履行不能 平成29年改正民法施行後(令和2年4月1日から)

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履行不能

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/21 16:15 UTC 版)

平成29年改正民法施行後(令和2年4月1日から)

平成29年債権法改正の結果、施行予定日である令和2年4月1日からは、以下の通り変更される。

原始的不能と後発的不能の区別の廃止

新ルールでは、履行不能は「債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能である」ことと定義され(民法新412条の2第1項)、原始的不能と後発的不能を基本的に区別せず、原始的不能を履行不能の一形態として捉える(民法新412条の2第2項参照)。

履行不能の場合には、債権者の履行請求権が消滅する(民法新412条の2第1項)。

債務者に帰責事由のある場合

債務者に帰責事由のある履行不能の場合には、債務不履行の問題となり、債務者が損害賠償責任を負う(民法新415条1項本文)。填補賠償の請求も可能である(民法新415条2項1号)。履行不能が原始的不能によるものであっても同様である(民法新412条の2第2項)。これは、双務契約であるか片務契約であるかを問わない。また、契約による債務であるかそれ以外の原因による債務であるかも問わない。債務は履行不能により損害賠償責任に転化して存続する(つまり、債務は消滅しない)ものと観念される。これを債権者側から見れば、債権が損害賠償請求権に転化して存続するということになる。

契約による債務については、さらに、債権者に無催告解除権が発生する(民法新542条1項1号・2項1号)。全部不能の場合には全部解除となり、一部不能の場合には一部解除となる(同上)。債権者が解除権を行使すれば、契約当事者双方に原状回復義務が発生する(民法545条1項)。これにより債権者は割合に応じて反対給付を免れることができる。その場合、金銭を返還する債務者(例:を売り代金受領後引渡し前に放火で家が滅失)は受領時からの利息を付して返還し(民法545条2項)、金銭以外の物を返還する債務者(例:家と賃貸アパート交換しアパートの引渡し後家引渡し前に放火で家が消失)は受領時からの果実を付して返還する(民法新545条3項)。なお、原状に復してもなお債権者に損害が残る場合には、債務者に対してその賠償を請求できる(民法新545条4項)。

債権者に帰責事由のある場合

契約による債務について、債権者に帰責事由のある履行不能の場合には、危険負担の問題となり、債権者の帰責性により存続上の牽連性が否定されて、債権者は反対給付の履行を拒むことができない(民法新536条2項1文)。債権者には解除権も発生しないので(民法新543条)、結局、債権者は反対給付を免れることができない。もっとも、債務者が自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない(民法新536条2項2文)。

労働契約(雇用契約)において解雇や雇止めが無効となった場合の労働者の賃金については引き続きこの条項が適用され、労働者は労働の給付義務を免れる一方で、給与等の報酬請求権を失わないものとされると考えられる。

当事者双方に帰責事由のない場合

通常の場合

契約による債務について、当事者双方に帰責事由のない履行不能(天災・戦争等の不可抗力、法令の改正等)の場合にも、危険負担の問題となり、この場合には存続上の牽連性が肯定されて債権者は反対給付の履行を拒否できる(民法新536条1項)。批判の多かった特定物の物権設定・移転契約に関する特則は廃止された。

また、この場合にも債権者には無催告解除権が与えられるので(民法新542条1項1号・2項1号)、解除により反対給付を免れることもできる。この場合の処理は債務者に帰責事由がある場合と同様である。利息・果実の返還義務についても、規定上、債務者の帰責事由の有無による差異はない。

履行遅滞又は受領遅滞の場合

履行遅滞中の当事者双方に帰責事由のない履行不能は、債務者に帰責事由があるものとみなされる(民法新413条の2第1項)。したがって、この場合には上記「債務者に帰責事由のある場合」と同じ処理となる。債務者が履行遅滞に陥るのは、確定期限がある場合には確定期限到来時であり(民法新412条1項)、不確定期限がある場合には不確定期限到来後に履行請求を受けた時又は不確定期限到来を知った時のうちいずれか早い時(同2項)、無期限の時は履行の請求を受けた時である(同3項)。

受領遅滞中の当事者双方に帰責事由のない履行不能は、債権者に帰責事由があるものとみなされる(民法新413条の2第2項)。したがって、この場合には上記「債権者に帰責事由のある場合」と同じ処理となる。債権者は、履行を受けることを拒否し又は受けることができない場合に受領遅滞中とされる。

選択債権の場合

債権の目的が数個の給付の中から選択によって定まる場合(選択債権。民法406条)において、債権の目的たる給付の中に不能のものがあり、しかも、当該不能が選択権者の過失による場合には、債権はその残存するものについて存在することとされる(民法新410条)。選択権については、原則として、債権発生当初は債務者にあり(民法406条)、弁済期後の催告により債権者に移転する(民法408条)。もっとも、任意規定であるので別段の合意により債権発生当初に債権者や第三者に帰属させることも可能である(民法409条参照)。なお、選択には遡及効があり、選択の効力は債権発生時に遡る(民法411条本文)。但し、第三者の権利を害することができない(同但書)。

図解すると以下の通り(双務契約であることを前提とする)。

  • 債権者に選択権がある場合
    • A債権とB債権のうちA債権が債権者の過失により不能:B債権に特定。
    • A債権とB債権のうちA債権が債務者の過失により不能:特定は起こらない。債権者はA債権を選ぶことができ、その場合には債務者に対する損害賠償請求権と解除権を有する。
    • A債権とB債権のうちA債権が不可抗力により不能:特定は起こらない。債権者はA債権を選ぶことができ、その場合には解除権を有する。
  • 債務者に選択権がある場合
    • A債務とB債務のうちA債務が債権者の過失により不能:特定は起こらない。債務者はA債務を選ぶことができ、債権者は反対給付を免れることができない。
    • A債務とB債務のうちA債務が債務者の過失により不能:B債務に特定。
    • A債務とB債務のうちA債務が不可抗力により不能:特定は起こらない。債務者はA債務を選ぶことができるが、その場合には債権者は反対給付の履行を拒否できるし、解除権も有する。



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