新学術領域研究「運動マシナリーが織りなす調和と多様性」
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/01/13 12:22 UTC 版)
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概要
平成24年度文部科学省科学研究補助金の新学術領域研究として実施された。 領域代表者は大阪市立大学・大学院理学研究科の宮田真人教授。研究期間は平成24年度-平成28年度、全体の予算は1,162,600千円である。略称は「運動マシナリー」。
目的
“従来型モータータンパク質”(以下,“モータータンパク質”という),すなわち,ミオシン,キネシン,ダイニンについてはこれまでに多くの優れた研究が行われ,分子レベルの力発生メカニズムには一定の理解が得られるようになった。しかし生体運動の中には,細菌や原生生物の表面運動や遊泳運動などのように,“モータータンパク質”のみでは説明できないメカニズムが多数存在している。それらの動きは,運動超分子マシナリーとも言える高度に組織化された構造が内部の調和を保ちながら大きく動くことで生じ,その多様性には地球生命進化の歴史が刻まれている。本研究では,生体運動のメカニズムの中でこれまでにあまり理解の得られていないものを,最新の解析技術を駆使した原子レベルから超分子複合体レベルの研究により解明する。
研究内容
これまでそれぞれ全く別の分野で活躍していた運動超分子マシナリーの研究者が一堂に会し、微生物学、遺伝学、生化学、生物物理学、構造生物学などで用いられる技術をマルチスケールに用いて、研究を展開した。これまでにあまり注目されたことのない運動マシナリーを萌芽研究として育てる一方で、モータータンパク質研究エキスパートの本分野への参入を推進した。本分野の発展に不可欠な、サブナノメートルスケールで生体構造を可視化する3つの技術、すなわちクライオ電子線トモグラフィー、急速凍結レプリカ電子顕微鏡法、高速AFM(原子間力顕微鏡)の、本分野への応用技術を開発・支援した。 ”新奇の生体運動”という親しみやすさを前面に出すと同時に、新しいメディアを積極的に取り入れて、研究者と国民に対する啓発活動を有効に展開した。
経緯
総括班と7つの計画班,2013-2014年度に28,2015-2016年度に30の公募班で行われた研究は2016年10月現在までに,376編の論文として発表され,33回のマスコミ報道があった.その中には,55編の領域内の共同研究論文が含まれる。また、個々の研究テーマと分野の将来について2011年から現在まで途切れなく議論を続けており、毎年2回の領域会議を6月と1月それぞれにクローズとオープンな形で行っている.既存の学会と研究会を利用して,13回のシンポジウムをオーガナイズ,共催し、それらの機会を活用する形で,生体運動の分野の鍵を握る海外の研究者18名を招聘して議論を深めた.領域関係者が誰でも参加できる形でメーリングリストとFacebookによる議論を日常的に行い,そこでの議論内容は,60,700文字にも及んでいる。
結論
従来型モータータンパク質やバクテリアべん毛モーター以外にも多数の生体運動が発生し,現在も存在している。しかし,それは無制限に出現・定着したのではなく,既知の生物については17種類くらいに帰属できる。これら17種類の力発生メカニズムの共通点は,ヌクレオチドなどの加水分解や膜横断電気化学ポテンシャルによるイオン流で生じる,局所的な電場の変化を制御し,効率よく,微小なクーロン力を利用していることである。そして単純な引力や斥力であるクーロン力から,力発生装置に少なくとも17種類の多様性を生み出している共通原理は,生体分子内,生体分子間,細胞構造などの間で起こっている力伝達過程である。
組織・メンバー
研究テーマや領域における役割によりグループ化された計画研究班および公募研究班から成る。計画研究は全期間、公募研究は2年間を研究期間として領域設定期間の1年目と3年目に公募で決定された。また、計画研究において総括班を設置し、各計画研究の推進を、運営、技術支援、アウトリーチの各方面からサポートされた。
