自己実現理論 拡張された欲求階層

自己実現理論

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/26 08:47 UTC 版)

拡張された欲求階層

欠乏欲求と存在欲求

マズローは、最初の4つの欲求を欠乏欲求 (Deficiency-needs) 、自己実現の欲求を存在欲求 (Being-needs) としてまとめることもある。マズローは、欠乏欲求と存在欲求とを質的に異なるものと考えた。自己実現を果たした人は少なく、さらに自己超越に達する人は極めて少ない。数多くの人が階段を踏み外し、これまでその人にとって当然と思っていた事が当たり前でなくなるような状況に陥ってしまうとも述べている。

また、欠乏欲求を十分に満たした経験のある者は、欠乏欲求に対してある程度耐性を持つようになる。そして、成長欲求実現のため、欠乏欲求が満たされずとも活動できるようになるという(例:一部の宗教者や哲学者、慈善活動家など)。

晩年には、自己実現の欲求のさらに高次に「自己超越の欲求」があるとした[3]。1969年にスタニスラフ・グロフと共にトランスパーソナル学会を設立した[4]

自己超越

マズローは晩年、5段階の欲求階層の上に、さらにもう一つの段階があると発表した。それが、自己超越 (Self-transcendence) の段階である。 自己超越者 (Transcenders) の特徴は

  1. 「在ること」 (Being) の世界について、よく知っている
  2. 「在ること」 (Being) のレベルにおいて生きている
  3. 統合された意識を持つ
  4. 落ち着いていて、瞑想的な認知をする
  5. 深い洞察を得た経験が、今までにある
  6. 他者の不幸に罪悪感を抱く
  7. 創造的である
  8. 謙虚である
  9. 聡明である
  10. 多視点的な思考ができる
  11. 外見は普通である (Very normal on the outside)

マズローによると、このレベルに達している人は人口の2%ほどであり、子供でこの段階に達することは不可能である。 マズローは、自身が超越者だと考えた12人について調査し、この研究を深めた。

理論に対する否定・反論

1960年代から1970年代にかけて、マズローの欲求階層説に対する再現・実証研究が数多く行われたが、ほとんどの研究において、その科学的正当性を証明することはできなかった。「すべての人が」「あらゆる場面において」同一の欲求階層をたどるとは限らない、また性差や人種差を考慮すると異なるパターンが現れる、といった報告が相次ぎ、現在の行動科学では専門家がマズロー説を取り扱うことはほぼ皆無となっている。マズロー説の直感的わかりやすさから、一般社会や組織の管理者の間では未だ人口に膾炙しており、モチベーションの概説には役立つものの、学問的文脈では使用されるべきでないとの見解が大勢を占めている[5].。現代の行動科学において用いられるモチベーションの枠組みとしては、たとえばエンパワーメントのピラミッドが用いられている。


  1. ^ Eaton, Sarah Elaine (2012年8月4日). “Maslow's Hierachy of Needs: Is the Pyramid a Hoax?”. Learning, Teaching, and Leadership. 2020年12月16日閲覧。
  2. ^ 佐藤剛史『大学で大人気の先生が語る 恋愛と結婚の人間学』岩波書店、2015年、74頁。
  3. ^ アブラハム・マズロー、(編集)ロジャー・N・ウォルシュ、フランシス ヴォーン、(訳編)吉福伸逸 著、上野圭一 訳「メタ動機:価値ある生き方の生物学的基盤」『トランスパーソナル宣言-自我を超えて』春秋社、1986年、225-244頁。ISBN 978-4393360033  BEYOND EGO, 1980.
  4. ^ 岡野守也『トランスパーソナル心理学』(増補新版)青土社、2000年、83頁。ISBN 978-4791758265 
  5. ^ T. R Mitchell and D. Daniels, "Motivation," in W. Bowman, D. Ilgen, and R. Klimoski (eds.), Handbook of Psychology: Industrial/Organizational Psychology, Vol. 12 (New York, Wiley, 2002): 225-54.


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