カベッサ・ジ・クイア
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/22 00:35 UTC 版)

カベッサ・ジ・クイア (Cabeça de Cuia, cabeça-de-cúia[3]、「ひょうたん頭」[6])はブラジル北東部地域の民間伝承における水妖で、特にピアウイ州のパラナイバ川流域にいるとされる[7][8]。
語釈
「カベッサ・ジ・クイア」(「ひょうたん頭」)の名は言葉遊びであり、「ひょうたん」の異名である cabaçaと、「頭」の意の cabeça がよく似ていることに掛けている[9]。
概要
伝説によれば、パラナイバ川の妖怪はもともと人間だった。州都テレジーナ創立以前の頃[10]である。男は漁師を生業としており[5]、名をクリスピン(Crispim)と言った[11][7]。ある日、漁獲もなく苛立って帰ってくると、出された食事が牛骨スープだった(一説にはチャンバリルといってオッソ・ブーコに近い牛スネの煮込みシチュー。ピアウイ州の名物料理[5])。粗末な料理と思って腹を立て、「牡牛の走り」(corredor de boi)大きな骨で母親を殴った[10][11](か骨を投げたか[5])し、母親は瀕死の状態で、息子に呪いをかけた:ひょうたん頭をした河川の妖怪になるがいい。その呪いは、七人のマリアと名づく処女を食らわねば解けることはない、と念じたのである[7][11][5]。
さらなる説明によれば、カベッサ・ジ・クイアはマリアという処女を1人ずつ、7年に1回ごと食らわねばならないのだという。そうして最後の7人目を食らってはじめて元の人間の男性の姿に戻れる[8][14][10][15]。つまり、つごう49年間かけて解呪を達成しなければならない[15]。しかし異聞によれば、この解呪はいまだ成し遂げられていないのだという[7]。達成はおろか、一人のマリア乙女すら、一人の人間すら殺めていないという伝聞もある[10]。今日でもその姿は見かけることが出来る、と地元の人々はいう[11]。パラナイバ川側からポチ川にかけて、またその周辺をあてどなく回遊しているのだとされる。特に洪水の季節に出現するという[10]。
パラナイバ川に水浴びや遊泳に来る者あれば、追って溺れさせるともいわれる[14] 。ひょろ高いとされるこの妖怪は、頭髪が顔を覆うように垂れており、泳いでいる子供を食らうこともあるとされており[16]、カベッサ・ジ・クイアに食べられますよ、と母は子供をたしなめて、水域に近づけさせないようにする風習があるという。しかし成人男性とて、洪水期はカベッサ・ジ・クイアに襲われるような事故が起きないともかぎらないから、の水浴びは控えるのだという[15]。また舟艇を転覆させ、 カヌー人を殺すともいわれる[17][10][7]。
時代考証
この伝説は「新ポティ・ヴェーリョ」が。州都テレジーナとして設立され、もとのポティ・ヴェーリョが旧市街の地区(バイロになりさがったいきさつと深く関わっている。[18]。マリア・ド・ソコロ・リオス・マガリャンイス[注 1]は、19世紀初頭、ポティ・ヴェーリョが理想的な州都候補と提唱された頃から発生されていた伝説ではないかと考察する[19]。
伝説の古い記録としてはジョアン・アルフレド・デ・フレイタス[注 2]著『Superstições e lendas do Norte do Brasi』(1884年)があり[20][4]、 カベッサ・ジ・クイアは"背高で、痩せっぽちで、額にかかるほどの長い髪をしており、泳ぐときにはその髪を揺らす"などとに記述される[16]。
類型など
カベッサ・ジ・クイアは、"河川の神話であり、元来はドラ息子(filho mau)が怒りに達し、相応の理由をもって母親の呪いを受ける羽目になる伝説が基になっていると"バシリオ・デ・マガリャンイスは考察する[3][4]。
またコルポ・セコ("干からびた屍")というサンパウロ州界隈の伝説が、比類するとされる[21][22]。
ピアウイ州特有の、バルバ・ルイバ(barba ruiva、「赤ひげ」)などと並び称されることもある。この「赤ひげ」は、"乳児殺しを発端とした魚介類タイプの神話"であるという[15][4][注 3]。
文芸やメディア翻案
この伝説は口承文学として伝わった後、民俗学者などに記録され、また数々の文学や翻案作品として広まった。すなわち芝居や詩、ポップミュージックの歌詞などである[23]。カルネイロ・ダ・シルバ[注 4]による総括的なカベッサ・ジ・クイア研究『Encanto e terror das águas piauienses』(1982年)に、そうした派生作品の多くが列挙されている[23]。
ショーロの歌い手ジョアン・ジ・デウスによる「Cabeça de Cuia , lenda piauiense」(1956年)があり[24][23]、またピアウイ州の現地詩人シコ・ベント[注 5]の作詞とされる歌「Cabeça de Cuia」("Sete Marias / Precisa tragar..")もある[25]。
クロービス・モウラの小説『Argila da Memória』(1982年)に言及がある[23]。
エドゥアルド・プラゼーレス[注 6]作のグラフィックノベル三部作(『Lenda de Crispim』、2013–2019年)がある。
記念日と無形文化遺産
2003年、テレジーナ市は「カベサ・デ・クイアの日」を制定。4月の最終金曜日をこれに定めている[23][26]。
2023年10月3日、ピアウイ立法議会(ALEPI)は、カベサ・デ・クイアの伝説をピアウイの無形文化遺産として認める法案を可決した[27]。
注釈
出典
- ^ “Escrava Luminosa e Cabeça de Cuia, conheça as lendas populares que aterrorizaram gerações no Piauí”. G1 (2022年5月13日). 2025年3月12日閲覧。
- ^ “Cabeça-de-Cuia: monstro ou ET? – Portal Piracuruca - Desvendando o Piauí”. Portal Piracuruca (2014年4月10日). 2025年3月12日閲覧。
