地下鉄等旅客車
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/04/04 07:24 UTC 版)
現行の“技術基準省令の解釈基準”に示された火災対策
普通鉄道構造規則は2002年3月31日に施行された技術基準省令に統合されたため同日を以って廃止されている。技術基準省令は、従来の普通鉄道構造規則にみられる義務規定ではなくなり、昨今の規制緩和を反映した「性能規定」となっている。具体的には技術基準省令に基づいた「技術基準省令の解釈基準」と呼ばれる一種のマニュアルが存在している。これには法的拘束力がなく、同等以上の安全性が確保されていれば、必ずしも解釈基準によらない材料の使用・方法の採用も一応可能となっている。ただし、解釈基準に合致しないものの採用はいまだにかなりの労力がいるともいわれている。
現在新造されている鉄道車両のほとんどは、自主的に地下鉄等旅客車の規格に合致する形で製作されている。地下鉄等旅客車であっても路線の条件により前面貫通口の設置は必須ではないが、各社の乗入協定等に従って貫通口を設置するのがほとんどである。
解釈基準第8章-11には、「第75条(貫通口及び貫通路の構造)関係」として以下の基準が示されている(要旨)。
- 専ら1両で運転する旅客車(地下鉄等旅客車のうち建築限界と車両限界の基礎限界との間隔が側部において400 mm未満の区間を走行する車両及びサードレール式の区間を運転する車両を除く)
- 貫通口の必要数 : 0
- 貫通路の必要数 : 0
- 旅客車
- 貫通口の必要数 : 1
- 貫通路の必要数 : 1
- 貫通口および貫通路の有効幅 : 550 mm以上
- 貫通口および貫通路の有効高さ : 1800 mm以上
- 地下鉄等旅客車
- 貫通口の必要数 : 2
- 列車の最前部または最後部となる車両・専ら機関車に接続される車両・特別な措置を講じた車両 : 1
- サードレール式の電車区間を運転する列車の最前部又は最後部となる車両 : 2
- サードレール式の電車区間を専ら1両で運転する車両 : 1
- 建築限界と車両限界の基礎限界との間隔が側部において400 mm未満の区間を走行する車両 : 2
- 専ら1両で運転する車両 : 2
- 列車の最前部又は最後部となる車両 : 2
- 貫通路の必要数 : 2
- 列車の最前部または最後部となる車両・専ら機関車に接続される車両・特別な措置を講じた車両 : 1
- サードレール式の電車区間を運転する列車の最前部又は最後部となる車両 : 1
- サードレール式の電車区間を専ら1両で運転する車両 : 0
- 建築限界と車両限界の基礎限界との間隔が側部において400 mm未満の区間を走行する車両 : 2
- 専ら1両で運転する車両 : 0
- 列車の最前部又は最後部となる車両 : 1
- 貫通口および貫通路の有効幅 : 550 mm以上
- 貫通口および貫通路の有効高さ : 1800 mm以上
- 貫通口の必要数 : 2
- 新幹線等(旅客車)
- 貫通口の必要数 : 2(運転室のある車両 : 1)
- 貫通路の必要数 : 2(運転室のある車両 : 1)
- 貫通口および貫通路の有効幅 : 550 mm以上
- 貫通口および貫通路の有効高さ : 1800 mm以上
解釈基準第8章-19には、「第83条(車両の火災対策)関係」として以下の基準が示されている(要旨)。
- 電線
- アークを発生または発熱するおそれのある機器に近接または接続するものは極難燃性。その他は難燃性。
- 電気機器
- アークを発生または発熱するおそれのある機器は床壁等から隔離。必要に応じその間に絶縁性かつ不燃性の防熱板を設ける。
- 内燃機関を有する車両
