石の花 (坂口尚の漫画) 評価

石の花 (坂口尚の漫画)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/11 15:44 UTC 版)

評価

漫画家の浦沢直樹は本作品について「物語りは骨太で、一つの主義主張に偏らず多角的に表現している。「人類は何をやっているんだ」という神の目線と、庶民の「上は何をやっているんだ」という目線を併せ持ち、表現として一級品。ずっと読まれるべき作品です」[注釈 2]と評価している[5]

作家の米原万里は、本書を「圧倒的に面白く」「島国のわれわれには何度聞いてもわかりづらい入り組んだ多民族国家の歴史が、手に汗握る波瀾万丈の物語と激動期に生きる人間たちの姿を通して、心と頭にしっかりと刻み込まれる」と評価している[22]。米原は感動のあまり、本書を20セット程購入し友人たちに配ったところ、それを読んだ人たちがまたあちこちに配るという連鎖反応が起きたという。その一環で本を送られた、当時外務大臣だった某政治家は、当時発生したユーゴスラビア紛争について天皇にユーゴスラビアの情勢を解説する際に非常に助かった、という。さらに、米原が聞いた話では、外務大臣のユーゴ情勢に関する知識源が『石の花』であることを知った天皇もまた、本書を取り寄せて購読した、という[22]

一般社団法人マンガナイト主催の「これも学習マンガだ!世界発見プロジェクト」の戦争分野で2016年に選定されている[23]。この記事の中で作家・本山勝寛は「戦争とは何か、平和とは何か、人間とは何か、自由とは何か、本質的で普遍的な問いをこれでもかというくらい投げかけてくる。戦争マンガ、歴史マンガであると同時に、一級の哲学的文学作品だ」と評価している。

ユーゴスラビア史研究者の山崎信一は、「二元論に陥らず、複雑な社会で多様な人間がいたことを示している」[5]と評する。山崎は高校生の時にこの漫画に出会い、ユーゴスラビア史の研究者になったと言う[5]

本作品はフランスでも出版され、当地の業界人にも評判が高いという[6][5]。フランス語の新装版に関わった翻訳者は、2023年のアングレーム国際漫画祭での受賞は、以前からのそれらの評価に加えて、ロシアのウクライナ侵攻によりヨーロッパでは戦争が身近な話題に感じられるようになったことも影響したと見ている[6][5]。浦沢直樹は受賞について「なぜ日本はこういう作品にきちんと評価を与えないんだろうと思ってしまう」とコメントしている[5]

坂口自身は、自作品について多くを語らなかったが、新潮社のPR雑誌「」1988年10月号に掲載された「なぜ漫画でユーゴを描いたのか」において、「五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つの国」と称されることもあるユーゴスラビアを「この世界の縮小版と言える」と語っている[6][5]。坂口は、ユーゴスラビア訪問時に作家の集会に呼ばれ、スピーチをした。残されているその時のスピーチ原稿によれば、坂口は戦争について「自然破壊を、確実にかつ強烈に、行うものであり、そしてそれは人間によって引き起こされる悪であります」「どこの国でも人間が何人か集まれば意見も異なり、けんかが始まる可能性がある」「私は、宇宙船『小さな地球』号の乗組員について、考えをめぐらしたいと思います。乗組員、すなわち我々人間は、この『小さな地球』上にあって、その存在の持続のために、精一杯の努力をすべきです」[注釈 3]と語っている[6][5]


注釈 

  1. ^ 朝日新聞デジタル 2023-04-22から引用
  2. ^ 朝日新聞 2023-05-04から引用
  3. ^ 朝日新聞デジタル 2023-04-22から引用

