二つの世界の男 あらすじ

二つの世界の男

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/18 22:49 UTC 版)

あらすじ

映画は巻を追うごとに、最初に投げかけた疑問符を、少しずつ解いていく、そして、その度ごとに複雑な人物の相互関係が、観客にその後に起きる新場面の展開に固唾をのませる[10]

スザンヌ・マリスンは短い休暇を利用してベルリンにいる兄を訪れる計画を立て、ロンドンの空港からベルリンへ向かうところから映画が始まる。スザンヌは機内では旅行気分で浮かれている様子だが、すぐにベルリン・テンペルホーフ空港に到着する。そこでは、マーティンの妻であるベッティーナが兄の代りにスザンヌを出迎えに来ている。 スザンヌが到着ゲートから現れると、ベッティーナと挨拶を交わし、マーティン夫妻宅へタクシーに乗って向かう[注釈 2][注釈 3]。 兄のマーティンが帰宅すると、スザンヌは兄に抱き着いて、再会を喜ぶ。そして、3人はシアターレストランへ行く、舞台では2本のクラリネットを同時に吹き鳴らし、ピエロが踊っている。スザンヌは楽しんでいるが、ベッティーナは落ち着かない様子で、何者かがベッティーナとコンタクトを取ろうとしてようで、その人物と思われる男のコートと帽子が置かれたカウンターの席を示唆するかのようにカメラが捉えるが、男は席を外している。3人はベッティーナが頭痛だというのでナイトクラブを後にする。スザンヌは帰宅後も、監視されているようなただならぬ雰囲気を徐々に感じ始める。

翌日はマーティンが仕事で忙殺されているため、ベッティーナがスザンヌを東側地区に案内する。音楽はサクソフォンにより寂しげなテーマが奏され、ティンパニも不気味な弦楽器トレモロと共に打ち鳴らされる。ベッティーナとスザンヌがカフェで会話をしていると、音楽の緊張が最高度に高まり、遂にイーヴォ・カーンが姿を現す。ベッティーナはイーヴォを友人であると紹介し、短い会話の後、店を出るが、イーヴォは東側地区のガイドを務めることを約束する。スザンヌは泊まり込みで働くマーティンにベッティーナから預かった届け物を渡す。スザンヌは兄にイーヴォのことを訊くと「ベッティーナの昔からの友人だ」と答え、特に警戒などはしていないようなので、安心する。彼女は兄が働き過ぎと同時にベッティーナを蔑ろにしてしまっていることを心配する。スザンヌが帰宅すると、イーヴォがベッティーナに声を荒立てて話している。 二人がスザンヌに気づくと、イーヴォの態度が豹変し、スザンヌを夜のベルリンに案内することになる。夜になると、イーヴォはダンスのできるレストランに彼女を連れて行き、二人は踊り会話を楽しむが、ハレンダーが近寄って来る。ハレンダーとイーヴォは知り合いのようだが、イーヴォが彼を嫌っているので、スザンヌは訝る。スザンヌは兄とベッティーナは結婚しているのだから、イーヴォにベッティーナに特別な感情を持つのをやめるよう諭す。

翌日、イーヴォはホルスト少年を使ってスザンヌを呼び出し、昨夜彼女に忠告されたことを反省しており、なるべく早く自分がベルリンを出れば、問題は解決すると言い、正直に謝る。勿論、疑われるような関係はもっていないとも言う。スザンヌは彼の誠実な態度に安堵し、一緒にスケートに行く約束をする。だが、ベッティーナはスザンヌがイーヴォに好意を抱いているようなので、懸念が高まって来る。スケートに出かけようとすると、ケストナーがマーティン宅に立ち寄っており、イーヴォとケストナーが鉢合わせになり、二人はスザンヌに紹介される。イーヴォは犬に手を噛まれて怪我しているケストナーと軽く挨拶し、ケストナーは立ち去る。

