神々の山嶺 神々の山嶺の概要

神々の山嶺

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/19 10:16 UTC 版)

概要

登山家である羽生丈二が、前人未到のエベレスト南西壁冬期無酸素単独登頂に挑む姿を描く。ストーリーに「ジョージ・マロリーはエベレストに登頂したのか」という実際の登山界の謎を絡めており、その謎に答えを出しているが、内容はフィクションである。

登山者向け雑誌『岳人』(ネイチュアエンタープライズ)では、2014年9月号より夢枕による『「神々の山嶺」創作ノート』を連載した。

また、この小説を原作とした漫画作品が谷口ジロー作画で『ビジネスジャンプ』(集英社)に2000年から2003年まで連載された。単行本全5巻。この作品は2001年に第5回文化庁メディア芸術祭マンガ部門・優秀賞を受賞した。2016年には実写映画化されている。

スピンオフ作品として長谷常雄が主人公の『呼ぶ山』があり、夢枕獏山岳短篇集の表題にもなっている。『グランドジャンプPREMIUM』2016年3月号では猿渡哲也の作画で漫画化された。

2021年には『Le Sommet des Dieux』のタイトルでフランスでアニメ化され[1]、同年11月よりネットフリックスによって全世界(一部地域を除く。後述)へ配信された[2]。日本では2022年7月に劇場公開された。

あらすじ

メンバー全員が45歳以上で構成される中年のエベレスト登山隊は、2人の滑落死者を出し失敗に終わる。遠征に参加したカメラマンの深町は帰国する隊員と別れ、あてどなくカトマンズの街を彷徨う中、ふと立ち寄った古道具屋の店先で年代物のカメラを目にする。

エベレスト登山史上最大の謎とされているジョージ・マロリーの、登頂の成否が記録された遺品と見た深町は即座に購入するが、カメラは宿泊先のホテルから盗まれてしまう。カメラの行方を追ううちに、ビカール・サン(毒蛇)と呼ばれる日本人から盗まれた故売品であることが判明するが、故買商からカメラを取り戻すために深町の前に姿を現したビカール・サンは、かつて日本国内で数々の登攀記録を打ち立てながら、ヒマラヤ遠征で事件を起こし姿を消した羽生丈二その人であった。

恋人との生活も破綻し目標を見失いかけていた深町は、羽生の熱気に当てられるように、その足跡を追い始める。日本にいた頃の羽生は一流のクライマーだが、無愛想で、登山を優先する為に定職につかず、海外遠征の資金にも事欠くフリーターだった。名を上げればスポンサーも付くはずと危険な冬山登山を成功させたが、有名になったのは、直後に単独登頂を果たしたライバル・長谷常雄だった。

ザイルパートナーの岸文太郎を死なせる事故を起こし、登山仲間からますます敬遠され孤立する羽生。だが羽生は、死んだ岸の妹・涼子に、無記名で何年間も贖罪の金を送り続けるような男だった。

それらの事情を調べ上げ、涼子から最後の送金がネパールの消印だった事実を聞き出す深町。羽生を慕う涼子を伴って、深町は再びネパールに飛んだ。盗まれたカメラを探して怪しげな故買商を巡るうちに、羽生がシェルパのアン・ツェリンの家に同居していることが判明した。羽生がアン・ツェリンの娘と夫婦になっていると知った涼子は静かに日本に帰っていった。

羽生が登山家としては既に峠を越した年齢でありながら、エベレストの最難関ルートである南西壁の冬季無酸素単独登攀を目論んでいると察知した深町は、カメラマンとして同行を申し出た。証拠写真など必要ないと断る羽生。だが、深町は諦めずに同行の許可を勝ち取った。話もせず、手も貸さないという条件で、羽生の後方から登攀を開始する深町。

空気の薄い八合目で天候が急変し、深町は絶壁に張り付いたまま意識を失う。そんな深町を救助し、背負ってビバーク地点まで登りきる羽生。翌日、深町を下山させた羽生は、単独でさらに登攀を続けた。ベースキャンプまで戻り、シェルパのアン・ツェリンと共に待ち続ける深町。だが、羽生は遂に戻らず、登頂に成功したか否かも分からずじまいとなった。

ベースキャンプを畳み下山する際に、深町に小さな包みを渡すアン・ツェリン。それは、探していたカメラだった。羽生は何度も南西壁に挑むうちにマロリーの遺体を発見し、カメラを持ち帰っていたものの、フィルムの現像には興味がなかった。カメラに添えられた手紙には「登頂だけが、俺やマロリーが山に登る理由ではない…」と、羽生の思いが綴られていた。


註釈

  1. ^ ヤングジャンプコミックスGJ愛蔵版は、上中下の全3巻で刊行された[13]