出典 

  1. ^ “森重良太さん 今こそ漫画愛蔵版(メディアの顔)”. 朝日新聞・朝刊: p. 4. (1988年11月13日)  - 聞蔵IIビジュアルにて閲覧
  2. ^ “坂口尚「石の花」原画展開催、愛用の画材や秘蔵写真も展示”. コミックナタリー (ナターシャ). (2012年1月5日). https://natalie.mu/comic/news/62104 2022年1月21日閲覧。 
  3. ^ 坂口尚『石の花』 第1巻(初版初刷)、KADOKAWA〈青騎士コミックス〉、2022年1月20日、312頁。ISBN 978-4-04-736871-2 
  4. ^ 坂口尚『石の花』 第5巻(初版初刷)、KADOKAWA〈青騎士コミックス〉、2022年2月19日、376頁。ISBN 978-4-04-736875-0 
  5. ^ a b c d e f g h i j k 黒田健朗、 田島知樹 (2023年5月4日). “大戦時のユーゴ描く「石の花」 再び光 坂口尚さん作品 仏漫画賞 戦争の悪 二元論でない複雑さで表現”. 朝日新聞 (朝日新聞社): p. 23 
  6. ^ a b c d e f g h i 黒田健朗、 田島知樹 (2023年4月22日). “80年代の漫画が仏で受賞 大戦時のユーゴ描いた「石の花」に再び光”. 朝日新聞デジタル (朝日新聞社). https://www.asahi.com/articles/ASR4L3QVYR3XUCVL03S.html 2023年4月22日閲覧。 
  7. ^ 石の花”. 講談社. 2021年7月19日閲覧。
  8. ^ 電子書籍版の坂口尚作品”. 坂口尚オフィシャルサイト 午后の風. 2021年7月19日閲覧。
  9. ^ a b c d “坂口尚「石の花」が復刊、第二次大戦中のユーゴスラビアを舞台にレジスタンスの少年を描く”. コミックナタリー (ナターシャ). (2022年1月20日). https://natalie.mu/comic/news/462511 2022年1月21日閲覧。 
  10. ^ 『石の花』記事② 青騎士コミックス『石の花』装丁と造本について”. 青騎士 - note. KADOKAWA (2022年2月8日). 2022年6月21日閲覧。
  11. ^ 『石の花』記事① 坂口尚 作『石の花』を青騎士レーベルから復刊します。”. 青騎士 - note. KADOKAWA (2022年1月18日). 2022年6月21日閲覧。
  12. ^ 坂口尚『石の花』 第5巻(初版初刷)、KADOKAWA〈青騎士コミックス〉、2022年2月19日、278頁。ISBN 978-4-04-736875-0 
  13. ^ “「うっそだろ」浦沢直樹が驚く「石の花」 一人で描いた孤高の漫画家”. 朝日新聞デジタル (朝日新聞社). (2023年4月22日). https://www.asahi.com/articles/ASR4L64BDR3WUCVL05D.html 2023年4月22日閲覧。 
  14. ^ 埋もれた名作漫画・関連資料 原画を電子化、散逸防ぐ”. 日本経済新聞 (2016年12月13日). 2021年7月19日閲覧。
  15. ^ 『石の花』(潮出版社)奥付で確認
  16. ^ a b c d 石の花”. マンガペディア. 2021年7月19日閲覧。
  17. ^ 「石の花 1」坂口 尚 青騎士コミックス”. KADOKAWA. 2022年1月21日閲覧。
  18. ^ 「石の花 2」坂口 尚 青騎士コミックス”. KADOKAWA. 2022年1月21日閲覧。
  19. ^ 「石の花 3」坂口 尚 青騎士コミックス”. KADOKAWA. 2022年1月21日閲覧。
  20. ^ 「石の花 4」坂口 尚 青騎士コミックス”. KADOKAWA. 2022年2月19日閲覧。
  21. ^ 「石の花 5」坂口 尚 青騎士コミックス”. KADOKAWA. 2022年2月19日閲覧。
  22. ^ a b 米原万里『ガセネッタ & シモネッタ』(文庫版)文藝春秋、2003年、278-280頁。ISBN 978-4-16-767101-3 
  23. ^ 石の花”. マンガナイト. 2021年7月19日閲覧。





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