イーヴォとスザンヌがスケートをしていると、ハレンダーがやって来て、ケストナーが東ドイツ軍の高官に扮して公用車に乗り、警官2名を西側に逃亡させ、東側の重要書類をも持ち去ったと言う。ケストナーの顔は判明しないが、彼が検問所の犬に手を噛まれたことは確かだと言う。残念ながら、その犬まで西側に逃げ去った。ハレンダーはケストナーは脱走者の手助けをしているのだから、放ってはおけない。ハレンダーはケストナーは英国軍医のマーティンの友人でもあるのだから捕まえろと言う。従わなければ、イーヴォの西側での行動履歴[注釈 4]を当局に公表をする、そうなればもう西側には行けず、永遠に東側で暮らさざるを得ないと脅す。イーヴォはスザンヌに先ほど会った人はケストナーだったねと確認し、彼はマーティンとも仲が良く、西側で色々な方面に顔が利く人物だから、西側で働けるよう工面してもらえないかと言う。スザンヌはケストナーに頼んでもらえないか、マーティンに話してみようということになる。

マーティンはスザンヌの頼みを快諾し、ケストナーに電話をかけようとするが、ベッティーナが怒りを爆発させ、自分がイーヴォとかつて結婚していたが、行方不明になったため、死亡したものと考え、死亡証明書を貰って、マーティンと再婚した。そして、3週間前に突如として、姿を現した。イーヴォとの関係を公表すれば、イギリス軍が見逃さず、マーティンとの結婚が危うくなると脅されて、正直にマーティンに相談できなかったと告白する。イーヴォはスザンヌには優しいかもしれないが、人さらいのようなことをして東側のために働いていると暴露する。マーティンは驚くが、ベッティーナに同情し、ケストナーと西側のクライバー警部に相談する。彼らはイーヴォを呼び出して、捉えることにする。しかし、イーヴォはホルスト少年にマーティン宅の様子を偵察させ、罠であることを見抜き、イーヴォは姿を現さない[注釈 5]。スザンヌはホルスト少年の自転車が雪の上を走行した痕跡を嬉しそうに眺め、イーヴォが気づいたことを確信する。イーヴォを逮捕する試みは失敗に終わり、前半の展開は一段落となる。

スザンヌはベルリンでの滞在を終わりにし、ロンドンへ帰ることにする。一方、増加する東側から西側への逃亡者が増加し、それを支援するケストナーを捉えることに躍起になる東ドイツ警察はハレンダーに圧力をかける。そこで、ハレンダーたちは、英国軍医の妻ベッティーナの誘拐を画策する。しかし、ハレンダーの部下たちは間違ってスザンヌを捕まえて来てしまう。失態を演じて困惑する彼らに、イーヴォがオペラ公演に乗じて上手くスザンヌを返し、ハレンダーの尻拭いをすることを提案する。スザンヌはイーヴォに不信感をあらわにするが、イーヴォはハレンダーたちはギャングなのだから、このまま言うことを聞かずここに留まれば、スザンヌの身が危険だと言う。スザンヌは何故イーヴォが自分を助けるのか理由を問い質すと、自分は西側で悪事を働いたのだが、もしスザンヌを無事に西側に返せれば、西側の警察に改悛の念を表せる。そうすれば、逮捕されるのではなく、亡命が認められるかもしれない。これが自分の利益のための動機だと言い、ケストナーには事前にハレンダーの罠であることを説明しておけば大丈夫だと説明する。これしか脱出する道はないと力説するイーヴォに従うことにする[注釈 6]。ハレンダーはケストナーを呼び寄せるという条件でスザンヌを解放することになった。

