T-80 運用と戦歴

T-80

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/14 04:17 UTC 版)

運用と戦歴

高度な機構を搭載したT-80ソ連製戦車としては極めて高価であり、ソ連時代の生産数は4000両程度であった。これは同時期の国内だけでも約22000両が生産されたT-72と比べ大幅に少ない。したがって本車の配備先はワルシャワ条約機構加盟国に駐留する部隊や西部の軍管区の部隊など、NATOと対峙する精鋭部隊に限定された。中でも最前線の一つである東ドイツに駐留していたドイツ駐留ソ連軍に集中的に配備されており、生産数のおよそ半数が割り当てられていた。

配備開始直後の1979年からはアフガニスタン紛争が始まったが、T-80は投入されず実戦機会はなかった。同じく投入されなかったT-72は輸出型が中東などで盛んに実戦投入されたが、T-80は輸出も供与もなされなかったため、ソ連崩壊まで全く実戦を経験しなかった。1991年ソ連8月クーデターの際に出動したのが、唯一の活動であった。

ソ連崩壊後、ソ連軍の装備は独立した構成共和国の軍に引き継がれたが、T-80は西部の軍にのみ配備されていたため、まとまった台数を引き継いだ軍もロシア連邦軍ウクライナ軍ベラルーシ軍に限定された。

最初の「実戦」はロシアで1993年10月に発生したモスクワ騒乱事件での出動である。反エリツィン派(議会派)が立てこもるロシア最高会議ビルに対して6両のT-80UDが砲撃を加え、反エリツィン派を殺害、制圧した。

実際の戦闘という意味での実戦投入は1994年第一次チェチェン紛争が最初である。約150両が投入されたが、主砲の俯仰角が小さい本車には不向きな市街戦ゲリラ戦が多く、特に激しい市街戦となったグロズヌイの戦いにおいて多数が撃破された。この紛争以降、ロシア連邦軍は本車を実戦投入しなくなり、その後発生した第二次チェチェン紛争南オセチア紛争などにも投入されていない。

ソ連崩壊以降は外貨獲得のためにT-80も輸出されるようになり、ロシアウクライナからいくつかの国に対して輸出されている。T-80Uは経済協力借款の償還として大韓民国に約30輌(当初朝鮮人民軍を模した仮想敵部隊として使用されていたが、現在は一部実戦部隊の第3機甲旅団に移管)、中華人民共和国[2][3][4] には約50輌が送られた他、キプロスアラブ首長国連邦にも輸出された。

T-80UDは、現在ウクライナ陸軍主力戦車となっている。T-80UDは320輌がパキスタンに輸出され、カシミール紛争で使用された。これらのうち一部の車輌は改良型のT-84と同様の砲塔を搭載していたため、一部資料ではT-84と紹介されることもある。ただし、正式にはこれらはすべてT-80UDとされている。その他、指揮戦車のT-80UDKも開発され、ウクライナなどで使用されている。また、主砲NATO標準の120mm滑腔砲を搭載した輸出型のヤタハーンを開発し、トルコギリシャマレーシアでのトライアルに参加したが、いずれも採用には至らなかった。

2021年北方領土千島列島に配置されているT-72の後継として、T-80BVが配置されることが報道された[5]

なお、後継となるべきチョールヌィイ・オリョール戦車も攻撃力・防御力を増したT-80Uの発展型ではあるが、1999年に試作車が完成したものの、開発に当たっていた企業が倒産したため計画は頓挫している。結局、その高価さゆえにT-80の配備は進まず、T-72を大幅に改良してT-80の性能に近づけたT-90が主力を担うこととなった。

2022年ロシアのウクライナ侵攻に際して、ロシア陸軍はT-80BV、T-80U、T-80UK、T-80BVM、T-80UE1、T-80UM2などを多数投入し、対抗するウクライナ陸軍もT-80BVを投入しており、ロシアウクライナ軍双方ともに撃破または鹵獲されている[6][7]。またウクライナ軍では鹵獲した本車に再整備を行ったうえで、自軍装備に組み込んでいる[8]。ウクライナ軍との前線で酷使されたことから、2023年後半の時点でロシア国内に配備されていたT-80Uの半数以上が破壊、喪失したものと見られている[9]


  1. ^ ロシア、T-80戦車の生産を再開か 「ゼロ」から新規に製造”. Forbes (2023年9月10日). 2023年9月23日閲覧。
  2. ^ Kolekcja Czołgi Świata, Issue 8, p 13
  3. ^ John Pike. “Global Security T-80”. 2018年6月19日閲覧。
  4. ^ JED The Military Equipment Directory”. 2007年12月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。
  5. ^ 北方領土に新型戦車配備へ ロシア軍、寒冷地対応”. 共同通信 (2021年4月22日). 2021年4月22日閲覧。
  6. ^ Oryx Blog - ジャパン 【独占】欧州への攻撃:ウクライナ侵攻でロシア側が喪失した兵器類(一覧)”. spioenkopjp.blogspot.com. 2022年8月15日閲覧。
  7. ^ Oryx Blog - ジャパン 【独占】欧州への攻撃:ロシアによる侵略でウクライナ側が喪失した兵器類(一覧)”. spioenkopjp.blogspot.com. 2022年8月15日閲覧。
  8. ^ やっぱり使ってた!ウクライナ軍「元ロシア軍戦車」大量投入か 改修お手のものなワケ”. 乗りものニュース. 2022年8月15日閲覧。
  9. ^ 消えたロシア戦車の謎、200両のT-90Aは今どこに?”. Forbes (2023年11月25日). 2023年11月25日閲覧。






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