- 機関は床壁等から隔離、必要に応じてその間に不燃性の防熱板を設ける。内燃機関を有する車両は排気管の煙突部分と車体の間の断熱強化を図る。
(以下は旅客車のみ)
- 屋根
- 金属製又は金属と同等以上の不燃性。地下鉄等旅客車及び新幹線旅客車は不燃性。
- 屋根上面
- 難燃性の絶縁材料で覆われていること(架空電車線(特高圧の電車線を除く。)区間を走行する車両に限る。)
- 屋根上面に取り付けられた機器及び金具類
- 取付部が車体に対して絶縁され、又は表面が難燃性の絶縁材料により覆われていること(架空電車線(特高圧の電車線を除く。)区間を走行する車両に限る。)
- 客室天井外板(妻部以外)・内張り
- 不燃性または表面が不燃性の材料で覆われたもの、地下鉄等旅客車及び新幹線旅客車は不燃性。表面の塗装は不燃性。
- 客室外板(妻部)
- 難燃性、地下鉄等旅客車及び新幹線旅客車は不燃性。表面の塗装は不燃性。
- 床の上敷物
- 難燃性。
- 床上敷物下の詰め物
- 地下鉄等旅客車及び新幹線旅客車は極難燃性。
- 断熱材及び防音材
- 地下鉄等旅客車及び新幹線旅客車は不燃性。
- 床
- 煙及び炎が通過するおそれの少ない構造。
- 床板
- 地下鉄等旅客車及び新幹線旅客車は金属製又は金属と同等以上の不燃性
- 床下面
- 不燃性又は表面が金属で覆われたもの。地下鉄等旅客車及び新幹線旅客車は不燃性又は表面が金属で覆われたもの、かつ表面の塗装は不燃性。
- 床下の機器箱
- 地下鉄等旅客車及び新幹線旅客車は難燃性。
- 座席表地・詰め物
- 難燃性。下方に電熱器を設けている場合は発熱体と座席の間に不燃性の防熱板を設ける。
- 日よけ・ほろ
- 難燃性。
大邱地下鉄放火事件以後の動き
2003年に韓国大邱市で起きた大邱地下鉄放火事件の様な車内に引火性の高い物質を持ち込み故意に放火された火災など急激で広範囲に発生・引火した地下鉄火災に鑑み、「鉄道に関する技術上の基準を定める省令等の解釈基準」を2004年12月27日付で改正している。
車両関係での主立った変更は以下の通り。
- 客室天井材の耐燃焼性及び耐溶融滴下性を確保するため、コーン型ヒータによる燃焼試験及び耐溶融滴下性の判定を追加。
- 放射熱に対する耐燃焼性を有し、かつ、耐溶融滴下性がある表面の塗装には不燃性の材料を使用。天井材のほか客室上部に設備されている空調吹き出し口等の主要な設備を含む。
- 列車の防火区画化
- 連結車両の客車間に通常時閉じる構造の貫通扉等を設置
- 消火器の所在場所を乗客に見やすいように表示
- 消火器本体が乗客から見えやすい所へ備えられている場合は除く
このため、従来FRP製だった天井部材・空調吹き出し口がアルミ塗装板に変更となったり、省略されていた車両間の仕切り戸が復活するなどの設計変更の動きがみられる。
- ^ 技術基準省令 - e-Gov法令検索 第29条に関連する電力関係の規定であるが、以下を「長大なトンネル」としている。 国土交通省 「鉄道に関する技術上の基準を定める省令等の解釈基準の一部改正について」 Ⅵ-2 関係9 (2004年)
市街地の地下に設けるトンネルであって、一つのトンネルの長さが1.5 kmを超えるもの、市街地の地下以外に設けるトンネルであって、一つのトンネルの長さが2 kmを超えるもの及びトンネル内に駅を設置するトンネルであって、トンネル内の駅間距離(ホーム端間距離をいう。)又はトンネル端と最寄駅のホーム端との距離が1 kmを超えるもの。 - ^ a b c 東京メトロのひみつ(P30)
- ^ 鉄道ファン1996年1月号 ロクサン形電車とそのファミリー
- 1 地下鉄等旅客車とは
- 2 地下鉄等旅客車の概要
- 3 現行の“技術基準省令の解釈基準”に示された火災対策
- 4 電車の火災事故対策の移り変わり
- 5 参考文献
- 地下鉄等旅客車のページへのリンク