焼尽材
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/05 02:27 UTC 版)
焼尽材 | |
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種類 | 砲弾用部品材料 |
運用史 | |
配備先 | 軍事、砲兵 |
焼尽材(しょうじんざい)は、火砲の薬莢や火管、薬のうなどの焼尽部品を製造するための可燃性材料である。火薬や爆薬と同様に独立して燃焼することができ、火砲の発射時には薬室内で発射薬とともに燃焼してほとんど残渣を残さない。軍事分野では戦車砲弾用の焼尽薬莢として利用され、空薬莢を排出する必要がないことから砲塔内の作業を大幅に簡略化した[1]。
概要
焼尽材はニトロセルロース(硝化セルロース)を主成分とし、燃焼性能や機械的強度を確保するためにクラフトパルプや化学繊維、合成樹脂などの補強材と結合剤を混合して成形した複合材料である[2]。ニトロセルロースは一般的な紙よりも高い窒素含有率を持ち、自身の酸化剤を含むため外部から酸素を供給することなく燃焼することができる。この特性により、焼尽材で作られた部品は発射時の燃焼熱で短時間に燃え尽き、燃焼後にはわずかな金属製の底部のみが残る[2]。
用途
焼尽薬莢
最も代表的な用途は焼尽薬莢(しょうじんやっきょう)の製造である。焼尽薬莢は、発射薬の燃焼熱によって薬莢自体が燃焼する可燃性の薬莢で、戦車砲弾や火砲弾に広く採用されている[2]。従来の金属製薬莢は射撃後に重くかさばる空薬莢として残り、狭い砲塔内で排莢する必要があった。焼尽薬莢は発射時にほぼ完全に燃焼して弾底部のみが残るため、排莢作業が容易となり、弾薬の装填効率向上や車内スペースの有効活用につながっている[1]。陸上自衛隊の90式戦車や10式戦車が搭載する120 mm滑腔砲の弾薬をはじめ、多くの第3世代以降の主力戦車で標準的に採用されている[1]。
焼尽火管・薬のう
焼尽材は薬莢だけでなく、砲弾の起爆に用いる火管や分離装薬の薬のう(薬包)にも用いられる[2]。薬のうは砲弾の装薬を包む袋であり、布製と焼尽材製が存在するが、焼尽材製の薬のうは点火時に薬のう自体が燃焼するため、残渣の後片付けが不要となる利点がある。
特性
高い燃焼性 — 焼尽材はニトロセルロースを主体とするため自ら酸素を供給でき、発射薬から供給される熱でほとんど完全に燃え尽きる[2]。
機械的強度と密封性 — クラフトパルプや合成繊維を添加することで、一定の機械的強度や弾性を持たせ、薬莢としての形状保持能力や燃焼速度の安定化を図っている[2]。
軽量・簡易処理 — 焼尽薬莢は燃焼後に金属底部のみが残るため、従来の金属薬莢に比べ軽量であり、後処理が容易である[1]。
歴史
世界各国での本格的な採用は1960年代以降で、陸上自衛隊では90式戦車(1990年制式化)と10式戦車(2012年制式化)が焼尽薬莢を用いる砲弾を採用した[1]。焼尽材自体は19世紀後半から火工品に応用されてきたが、戦車砲弾への応用により広く知られるようになった。
脚注
関連項目
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