出典

  1. ^ 「神々の山嶺(いただき)」ほか3本”. 産経ニュース (2022年7月8日). 2022年7月8日閲覧。
  2. ^ Netflix、アニメ長編映画「The Summit of the Gods (英題)」を獲得”. Netflix (2021年9月1日). 2023年1月8日閲覧。
  3. ^ 所長のひと言(25)「映画『エヴェレスト 神々の山嶺』を観て思ったこと」”. 長野県山岳総合センター (2016年4月16日). 2022年9月16日閲覧。
  4. ^ 田部井1992、p.87
  5. ^ 石丸謙二郎の山カフェ「作家・夢枕獏 山を語る」9時台 2023年5月27日(土)午前9:05放送 で作者本人が語る
  6. ^ a b c d 『描くひと 谷口ジロー』, pp. 41–82, 谷口ジローが語る 2.
  7. ^ a b 『描くひと 谷口ジロー』, pp. 212–229, 谷口作品は全部が特別.
  8. ^ 神武団四郎 (2022年7月18日). “谷口ジローが描いた畏敬のエベレストをアニメーションで表現…『神々の山嶺』の緻密さと圧倒的スケールをひも解く”. MOVIE WALKER PRESS. ムービーウォーカー. 2023年12月5日閲覧。
  9. ^ 夢枕獏、「谷口ジローにこれを観せたかった」 アニメ映画『神々の山嶺』7・8公開”. ORICON NEWS. oricon ME (2022年6月2日). 2023年12月5日閲覧。
  10. ^ 集英社 ビジネスジャンプコミックス 谷口ジロー !!)神々の山嶺 愛蔵版 全5巻 セット”. まんだらけ通販. まんだらけ. 2024年1月21日閲覧。
  11. ^ a b 『描くひと 谷口ジロー』, pp. 256–263, 書誌一覧.
  12. ^ 神々の山嶺〈集英社文庫〉全巻リスト”. 集英社の本. 集英社. 2023年12月5日閲覧。
  13. ^ a b yumemakura_bakuのツイート(694118524009066496)
  14. ^ 神々の山嶺〈谷口ジローコレクション〉全巻リスト”. 集英社の本. 集英社. 2023年12月5日閲覧。
  15. ^ a b 常川拓也 (2022年7月8日). “谷口ジロー『神々の山嶺』の長編アニメ化に挑んだ仏監督が語る。影響源や日仏の自然観の違い”. CINRA. cinra. 2023年12月5日閲覧。
  16. ^ Le Sommet des dieux” (フランス語). Bienvenue sur le site Made In Japan. Kana. 2006年2月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年12月5日閲覧。
  17. ^ Le Sommet des Dieux” (フランス語). Mangas. Kana. 2023年12月5日閲覧。
  18. ^ Taniguchi” (スペイン語). Ponent Mon. 2023年12月5日閲覧。
  19. ^ Jiro Taniguchi” (イタリア語). Rizzoli Libri. Mondadori Libri. 2023年12月5日閲覧。
  20. ^ 다니구치+지로” (朝鮮語). 문학동네. 2024年1月21日閲覧。
  21. ^ 다니구치 지로” (문학동네). 2024年1月21日閲覧。
  22. ^ 2016年 上半期作品別興行収入(10億円以上)” (PDF). 東宝株式会社 (2016年7月25日). 2016年9月11日閲覧。
  23. ^ 夢枕獏の山岳小説が映画化!「エヴェレスト 神々の山嶺」メガホンは平山秀幸監督”. 映画.com (2014年6月20日). 2014年12月21日閲覧。
  24. ^ a b c d 岡田准一、エヴェレストに挑戦! 夢枕獏「神々の山嶺」映画化で主演”. cinemacafe.net (2015年2月19日). 2015年2月19日閲覧。
  25. ^ 岡田准一、標高5千メートル超! エヴェレストでの撮影で「価値観変わった!」 シネマカフェ cinemacafe.net 2015年12月14日
  26. ^ ネパール大地震に関して - Facebook
  27. ^ Charlotte Alfred (2015年4月27日). “エベレストで大規模な雪崩 戦慄の現場を捉えた【ネパール大地震】”. The Huffington Post (ザ・ハフィントン・ポスト・ジャパン株式会社). https://www.huffingtonpost.jp/2015/04/26/mount-everest-avalanche-photos_n_7148504.html 2016年3月9日閲覧。 
  28. ^ “岡田准一VS阿部寛! 標高5千メートル超で命懸けの意地の張り合い”. シネマカフェ (株式会社イード). (2015年12月14日). https://www.cinemacafe.net/article/2015/12/14/36408.html 2016年3月9日閲覧。 
  29. ^ 世界最高峰で撮影を敢行した、感動のスペクタクル超大作「エヴェレスト 神々の山嶺(かみがみのいただき)」製作報告会見”. 東宝 (2015年12月14日). 2016年3月9日閲覧。
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  34. ^ 平成27年度文化芸術振興費補助金による助成対象活動の決定について』(PDF)(プレスリリース)独立行政法人 日本芸術文化振興会、2015年4月10日http://www.ntj.jac.go.jp/assets/files/kikin/joho/h27/kouhyou_270410.pdf2015年12月14日閲覧 
  35. ^ a b c 山崎春奈 (2022年7月8日). “その「漫画家」はフランスで「アーティスト」になった。『孤独のグルメ』の作者は、なぜヨーロッパに愛されたのか?”. BuzzFeed. BuzzFeed Japan. 2023年12月5日閲覧。
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  40. ^ a b c d e LE SOMMET DES DIEUX (THE SUMMIT OF THE GODS)” (フランス語). Festival de Cannes. Association Française du Festival International du Film. 2023年12月5日閲覧。
  41. ^ a b c d Le sommet des dieux (2021)” (英語). IMDb. IMDb.com. 2023年12月5日閲覧。






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