凡例: 氏名(所属)研究分野:役割・担当
総括班
(総括班説明)
領域代表
宮田真人(大阪市立大学)細菌学/生物物理学:領域代表、急速凍結レプリカ電子顕微鏡法、質量分析、3Dプリンターの生物学的利用
分担
本間道夫(名古屋大学)生物物理学:事務局
加藤貴之(大阪大学)構造生物学:電子線クライオトモグラフィー
伊藤政博(東洋大学)極限環境微生物学:オンラインビデオライブラリー
中山浩次(長崎大学)細菌学:携帯端末アプリケーション開発
連携
森 博幸(京都大学)生化学:学術集会報告書作成
福森義宏(金沢大学)生化学:名簿および紹介冊子作成 高速原子間力顕微鏡
上田太郎(早稲田大学)生物物理学/細胞生物学:領域会議プログラム
小嶋誠司(名古屋大学)生化学:事務、会計
片山栄作(大阪市立大学)構造生物学:急速凍結レプリカ電子顕微鏡法
古寺哲幸(金沢大学)生物物理学:高速原子間力顕微鏡(高速AFM)
田岡 東(金沢大学)生化学:高速原子間力顕微鏡(高速AFM)
西坂崇之(学習院大学)生物物理学:光学顕微鏡
川上 勝 (山形大学)生物物理学:3Dプリンターの生物学的利用
神山 勉(名古屋大学)構造生物学:構造解析協力
石渡信一(早稲田大学)生物物理学:評価委員、領域アドバイザー
北 潔 (長崎大学)生化学/寄生虫学:評価委員、領域アドバイザー
笹川千尋(千葉大学)細胞微生物学:評価委員、領域アドバイザー
難波啓一(大阪大学)構造生物学:評価委員、領域アドバイザー
計画班
【A01】反復マシナリー
マイコプラズマ滑走運動のメカニズム / 宮田真人 (大阪市立大学)
タンパク質の分泌を駆動する反復モータの作動原理の解明 / 森 博幸(京都大学)
【A02】回転マシナリー
べん毛超分子モーターの運動エネルギー変換メカニズム / 本間道夫(名古屋大学)
ハイブリッド型生物モーターのイオン選択透過分子機構の解明 / 伊藤政博(東洋大学)
【A03】複雑系マシナリー
バクテロイデーテス細菌の滑走運動マシナリーの構造とダイナミクス / 中山浩次(長崎大学)
磁気感応運動マシナリーの構造機能相関 / 福森義宏(金沢大学)
アメーバ運動を統御するアクチン構造多型マシナリー / 上田太郎(産業技術総合研究所)
公募班(2015年度~2016年度)
【A01】反復
多機能運動装置ハプトネマが示す新規微小管系屈曲運動のメカニズム / 稲葉一男 (筑波大学)
ダイニンと制御タンパク質の超分子複合体による多様な運動モードの制御マシナリー / 豊島陽子 (東京大学)
マイコプラズマ滑走タンパク質の構造ダイナミクス解析 / 新井宗仁 (東京大学)
軸糸微小管翻訳後修飾による軸糸ダイニンの運動活性変化 / 池上浩司 (浜松医科大学)
極限環境下にある深海微生物の生存戦略イメージング / 西山雅祥 (京都大学)
真核生物鞭毛の表面運動:現象の普遍性と膜ダイナミクス / 神谷 律 (学習院大学)
肺炎マイコプラズマの接着滑走マシナリーの微細構造解明と構成タンパク質の構造解析 / 見理 剛 (国立感染症研究所)
【A02】回転
膜電位駆動型分子モーターの運動制御機構の解明 / 渡邉力也 (東京大学)
免疫細胞におけるインテグリン動態制御マシナリーの解明 / 錦見昭彦 (北里大学)
バクテリアべん毛モーターの超分子構築過程の解析 / 曽和義幸 (法政大学)
【A03】複雑系
原生動物の宿主細胞侵入マシナリーの作動原理の解明と構造解析 / 加藤健太郎 (帯広畜産大学)
スピロヘータ運動の変形と力学 / 中村修一 (東北大学)
運動タンパク質素子による原形質流動の自律的構築 / 伊藤光二 (千葉大学)
重合体フィラメントの動的構造多型と結合タンパクの協同的結合の構造機能相関の解明 / 須河光弘 (東京大学)
クラミドモナス走光性発現メカニズムとその分子基盤 / 若林憲一 (東京工業大学)
細菌の浮揚性を司るガス小胞の構造と運動多様性出現機構の解明 / 田代陽介 (静岡大学)
微小管先端運動マシナリー構築 / 五島剛太 (名古屋大学)
In vivo細胞集団動態制御と運動マシナリー / 進藤麻子 (名古屋大学)
膜運動におけるリン脂質の量的・質的変化の作用機序 / 申 惠媛 (京都大学)
