リアリズム法学
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リアリズム法学(Legal Realism)とは、20世紀の前葉に興隆した法学革新運動の一つである[1]。当時の主流派は、「形式主義法学」[2]と呼ばれ、①法は、政治といった他の社会的制度から独立したルールの体系であり、②法解釈は、そうしたルールを三段論法等によって論理的・客観的に行われるし、行われるべきであると考えていた。リアリズム法学は、こうした主流派の考えを痛烈に批判し、①法は、政治政策やイデオロギーから独立した中立的ルール等ではなく、また、②法解釈は論理性や客観性を装っているが、現実には裁判官によって実質的な立法が行われているのだ、等と主張した。
- ^ ただし、後述するように、リアリズム法学を運動や学派と捉えることには疑義が呈されている。
- ^ 本用語は、大屋雄裕(2014)「批判理論」同他編『法哲学』有斐閣、p.300より借用した。
- ^ 佐藤節子(1997)『権利義務・法の拘束力』成文堂、出水忠勝(2010)『現代北欧の法理論』成文堂
- ^ ミシェル・トロペール(2013)『リアリズムの法解釈理論』南野森編訳、勁草書房
- ^ Mauro Barberis (2017) "Genoese Legal Realism", in Mortimer Sellers and Stephan Kirste (eds.) Encyclopedia of the Philosophy of Law and Social Philosophy, Springer, pp.1–6
- ^ 菊地諒他(2023)「リーガル・リアリズムの(再)検討に向けて(1)」『立命館法学』408号、pp.26-29
- ^ Neil Duxbury (1995) Patterns of American Jurisprudence, Oxford University Press, chapter 2
- ^ ただし、ホームズをリアリズム法学者の一員として整理する文献もある(例として、佐藤正典「アメリカのリアリズム法学」『桜美林論考. 法・政治・社会』第5号、桜美林大学、2014年3月、27-34頁、ISSN 2185-0682、NAID 110009957921。 wiki上では、「プラグマティズム法学」と「リアリズム法学」の項目を別個に設けており、この区別を前提とする以上、ホームズは前者に属するものと考えるほうが自然である。
- ^ Oliver Wendell Holmes (2009) The Path of the Law and the Common Law, Kalpan Publishing, p.1. なお訳出は、戒能通弘「近代英米法思想の展開(4・完)ホームズ、パウンド、ルウェリン」『同志社法学』第63巻第1号、同志社法學會、2011年6月、631-717頁、doi:10.14988/pa.2017.0000013796、ISSN 03877612、NAID 110009843135。 p.657 に依る
- ^ Roscoe Pound (1922) An Introduction to the Philosophy of Law, Yale University Press, introduction
- ^ Roscoe Pound (1908) “Mechanical Jurisprudence”, 8 Columbia Law Review 605, p.605. なお訳出は、戒能通弘「近代英米法思想の展開(4・完)ホームズ、パウンド、ルウェリン」『同志社法学』第63巻第1号、同志社法學會、2011年6月、631-717頁、doi:10.14988/pa.2017.0000013796、ISSN 03877612、NAID 110009843135。 p.664に依る
- ^ Roscoe Pound (1931) “The Call for a Realist Jurisprudence”, 44 Harvard Law Review 697
- ^ 森村進(2016)「リアリズム法学は社会学的法学とどこが違うのか」同編『法思想の水脈』法律文化社
- ^ Lochner v. New York, 198 U.S. 45 (1905)
- ^ Adkins v. Children's Hospital, 261 U.S. 525 (1923)
- ^ ただし、こうした事実から、リアリズム法学の核心をニュー・ディール的な思考に還元することは正確ではないことにつき、中山竜一(2000)『二十世紀の法思想』岩波書店、pp.67-68
- ^ Karl Llewellyn (1931) “Some Realism about Realism-Responding to Dean Pound”, 44 Harvard Law Review 1222. ただし、ルウェリンの特徴付けもまた全体に受け入れらているわけではなく、批判の対象となっている。この点については、菊地諒他(2024)「リーガル・リアリズムの(再)検討に向けて(2・完)」『立命館法学』410号、pp.108-111
- ^ 森村進(2016)「リアリズム法学は社会学的法学とどこが違うのか」同編『法思想の水脈』法律文化社、pp.166-167。なお、森村による追加は10.であり、また誤記と思われる9.には変更を加えた(「プラグマティック」→「綱領的」)。
- ^ 様々な類型化がおこなわれているが、その概観として、菊地諒他(2024)「リーガル・リアリズムの(再)検討に向けて(2・完)」『立命館法学』410号、pp.78-87
- ^ ジェローム・フランク(1970)『裁かれる裁判所』古賀正義訳、弘文堂、ジェローム・フランク(1974)『法と現代精神』棚瀬孝雄=棚瀬一代訳、弘文堂
- ^ Karl Llewellyn (1931) “Frank's Law and the Modern Mind”, 31 Columbia Law Review 82
- ^ こうした側面を重視し、「ルール懐疑主義」という呼称をルウェリンの議論にあてるのはミスリーディングだと主張する文献もある。戒能通弘(2020)「<コラム18>ルール懐疑主義とルウェリン」同他『法思想史を読み解く』法律文化社
- ^ 大屋雄裕(2014)「批判理論」同他編『法哲学』有斐閣、pp.301-302
- ^ 長谷川晃(2004)「日本の法理論はどこから来たのか」角田猛之=長谷川晃編『ブリッジブック法哲学』信山社、pp.51-52
- ^ 経験法学研究会については、平井宜雄「主報告 「法的思考様式」を求めて--35年の回顧と展望」『北大法学論集』第47巻第6号、北海道大学法学部、1997年4月、115-154頁、ISSN 03855953、NAID 120000954121。
- ^ 見崎史拓「批判法学の不確定テーゼとその可能性(1)法解釈とラディカルな社会変革はいかに結合するか」『名古屋大学法政論集』第276号、名古屋大学大学院法学研究科、2018年3月、199-224頁、doi:10.18999/nujlp.276.6、ISSN 0439-5905、NAID 120006454452。
- ^ 岡室悠介「アメリカ憲法理論における「法」と「政治」の相剋 : 新リアリズム法学を中心に」『阪大法学』第63巻第2号、大阪大学法学会、2013年7月、193-219頁、doi:10.18910/67935、ISSN 0438-4997、NAID 120006416518。
- 1 リアリズム法学とは
- 2 リアリズム法学の概要
- 3 その後の影響
- 4 脚注
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