジの枝変わりで[56]、恐らく1810-1820年の間に最初のネーブルオレンジが生まれたとされている[57][注釈 4]。この突然変異で、オレンジは茎と逆側の底部に第2の果実を(大きな第1果実の皮内部に)生じさせた[58]。ネーブルオレンジは1824年にオーストラリアへ、1835年にフロリダ州へと導入された。1873年、 カリフォルニア州に原木の株が2つ植えられ、そこでの果実が「ワシントン」ネーブルとして知られていった[59]。この栽培品種は非常に成功し、急速に他国へと広まった[57]。 この突然変異で種が無くなったため自家繁殖できず、他のミカン属果樹に接ぎ木するのがネーブルオレンジを栽培する唯一の方法となった。ちなみに、日本で出回っているほとんどのネーブルオレンジは、このワシントンネーブルが起源となっている[60]

現在、ネーブルオレンジは挿し木接ぎ木による伝播が続けている。これは一般的な育成選択の手法が使えないためで、全てのネーブルオレンジは単一の約200年前の木から生じた果物だと見なすことができる。原木と全く同じ遺伝的構成を有しており、クローンである。これは、一般的な黄色の種なしキャベンディッシュ (バナナ)グラニースミス (リンゴ)の場合と同様である。滅多には起きないが、更なる突然変異が新たな品種をもらたらすことがある[57]

カラカラ

カラカラオレンジの果肉(左)

カラカラ・ネーブルオレンジ(ルビーブラッドネーブルやピンクネーブルとも呼ばれる)[61]は、主にベネズエラ・南アフリカ・米カリフォルニア州で栽培されているネーブルオレンジの一種。甘くて酸味は比較的少なく[62]、他のネーブルに似て鮮やかなオレンジ色の外皮だが、果肉は独特にピンクがかった赤である[61]。先のワシントンネーブルとブラジルのバイーアネーブルの掛合わせで生まれたと考えられており[63]、1976年にベネズエラのカラカラ農園で発見されたことからその名が付いた[64][61]

南アフリカ産のカラカラは8月上旬に市場出荷の準備が整うが、ベネズエラ産の果実は10月に、カリフォルニア産は11月下旬に出荷時期を迎える[62][63]

その他

  • バイーアネーブル
  • ドリームネーブル
  • (晩生の)レイトネーブル
  • ワシントンネーブル(en)またはカリフォルニアネーブル

ブラッドオレンジ

輪切りされたブラッドオレンジ

ブラッドオレンジは[16]、オレンジ(Citrus sinensis)の天然による突然変異種だが、現在はその大半が交雑種である。高濃度のアントシアニンが果実の外皮と果肉と果汁に特徴的な赤紫色をもたらし、日本では直訳で「血ミカン」という呼び方もされる[65]。15世紀にシチリア島で初めてブラッドオレンジが発見され、栽培された。以来、世界中に広まっていくが、特にスペインとイタリアで栽培されている。ブラッドオレンジには独特の色と風味があり、一般的にはジュース向きと考えられている。ごく狭い用途だが、セビリアの伝統的なマーマレードに入れる材料としても使われている[要出典]

主な品種

ブラッドオレンジでよく知られている品種を幾つか挙げる[66]

  • マルチーズブラッド:小ぶりながら色の濃い品種で、イタリアで突然変異として誕生したと一般的に考えられており、何世紀にもわたって栽培されている。また、スペイン南部とマルタで広範囲に育成されている。豊かなワインレッドのためシャーベットや他のデザートに使われている。
  • モロ:シチリア島が発祥でありイタリア全土で一般的な品種。この中型の果実は、12月から4月までと収穫時期が比較的長い。
  • サンギネリ:ドブルフィーナの突然変異体で、1929年にスペインのカステリョン県で発見された。シチリア島で栽培されている。
  • タロッコ:イタリアで開発された比較的新しい品種。1月下旬に熟し始める[67]

無酸オレンジ

無酸オレンジは、酸味の非常に低い早生果実である。米国ではこれも「スイート」オレンジと呼ばれ、諸外国でも似たような名称が付いている。北アフリカや近東では「メスキ」の名で非常に普及している[68]

腐敗から果汁を保護してくれる酸味が欠けているので、一般的にジュース製造向きではなく、主に生食用である。この品種は現地消費において利益を生んでいるが腐敗の足が早いため、人口が沢山いるヨーロッパ・アジア・米国の中核地への輸出には適していない[28]

交雑種

スイートオレンジは交雑種の範囲も広げており、特にグレープフルーツはスイートオレンジとブンタンの戻し交配から生じている。グレープフルーツとスイートオレンジの自発的な戻し交配は、続いてオランジェロをもたらす結果となった。スイートオレンジとミカン(マンダリンやタンジェリン)との自発的および工学的な戻し交配はタンゴールと通称される品種を生み出し、ここにはクレメンティン[69]マーコットなどが含まれる。

より複雑な掛合わせも行われている。いわゆるアンバースイートオレンジは、実際には(オーランドタンジェロとクレメンティンの)交配種とスイートオレンジとを掛け合わせた複雑な交雑種であり、米国ではこれを合法的にオレンジジュースに使用できるようスイートオレンジに指定した[41][70]。シトレンジは、一般的なスイートオレンジとカラタチとの属間交雑種である[71]


注釈

  1. ^ 一方、原産地インドから中国経由の伝来ルートで、古代(古事記日本書紀によると垂仁天皇(紀元前69-70)の時代)[3]に日本に持ち込まれ、古くから国内栽培されてきたミカン属は「ミカン」と呼ばれる[4]
  2. ^ この呼称は、英語圏で「サワーオレンジ」や「ビターオレンジ」と呼ばれるダイダイ類と区別した[2]、甘いミカン属果実を指すもの。
  3. ^ a b FAOは、オレンジとタンジェリンとを分けて統計調査しており、ミカン類は後者に該当するためオレンジ生産に含まれない。なお、日本のミカン類の収穫量は2018年に74.6万トンで、これはタンジェリン生産の世界9位である[102]
  4. ^ ただしカリフォルニア大学は、親がポルトガルのネーブルオレンジ(Umbigo)の可能性がある、との異論を展開した[57]

出典

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