欧州委員会委員長 任期

欧州委員会委員長

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/07 04:41 UTC 版)

任期

委員長は再任が可能で、任期は欧州議会議員選挙の6か月後を起点とした5年間である。この起点は欧州連合条約で調整されたものであり、欧州議会議員選挙は5年ごと、6月に実施される[32]。これによって、上述したような欧州政党が委員長候補を立てるということが可能となっている。

欧州議会は不信任を決議することによって委員長と委員会を総辞職させることができる。過去に欧州議会が不信任を決議したことはないが、1999年に予算案をめぐって当時のサンテール委員会に対して不信任を決議するという事態が起こりそうになったということがある。実際にはサンテール委員会が自ら総辞職したため、不信任が決議されることはなかった[33]

また欧州連合条約第15条第5項では、欧州理事会が妨害行為や重大な非行を理由に委員長の任期を終了させることができるとしている。

権能

欧州委員会委員長は欧州連合においてもっとも強力な権限を持つ地位であり[1]、すべての法律の提案を行い、その執行を確保する責任を負う欧州委員会を統率する[1][34]。委員長は任期中における委員会の政策方針をまとめるが、欧州議会が同意しない限りは正式に政策を唱えることができない[1]

委員長の任務は委員会を主導し、委員会と連合全体の方向性を示すことである。委員長は委員、委員長官房、各委員の官房を招集して会議を開き、議長を務める[1][32]。また委員長は個別の委員を解任することができる[32]。機関としての委員会の業務は連帯責任の原則に基づいているが、権限の点において委員長の行為は「機関における首席」というものを越えている[32]。委員長の任務は内閣を主導する首相のそれに類似している[1]

また委員長は欧州連合の内外において委員会を代表する。たとえば委員長は欧州理事会を構成する1人であり、また欧州議会や閣僚理事会における会議にも出席する。欧州連合の外部に対しても、委員長は連合を代表して主要国首脳会議に出席している[32]。ただし外交において、委員長は外務・安全保障政策上級代表欧州理事会議長などの役職と重複していることがある[35]

ドロールが就任してからは委員長職が大統領制のような性格を持つようになっていき、強力な委員長と有能な官僚はほとんど制止できなくなっている。しかしながら委員会の外部では、委員長は欧州理事会と欧州議会の支持に依存している。ドロールはその任期中において欧州議会の権限を強化し、欧州理事会を構成する人数を増やしたことから両者の支持を受けることができた。ところが現在では加盟国が増え、たとえ委員長がすべての加盟国を満足させようとするものであっても、しだいにすべての加盟国からの支持を得ることが難しくなってきている。委員会が欧州議会に対して解散や選挙の実施を行なうことができないにもかかわらず、欧州議会もまた委員会に対する権限が強くなり、また委員会の提案を否決することができるものになっている[36]

委員長室はブリュッセルベルレモン・ビルの最上階にある。委員長は委員長官房から助言を受けている。このような要因が委員長を外部から孤立させている[37]。機構内部においてその強大な権限や象徴性から、欧州委員会の官僚にとって委員長は神のような地位を持っている[38]。委員長は法務局や委員会事務局を管轄する。法務局は法制上の専門的事項に関する法案を却下する権限を持ち、委員会事務局は会議やその議題を準備し、議事録をまとめる組織である。これらを管轄することによって委員長は委員会を指揮する際の政治手段を手にすることになり、また委員長職に強力な影響力を持たせることにもなる[39]

欧州理事会議長との関係

上述のように委員長が強大な影響力を持つようになったものの、フランス、イタリア、イギリス、ドイツなどの規模の大きい加盟国が委員長の任務を押さえ込もうとしている。このことが欧州理事会議長の常任化につながっていった[40]。欧州理事会議長が常任化されることで欧州委員会委員長との内部対立につながりかねないという懸念があるが[41]、この2つの役職の兼務について想定されることがある。欧州理事会議長は加盟国の首相など国内の役職を兼ねることは禁止されているが、ヨーロッパの機関の役職との兼任は制限されていない。つまり欧州理事会に出席する欧州委員会委員長が欧州理事会議長に任命されるということがありえるのである。

待遇

2004年現在で委員長の俸給は266,530ユーロである[42]。委員長には公邸や専用航空機は用意されていないが、住居手当、運転手つきの専用車、およそ20人の職員が付けられる[43]


注釈

  1. ^ サンテールの残りの任期。
  2. ^ 任期満了は2004年10月31日までであったが、バローゾ委員会が発足まで務めた。
  3. ^ 本来の任期は2019年10月31日までであったが、フォン・デア・ライエン委員会が発足まで務めた。

