交響曲第5番 (ベートーヴェン) 学術的な問題

交響曲第5番 (ベートーヴェン)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/03 22:08 UTC 版)

学術的な問題

交響曲第5番について論じられた論文や書籍は非常に多い。ここでは特に学術的な議論の的になる代表的な点を挙げる。

運命の動機

ベートーヴェンの弟子のカール・チェルニーによれば、キアオジという鳥のさえずりがヒントだという。中期のピアノソナタ第18番ピアノソナタ第23番『熱情』いずれにも現れている。ただし、第1主題として激しく現れるのは本作が初めてである。

なお、アントン・シントラーの伝記には以下のように記されている(注:シントラーが多数の記録の破棄、改ざん、捏造を行った事は周知の事実であり、彼の言葉の多くが現在では信用されていない)。

作曲家はこの作品の深みを理解する手助けとなる言葉を与えてくれた。ある日、著者の前で第1楽章の楽譜の冒頭を指差して、「このようにして運命は扉を開くのだ」という言葉をもってこの作品の真髄を説明して見せた。

運命の動機と関連する動機は、上述したほかの作品でも見られ、たとえばピアノ協奏曲第4番弦楽四重奏曲第10番『ハープ』などがある。そのほか、同一のリズムや音形が楽章全体を支配する前例としてはピアノソナタ第17番『テンペスト』の第3楽章が有名である。

また、フルトヴェングラーは著書『音と言葉』の中で冒頭の5小節に関して、2小節目のフェルマータは一つの小節にかけられたものであるが、5小節目のフェルマータはタイでつながれた4小節目を含んだ2つの小節にわたってかけられたものであり、つまりこれは最初のフェルマータより後のフェルマータを長く伸ばすことを指示したものである、と分析している。他の同じ部分、例えば展開部の冒頭、そして終結部の終わりにも同じフェルマータの指示があるが、これは、この部分が作品全体に対しての箴言としての機能を果たすことを聴衆に叩き込むため、この部分を調和した一つの全体として、その他の作品の部分から切り離すためだったに違いない、と述べている。

第1楽章の第2主題の冒頭

第1楽章の第2主題の冒頭のホルン信号が楽器法においてよく問題になる。提示部ではホルンで演奏されるのに対して再現部ではファゴットで演奏されるように指定されていることをめぐって、再現部はファゴットで演奏されるべきかホルンで演奏されるべきかで意見が分かれている。

ホルンで演奏されるべきだと主張する意見の根拠は、「当時のEs管ホルンでは再現部のホルン信号は演奏困難であったため、ベートーヴェンは音色が似通っているファゴットで代用した。しかし楽器が発達した現代ではこの代用は不要である」ということを挙げる者が多い。

一方、ファゴットで演奏されるべきだと主張する意見の根拠は、「ベートーヴェン自身が書いた音符を尊重すべきである」「Es管ホルンで演奏困難なのは事実だが、C管ホルンに持ち替えさせれば容易に演奏できる(実際ベートーヴェンは、交響曲第3番の第1楽章再現部と第4楽章のごく一部で、ヘ長調のソロを吹く1番ホルンに対して「ここだけEs管からF管に持ち替えよ」という指示をしている)。第4楽章で歓喜を表現するために、わざわざ当時珍しい楽器だったピッコロやトロンボーンを導入した作曲家が、これほど重要な箇所で中途半端な妥協をしたとは考えにくい」などのものがある。

現在では、音色の違うファゴットをあえてベートーヴェンが指定したものと解釈し、そのままファゴットに演奏させることが多い。

調性

ベートーヴェンの選んだハ短調という調性はベートーヴェンにとって特別な意味を持つ調性であるといわれ、それらの作品はみな嵐のようでかつ英雄的な曲調という共通点を持つといわれる。有名な例としてはピアノソナタ第8番『悲愴』ピアノソナタ第32番ピアノ協奏曲第3番弦楽四重奏曲第4番ヴァイオリンソナタ第7番序曲『コリオラン』交響曲第3番『英雄』の葬送行進曲などがある。


注釈

  1. ^ 英語 "Fate" または "Destiny Symphony"[1][2]、フランス語 "Symphonie du Destin"[3]、イタリア語 "La sinfonia del destino"[4]、中国語 "命運交響曲"、朝鮮語 "운명(運命)"など。

出典

  1. ^ 諸井三郎「解説」『ベートーヴェン 交響曲 第5番 ハ短調 作品67』全音楽譜出版社、2015年、3頁。ISBN 9784118970059
  2. ^ 『名曲の暗号 : 楽譜の裏に隠された真実を暴く』佐伯茂樹(音楽之友社 2013.12)p16-17
  3. ^ ギュルケ版は東ドイツにとって国家的事業であり、東独を拠点としていた指揮者のブロムシュテットマズアスウィトナーがドレスデン、ベルリン、ライプツィヒの楽団とギュルケ版を用いた公演と録音を重ね、第三楽章の反復自体もより広く知られる事になった。新全集版刊行に向け研究を重ねていた児島新はギュルケ版の校訂方針を批判しつつ、反復の是非には言及しなかった。
  4. ^ Music From Earth (Music on the Golden Record)(英語) - NASA Jet Propulsion Laboratory(ジェット推進研究所)Webサイトより





英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「交響曲第5番 (ベートーヴェン)」の関連用語

交響曲第5番 (ベートーヴェン)のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



交響曲第5番 (ベートーヴェン)のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの交響曲第5番 (ベートーヴェン) (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS