インターネットエクスチェンジ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/29 03:00 UTC 版)
IXの歴史
国内IXの登場
当初日本では国内ISP間における海外周りのトラフィックが問題となっており、1994年には国内経路の交換を目的として日本初の実験的IXであるNSPIXP-1が東京に誕生した[9]。NSPIXP-1は当初レイヤ3 IXとなっていたがレイヤ3 IXでは各ISPによる経路制御が難しく、NSPIXP-1はその後フルメッシュ方式のレイヤ2 IXへと移行した[9]。
1996年にはNSPIXP-1の後継として、より広帯域なNSPIXP-2が登場し、NSPIXP-1は1997年に終了となった[9]。NSPIXP-2ではNSPIXP-1と異なりバイラテラル方式を採用し、各ISPがIXでIPトランジットサービスを行うことが可能となった[10]。
ATM IXの登場
データリンク層(レイヤ2)において可変長パケットのイーサネットを置き換える固定長パケットの ATM (Asynchronous Transfer Mode) が考案され、国内では1994年11月にNTTが ATM によるセルリレー (CR) 網をバックボーンとして用いたフレームリレー (FR) サービスを開始し[11]、またその後、他の通信会社もバックボーン等にATMを用いるようになり[12]、1997年9月にはATM により相互接続を行う商用 ATM IX の「メディアエクスチェンジ」(MEX) が登場した[13]。
しかしながらその後レイヤ2では ATM が衰退し、前述の MEX も ATM IX からレイヤ3 IX へと移行していった[14]。
商用イーサネットIXの登場
商用IXでも実験的なNSPIXP-2と同様のイーサネットIXが登場することとなった[15]。当時、IXの商用化は急増するトラフィック需要に見合った拡大のための資金を得るために必要だったとされている[16]。1997年7月、KDDらは日本インターネットエクスチェンジ (JPIX) を設立し[17]、同11月より東京で商用IXサービスを開始した[18]。
同1997年にはNTTとIIJらもインターネットマルチフィードを設立し、インターネットマルチフィードは2001年に東京で商用IXサービスのJPNAPを開始している。また同2001年には米国のPihana Pacificが東京にデータセンターを開設し、Pihana Pacificはそのデータセンターにハウジングする顧客が任意のキャリアを使えるようにするために独自のIXを開始した[19][20]。翌2002年にはPihana Pacificがエクイニクスに買収された[21]。
2003年6月にはソフトバンクBBがBBIXを設立し、BBIXも同年9月より東京で商用IXサービスを開始した[22]。
地域IXの登場
1990年代後半から2000年代には情報通信に力を入れる地方自治体が増えて県内バックボーン回線(地域情報ハイウェイ)の整備を行うようになり、それと共に地域IXが盛り上がっていった。
例えば沖縄では、1996年に内閣府において沖縄の地域経済の自立を目指した沖縄政策協議会が結成され[23]、そこで郵政省が「沖縄マルチメディア特区構想」を、通産省が「沖縄デジタルアイランド構想」を提案し[24][25]、1998年に沖縄県がそれらを基にした沖縄マルチメディアアイランド構想を策定し[26]、同年には「沖縄地域インターネットエクスチェンジ接続実験」(OIX実験、後のOIX) が開始された[27]。2006年にはBBIXも沖縄に拠点を設けている[28]。
その他の地域でも、2002年に岐阜情報スーパーハイウェイを整備中の岐阜県と国際海底ケーブルの陸揚げ局のある三重県が共同で地域IXのGCIXを設けた[29][30]ほか、2004年にBBIXがふくおかギガビットハイウェイ[31]と日韓国際回線KJCN[32]のある福岡に拠点を設けていた[33]。
地域IXは特に東京から距離の遠い地方においてバックボーンの共同調達のために重要となっていた[30]が、本州では東京への回線が安くなるにつれて地方IXブームが下火となっていった。
分散化およびリモート接続
分散型IXの登場
実験的分散IXでは1997年に東京のバックアップとして大阪に新たな実験的IXのNSPIXP-3が構築された[9]が、NSPIXP-3ではこれまでの一箇所に設置する集中型ではなく複数の場所に設置する分散型の構造が採用された[9]。また、2003年には東京のNSPIXP-2も狭域の分散型へと移行し、その名前が DIX-IE へと改められた[9]。
商用分散IXでは2001年にJPIXがベイエリアへと進出し、既存の大手町との分散型IXとなった[34]。また前述のJPNAPも同2001年にNTTコミュニケーションズ大手町ビル内と東京サンケイビル内の分散型IXとして登場していた[35]。
広域分散型IXの登場
実験的広域分散IXでは1999年に地域IX関係者らによってATM交換網のJapan Gigabit Network (JGN) を使った「地域間相互接続プロジェクト」(RIBB、TAO JGN-G11012) が立ち上げられた[36]後、2001年に三菱総合研究所とインテック・ウェブ・アンド・ゲノム・インフォマティクスによって広域分散型IXを研究する次世代IX研究会が立ち上げられ[37]、次世代IX研究会はこの地域間相互接続プロジェクトに参加する各組織を相互接続する広域分散IXの実証実験を行った[38]。その後、2004年にJGNの後継としてイーサネット網のJGN IIが登場し、JGN IIにおいても広域分散IXに対応する「地域間相互接続プロジェクト II」(RIBB II、JGN2-A16020) が登場した[39]。