出典

  1. ^ a b c d e f Hix, 2008: 155
  2. ^ European Commission” (英語). European NAvigator. 2009年12月19日閲覧。
  3. ^ Eppink, 2007: 221-222
  4. ^ a b The 'empty chair' policy” (英語). European NAvigator. 2009年12月19日閲覧。
  5. ^ a b Ludlow, N. Piers (2006). “De-commissioning the empty chair crisis: The community institutions and the crisis of 1965-6”. Visions, votes and vetoes :The empty chair crisis and the Luxembourg compromise forty years on (Peter Lang Verlagsgruppe): pp. 79-96. ISBN 978-9052010311. 
  6. ^ Eppink, 2007: 222
  7. ^ The Rey Commission” (英語). European Commission. 2009年12月17日閲覧。
  8. ^ EUとG8サミット”. 駐日欧州連合代表部. 2009年12月17日閲覧。
  9. ^ Eppink, 2007: 222-223
  10. ^ Eppink, 200: 24
  11. ^ The New Commission - some initial thoughts” (英語). Burson-Mansteller. 2009年12月17日閲覧。
  12. ^ Merritt, Giles (1992年1月21日). “A Bit More Delors Could Revamp the Commission” (英語). International Herald Tribune. 2009年12月19日閲覧。
  13. ^ Hix, 2008: 37-38
  14. ^ Hix, 2008: 38
  15. ^ Hix, 2008: 39
  16. ^ Hix, 2008:157
  17. ^ Hix, 2008: 158
  18. ^ Hix, 2008: 159
  19. ^ Watson, Graham (2004年6月30日). “Nomination of Commission President handled "in a most unsatisfactory way"” (英語). web site of Graham Watson MEP. 2009年12月19日閲覧。
  20. ^ Statement by the President-designate of the Commission” (英語). European Parliament (2004年6月21日). 2009年12月19日閲覧。
  21. ^ Choosing a New EU Commission President” (英語). Deutsche Welle (2004年6月16日). 2009年12月19日閲覧。
  22. ^ Fuller, Thomas (2004年6月30日). “Portuguese premier wants to unite bloc : Barroso nominated to head EU executive” (英語). International Herald Tribune. 2009年12月19日閲覧。
  23. ^ Stuart (2004年7月21日). “Portugal’s Prime Minister Barroso nominated as European Commission president” (英語). World Socialist Web Site. 2009年12月19日閲覧。
  24. ^ Hix, 2008:156
  25. ^ Mahony, Honor (2008年2月28日). “Barroso admits legitimacy problem for commission president post” (英語). EUobserver.com. 2009年12月19日閲覧。
  26. ^ a b Hughes, Kirsty (2003年). “Nearing Compromise as Convention goes into Final Week?” (PDF) (英語). European Policy Institutes Network. 2009年12月19日閲覧。
  27. ^ European Greens Found European Greens” (英語). Deutsche Welle (2004年2月23日). 2009年12月19日閲覧。
  28. ^ The EP elections: Deepening the democratic deficit” (英語). EurActiv.com (2004年6月16日). 2009年12月19日閲覧。
  29. ^ Mahony, Honor (2007年6月27日). “European politics to get more political” (英語). EUobserver.com. 2009年12月19日閲覧。
  30. ^ Palmer, John (2007年1月10日). “Size shouldn't matter” (英語). Guardian. 2009年12月19日閲覧。
  31. ^ RESOLUTION ELDR CONGRESS IN BERLIN 18-19 OCTOBER 2007” (英語). European Liberal Democratic Party (2009年10月24日). 2009年12月19日閲覧。
  32. ^ a b c d e Roles and Powers” (英語). European Commission. 2009年12月19日閲覧。
  33. ^ Harding, Gareth (1999年3月18日). “Unfolding drama of the Commission's demise” (英語). European Voice. 2009年12月19日閲覧。
  34. ^ Institutions of the European Union - European Commission” (英語). EUROPA. 2009年12月19日閲覧。
  35. ^ Eppink, 2007: 232-233
  36. ^ Eppink, 2007: 226-228
  37. ^ Eppink, 2007: 211-213
  38. ^ Eppink, 2007: 211
  39. ^ Eppink, 2007: 217-221
  40. ^ Ley Berry, Peter Sain (2008年1月18日). “[Comment] Power is slipping from the commission to the council” (英語). 2009年12月19日閲覧。
  41. ^ Hix, Simon; Roland, Gérard. “Why the Franco-German Plan would Institutionalise 'Cohabitation' for Europe” (英語). Foreign Policy Centre. 2009年12月19日閲覧。
  42. ^ What does an EU commissioner do?” (英語). BBC NEWS (2004年11月18日). 2009年12月19日閲覧。
  43. ^ Mahony, Honor (2008年4月14日). “Member states consider perks and staff for new EU president” (英語). EUobserver.com. 2009年12月19日閲覧。





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