外力が駆動する細胞集団運動を支えるアクチン細胞骨格制御の解明 / 杉村 薫 (京都大学)
病原性IV型分泌マシナリーの全構造解析 / 久堀智子 (大阪大学)
細胞弾性で伝わる繊毛メタクロナールウェーブの分子メカニズムと普遍性 / 岩楯好昭 (山口大学)
細胞内アクチン繊維及び再構成アクチン繊維の動的構造変化の検出 / 安永卓生 (九州工業大学)
重合分子モーターにより制御されるプラスミド分配装置の分子機構 / 林 郁子 (横浜市立大学)
軸糸直径変化による鞭毛繊毛運動の調節機構 / 八木俊樹 (県立広島大学)
べん毛を持たずに高速遊泳運動をするバクテリア / 中根大介 (学習院大学)
高温平面で細胞の移動を促す線毛運動のメカニズム / 玉腰雅忠 (東京薬科大学)
バクテリア形態形成を制御する複合体の動態と機能解析 / 塩見大輔 (立教大学)
アメーバ運動の兵站を制御する微小管の共同的構造多型変換 / 岡田康志 (独立行政法人理化学研究所)
協調的アメーバ運動を司る局所的膜電位ゆらぎの計測 / 森本雄祐 (独立行政法人理化学研究所)
公募班(2013年度~2014年度)
【A01】反復マシナリー
膜運動を生み出す小胞形成マシナリーの作動機構の解明 / 佐藤 健 (東京大学)
モーター超分子複合体の分子構築と運動制御機構の解明 / 豊島陽子 (東京大学)
マイコプラズマGli349タンパク質の構造ダイナミクス解析 / 新井宗仁 (東京大学)
ESR動的解析法による筋運動スイッチマシナリーと常磁性イオン流モーターの解明 / 荒田敏昭 (大阪大学)
イカダケイソウのミオシン様タンパク質の同定 / 園部誠司 (兵庫県立大学)
真核生物鞭毛の滑走運動:その生理的意味とメカニズム / 神谷 律 (学習院大学)
アクチントレッドミリングによるアメーバ細胞運動の原子構造解析に基づく解明 / 若林健之 (帝京大学)
線虫精子のアメーバ運動メカニズム / 島袋勝弥 (宇部工業高等専門学校)
肺炎マイコプラズマの接着滑走マシナリーの微細構造解明と構成タンパク質の構造解析 / 見理 剛 (国立感染症研究所)
極限環境下にある超好熱始原菌の運動観察 / 西山雅祥 (京都大学)
【A02】回転マシナリー
ATP合成酵素を中心としたイオン駆動型分子モーターの普遍的作動原理の解明 / 渡邉力也 (東京大学)
【A03】複雑系マシナリー
スピロヘータの推進力発生メカニズム / 中村修一 (東北大学)
真核生物鞭毛軸糸における運動調節超分子の規則的配列機構 / 若林憲一 (東京工業大学)
黄色ブドウ球菌の新規移動様式の分子機構 / 垣内 力 (東京大学)
青色光に依存したシアノバクテリア光走性の分子メカニズム / 増田真二 (東京工業大学)
細胞質分裂をつかさどる逆平行微小管超分子マシナリーが動く仕組み / 上原亮太 (北海道大学)
ミドリムシにおける走光性制御マシナリーの解明 / 岩崎憲治 (大阪大学)
繊毛群のメタクロナールウェーブ伝達機構 / 岩楯好昭 (山口大学)
筋肉の超分子マシナリー「サルコメア」の構築と恒常性維持機構 / 武谷 立 (宮崎大学)
新たな染色体分配因子の運動と機能の分子機構解析 / 片山 勉 (九州大学)
運動マシナリーとしてのAAA型分子シャペロン / 小椋 光 (熊本大学)
糸状性光合成細菌クロロフレクサス アグリガンスの高速滑走運動を可能にする分子機構 / 春田 伸 (首都大学東京)
プラスミド分配を制御するTubZ重合分子モーターの構造機能解析 / 林 郁子 (横浜市立大学)
分裂酵母収縮環のin vitro収縮系を用いた細胞質分裂の機構解明 / 馬渕一誠 (学習院大学)
アクチンの構造多型性・協同性・応答特性の分子機構 / 高野光則 (早稲田大学)
バクテリア滑走マシナリーの幾何学と力学 / 和田浩史 (立命館大学)
バクテリア細胞骨格タンパク質複合体の構築と制御機構の解析 / 塩見大輔 (立教大学)
精子競争により進化し多様化した運動マシナリーのモデル化 / 野口立彦 (防衛医科大学校)
アウトリーチ
研究者と一般の方との交流および研究結果を広く周知するため、ビデオライブラリーの作成,携帯端末アプリケーションの開発,フィギュア(模型)の開発を行った。
生体運動ビデオ