商用広域分散IXでは2001年にJPIXが名古屋に拠点を設け[40]、東京と名古屋を繋げて広域IX化を行った[41]。2002年には日本テレコム(後のソフトバンクテレコム)がMPLSを用いた商用広域分散型IXのmpls ASSOCIOを開始した[42]。また前述のBBIXも2003年に全国分散型IXを目指して設立された(最初期は東京のみ)[43]。
国際化
2000年に第26回主要国首脳会議(沖縄サミット)でグローバルなネットワークの促進を目指す[44]「グローバルな情報社会に関する沖縄憲章」が策定されると[25]、同時期に日本政府が沖縄経済振興21世紀プランの中で沖縄にグローバルなIXの設立を目指す沖縄国際情報特区構想を策定した[45]。しかしながらこのグローバルなIXは長らく実現されることがなく、沖縄県は2005年になってようやくその沖縄国際情報特区の実現性を調査しはじめ[46]、2010年になってやっと沖縄と香港を結ぶ沖縄GIXが設立されることとなった[46](なお沖縄は1999年には既に国際海底ケーブルSEA-ME-WE 3が陸揚げされており香港と繋がっていた[47])。しかしながら2013年になっても沖縄GIXは低調のままとなっており[46]、2014年にGIX沖縄の運営会社の沖縄GIXは出資元の沖縄クロス・ヘッド[46]へと吸収された[48](なお2017年に沖縄クロス・ヘッドとJPIXは提携を行って国内IXの『JPIX 沖縄』を開始している[48][49])。また、沖縄県は沖縄をアジアの情報通信拠点化にするためとして国際海底ケーブルのAsia Submarine Cable Express (ASE) 等の陸揚げを計画し[50]、2016年になってそのASEは沖縄ブランチを追加した[51]。
その後、日本の大手IXでも日本から海外IXへのリモートピアリングサービスが登場していった。2014年にはBBIXが東アジアにおいて国際間でリモートピアリングするための「Smart IXサービス」を開始した[52]。また自社IXだけでなく他社IXまでリモートピアリングするサービスも登場した。2021年にはBBIXが「リモートピアリング」の提供を開始し[53]、JPIXも「海外IX接続サービス」の提供を開始した[54]。
また同2021年には香港の PCCW Global がソフトウェア定義相互接続 Console Connectを使った IX-as-a-Service を開始し、JPNAPやBBIXなどの 海外IX へのリモートピアリングに対応した[55]。
IPv6への対応
1999年にIPv6用の実験的IXであるNSPIXP-6が登場し、2002年には同様のJPNAP6が登場した。
その後、IPv4アドレスが枯渇に近づくと、各IXにおいてIPv4/IPv6のデュアルスタックが一般的となっていった。2008年4月にはJPNAPがIPv6へと標準対応し[56]、同年11月にはJPIXがIPv6へと正式対応した[57]。しかしながらIPv6の普及率はまだ低く、IXではIPv4とIPv6の違いを吸収して交換できるようにする機運が高まっていった[58]。これには2010年に発表されたソフトバンク/BBIXの「IPv6 for Everybody!」構想[59]、同2010年より開始されたJPIXのIPv6v4 エクスチェンジサービスの実証実験[58][60]などがあった。
その後、IXとは直接関係ないものの、日本のIX各社は仮想固定通信提供者 (FVNE、固定通信でのVNE) を兼ねるようになっていった。このFVNEはNTT東西の光回線サービス「フレッツ光」が2011年以降に提供しているIPv6接続の ネイティブ方式 (IPoE) などに使われている。FVNEを兼ねるようになったIX会社は当初BBIX提供のBBIX社とJPNAP提供のインターネットマルチフィードだけであったが、2023年にはIXのJPIX社とFVNEのJPNE社の合併も起きている[61]。
更なる増速
この節の加筆が望まれています。 |
2012年にJPNAPは100GbEポートの提供を開始し[62]、2014年にJPIXも100GbEポートの提供を開始した[63]。
2022年にはJPNAPが400GbEポートの提供を開始した[64]。
福岡への進出
もともと福岡には3DCG系やゲーム系の企業が集まっており[65]、前述のようにBBIXの拠点も設置されていたこともあった。
その後、時代が代わり、モバイル通信において低遅延な第5世代移動通信システム (5G) が登場すると、その低遅延性を活かした産業用途が見込まれるようになり、よりエッジ(端末側)に近い地方データセンターと共に地域IXも再度注目されるようになっていった。2020年にはBBIXが総務省の事業によって福岡IXなどの調査を請け負って[66]福岡の拠点を設け[67]、またそれ以外のJPNAPも2021年に[68]、JPIXも2022年に福岡の拠点を設けた[69]。
注釈
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