- ^ a b c Magalhães, Basílio de (1928). O folcore no Brasil: com uma coletânea de 81 contos populares. Braslia: Imprensa Nacional. p. 99 1939 edition, p. 95
- ^ a b c d e Magalhães, Basílio de (1945). Folk-lore in Brazil. Braslia: Imprensa Nacional. p. 92
- ^ a b c d e Shoumatoff, Alex (1980). The Capital of Hope: Brasília and Its People. Rio de Janeiro: Vintage Books. p. 6. ISBN 9780679733263
- ^ "gourd-head"[4][5]
- ^ a b c d e “Cabeça de Cuia - Lendas e Mitos” (ポルトガル語). Só História. 2025年3月12日閲覧。
- ^ a b c Cascudo, Luís da Câmara (1967) (ポルトガル語). Folclore Do Brasil: Pesquisas E Notas. Rio de Janeiro: Editôra Fundo de Cultura. pp. 122, 129
- ^ Lacerda (2020), p. 210.
- ^ a b c d e f Lacerda (2020), pp. 205–206.
- ^ a b c d DK Eyewitness (2018). Ghose, Aruna. ed. DK Eyewitness Brazil. Dorling Kingersley. p. 253. ISBN 9781465474865
- ^ Michaelis, Henriette. “cabeça: Cabeça de cuia” (ポルトガル語). Michaelis On-Line. 2020年9月11日閲覧。
- ^ Michaelis, Henriette (1998). “cabeça: Cabeça de cuia”. Moderno Dicionário da Língua Portuguesa. Editôra Melhoramentos. São Paulo: Editora Melhoramentos. p. 374. ISBN 85-06-02759-4
- ^ a b Michaelis dictionary, s.v. "cabeça: Cabeça de cuia"[12][13]
- ^ a b c d Carvalho Neto, Paulo de (1972). Folklore and Psychoanalysis. University of Miami Press. pp. 161. ISBN 9780870241673
- ^ a b Freitas, João Alfredo de (1884) Superstições e lendas do Norte do Brasil apud Basílio de Magalhães: "é alto, magro, de grande cabelo, que lhe cai pela testa, e, quando nada, o sacode".[3][4]
- ^ Espinheira, Ariosto (1940) (ポルトガル語). Nordeste. Viagem através do Brasil 2. São Paulo: Editora Melhoramentos. p. 25
- ^ Socorro Rios Magalhães (2011), pp. 151–152.
- ^ Socorro Rios Magalhães (2011), p. 155.
- ^ Socorro Rios Magalhães (2011), p. 153.
- ^ Magalhães (1928), p. 10.
- ^ Magalhães (1945), p. 95.
- ^ a b c d e Socorro Rios Magalhães (2011), p. 152.
- ^ luciano hortencio (28 August 2014). Trio Irakitan - O CABEÇA DE CUIA (lenda piauiense) - João de Deus - gravação de 1956 (ポルトガル語). YouTubeより2025年4月11日閲覧。
- ^ Socorro Rios Magalhães (2011), endnote 4.
- ^ スグホリコ (2022).
- ^ “Lei reconhece a lenda do "Cabeça de Cuia" como patrimônio cultural” (ポルトガル語). Assembleia Legislativa do Piauí. 2025年3月12日閲覧。
参照文献
- Lacerda, Naziozênio Antonio (January–April 2020). “A interação comunicativa na lenda do cabeça de cuia:um estudo na perspectiva da ecolinguística” (ポルトガル語). Travessias 14 (1): 198–217 .
- Socorro Rios Magalhães, Maria do (January–June 2011). “A lenda do Cabeça-de-Cuia: estrutura narrativa e formação do sentido” (ポルトガル語). Revista do Programa de Pós-Graduação em Letras da Universidade de Passo Fundo 7 (1): 151–160 .
外部リンク
- スグホリコ: “第9話 【ブラジルの河童】カベッサ・ジ・クイア(O Cabeça de Cuia)”. ブラジル怪異集 (2022年6月12日). 2025年4月11日閲覧。
関連項目
- カベッサ・ジ・クイアのページへのリンク