計画実行の当夜、歌劇場ではリヒャルト・シュトラウスの『サロメ』がリューバ・ヴェリッチ英語版によって演じられている。上演が終わって帰路に就く観客に紛れて、イーヴォは自ら用意していた車に乗って、スザンヌと共に東側からの脱出を図る。裏をかかれたハレンダーは必死になってイーヴォを追跡する。検問所の通過を巡って激しいカー・チェイスが展開される。イーヴォとスザンヌは夜の建設現場を経由して、娼婦リッツィの住むマンションの一室に入り込み、彼女を買収する。リッツィはイーヴォの提示する東ドイツマルクでは承服しないが、スザンヌが高価な指輪を差し出すと態度を豹変させ、納得し、二人に部屋を使わせかくまって、自分は友人の部屋へ向かう。 二人きりになったイーヴォとスザンヌは一夜を共にすることになる。スザンヌはハレンダーを裏切ったイーヴォに対する信頼を回復し、イーヴォの過去を訊きただす。イーヴォは弁護士を目指して、学校で法律を学んだが、戦争ですべてが台無しになった。軍隊に入隊させられ、戦争犯罪にも加担することになった。スザンヌは戦争で命令されたことだと理解を示す。イーヴォはスザンヌの愛情を頑なに避けていたが、遂には彼女の純真さに心打たれ、彼女の気持ちを受け入れる[注釈 7]

翌朝、イーヴォの使いのホルスト少年の話を信用し、洗濯屋に変装したケストナーが幌トラックで、二人を迎えに行く。洗濯物の山の中に、イーヴォとスザンヌは隠れ、スザンヌはイーヴォが自由になるのを待つと言うと、イーヴォは「時を経て、良くなるのは良質なワインだけだ、君は男性のことも人生のことも分かっていない」と言う。スザンヌはイーヴォの自分への愛情を確信しており、イーヴォの本心とは裏腹に思える言葉を真に受けない。やがて、トラックは東部と西部の検問所を通過する。 警官に疑われ、窮地に陥った。イーヴォはスザンヌを救うためひとり自動車から飛び出し、警官と格闘する間に、スザンヌを乗せた車は無事西ベルリンへ走り去り、それを追ったイーヴォは、警官の銃弾にたおれた(その最後の瞬間が2,789メートルのフィルムに盛られた最大のスリルである。『邪魔者は殺せ』、『第三の男』に勝るとも劣らない素晴らしいラスト・シーンが、用意されていた[11])。


注釈

  1. ^ 歌、踊り、マジック、アクロバットなどバラエティに富んだ出し物のあるショーレストラン。
  2. ^ ホルスト少年がベッティーナの行動をさり気なく観察しているが、ベッティーナは彼の存在に気付いているようには見受けられない。
  3. ^ 空港の外では、外国人に東ドイツマルクを西側通貨と交換を求める人が近寄って来る。
  4. ^ パスポートの偽造、米軍のガソリンの転売、銃器の不法取引、米軍将校の妻との情事など
  5. ^ クライバー警部はマーティン宅の周囲の建設現場に部下を大勢配置した。しかし、ケストナーは彼らが不自然なくらい真面目に働いているのでイーヴォは来ないのではないかと心配していた。
  6. ^ イーヴォはスザンヌを愛しているから助けたいとは一言も言わない。
  7. ^ 『第三の男』のハリー・ライムは自分に献身的な女性を犠牲にしてしまうが、本作のイーヴォは正反対で、自分が犠牲になろうとも愛するスザンヌを命がけで助けようとする[8]

出典

  1. ^ ロバート・モスP291
  2. ^ a b c 児玉数夫P 143
  3. ^ a b c d 杉原賢彦
  4. ^ ロバート・モスP 205
  5. ^ 川本三郎P 373
  6. ^ ロバート・モスP 207
  7. ^ 『ミステリーサスペンス洋画ベスト150』P 412
  8. ^ a b c ロバート・モスP 206
  9. ^ 劇映画「二つの世界の男」~イギリス映画 1953年制作~”. NHKクロニクル. 2022年6月20日閲覧。
  10. ^ 児玉数夫P 146
  11. ^ 児玉数夫P 147


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