運動マシナリー参加の生物学者を中心に集めた生体運動のビデオをアーカイブスとして閲覧できるオンラインサイトおよびスマートフォンアプリが制作された.世界各国からも閲覧・投稿があり、閲覧数は2016年6月現在で29,127回である。また、資料としてテレビ番組への映像提供も行われた。
スマホアプリ「動く生き物大事典」
動く微生物や細胞・たんぱく質について運動マシナリー参加の生物学者が一般市民向けにイラスト付きで説明した図鑑を制作し、オンライン版とスマートフォンアプリ版(アプリ版ダウンロード数は2016年6月現在で3,924回)の双方で公開された。スマホアプリを中心とする活動は現在,平成29年度科学技術分野の文部科学大臣表彰,理解増進部門で審査中である.
3Dプリンターの生物学への応用
運動超分子マシナリーの構造をより深く、容易に理解するため、3Dプリンターを用いた新しい分子模型の開発が行われた。3DプリンターはCube2およびUP!plus2が使用された。模型開発の様子はFacebookで公開され、また、運動マシナリーのサイトでは3Dプリンタ表面構造のダウンロードが可能である。領域研究期間中に領域内の38 グループに計192 の模型が提供された。
共催したシンポジウム
年月 | シンポジウム | 海外招聘研究者 | 所属 |
---|---|---|---|
2012年9月 | 第50回日本生物物理学会年会 | W. Shaevitz | Princeton University, Departments of Physics and Genomics |
2013年3月 | 第18回べん毛研究交流会 | John Sandy Parkinson | University of Utah |
Lawrence Lee | Victor Chang Cardiac Research Institute | ||
第86回日本細菌学会総会 | David Popp | Insitute of Molecular and Cell Biology Singapore | |
Tom Bernhardt | Harvard Medical School | ||
2013年10月 | 第51回日本生物物理学会年会 | Howard Berg | Harvard University |
2014年03月 | 第87回日本細菌学会総会 | Morgan Beeby | Imperial College London |
第19回べん毛研究交流会 | Liz (RE) Sockett | University of Nottingham, United Kingdom | |
Phillip Aldridge | Newcastle University United Kingdom | ||
Christine Josenhans | Hannover Medical University, Hannover, Germany | ||
AU Wing Ngor Shannon | The Chinese University of Hong Kong | ||
Hazelbauer, Gerald L. | University of Missouri, USA | ||
Linda J. Kenney | Mechanobiology Institute, NUS Singapore | ||
Michael Eisenbach | The Weizmann Institute of Science, Israel | ||
Chankyu Park | Korea Advanced Institute of Science and Technology | ||
2015年3月 | 第88回日本細菌学会総会 | 大澤正輝 | Duke University Medical Center |
2016年3月 | 第89回日本細菌学会総会 | Tâm Mignot | CNRS-Aix Marseille University |
関連項目
外部リンク
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