ロー対ウェイド事件 判決

ロー対ウェイド事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/07 13:29 UTC 版)

判決

合衆国最高裁1973年1月22日、7対2でテキサス州の(妊娠中絶を原則禁止とした)中絶法を違憲とする判決を下した。ブラックマンが多数意見を執筆し、バーガー(首席裁判官)、ダグラス、ブレナン、スチュアート、マーシャル、パウエル各判事が同意意見。ホワイト、レンキスト両判事(後の首席裁判官)がそれぞれ反対意見を述べた。

多数意見

多数意見は最初に、妊娠中絶規制の歴史を振り返り、当時アメリカで一般的であった中絶を犯罪として罰する法律は19世紀後半以降の比較的新たな立法であることを指摘した。次にプライバシーの権利について検討し、憲法は明文上プライバシーの権利について触れていないと認めながらも、州がデュー・プロセス・オブ・ローなしに、人々の自由を奪うことを禁止した修正第14条を根拠に、プライバシーの権利を憲法上の権利として承認した。最高裁は、女性が妊娠中また出産後に負う肉体的・心理的負担について強調し、プライバシーの権利は女性が妊娠中絶を行うかどうかを決定する権利を含むと判示した。しかしながら、中絶の権利は絶対的ではなく、州の利益とのバランスがはかられるべきであるとし、中絶の権利は根本的な権利であるため、これを制限する法律の合憲性は、厳格審査基準で判断されると述べた。

多数意見は胎児の生命について、合衆国憲法上「人」に胎児が含まれるとは明記されていないと述べ、人の生はいつから始まるかという論争に関与することを避けた。その上で、州は母体の健康を保護するやむにやまれない利益を有するほか、胎児の母体外での生存が可能となる時点以降は、州は生命の可能性を保護するやむにやまれない利益を有するとされた。

以上の分析にもとづき、最高裁は妊娠を三半期毎に分け、それぞれについて州による中絶規制の憲法上の制限を定めた。第1三半期においては、政府は中絶を禁止してはならず、(免許のある産科医によらなければならないなど)医療上の要件だけを定めることができる。第2三半期に入ると、政府は中絶を禁止することはできないが、母体の健康のために合理的に必要な範囲で中絶の方法を制限することができる。第3三半期、すなわち胎児が独立生存可能性を備えた後は、政府は母体の生命・健康を保護するために必要な場合を除いて、中絶を禁止することができる。なお、この妊娠を三半期に分ける枠組みは、1992年のプランド・ペアレントフッド対ケイシー事件判決で覆された。

この結果、母体の生命を保護するために必要な場合を除き中絶を全面的に禁止したテキサス州法の規定は違憲無効とされた。同日下されたドウ対ボルトン事件判決では、母体の健康・生命の危険、胎児の深刻な障害、レイプによる妊娠の各場合を除き中絶を禁止していたジョージア州法が違憲とされた。また、上記の枠組みに従わない多くの州の中絶禁止規定は自動的に無効となった。

なおテキサス州は、原告ローは最高裁での口頭弁論の時点ですでに出産していたため、判決によって救済を受けることはできず、事件はムート(仮定上のもの)となり請求は却下されるべきであると主張した。これについて多数意見は、妊娠期間中に訴訟を提起し上級審の判断を仰ぐことは困難であるため、ムートの法理を適用すると実質的に司法審査が不可能になってしまうとして、「繰り返されるが審査は免れる」の例外を適用し、テキサス州の主張を退け実体判断を行った。

反対意見

ホワイト判事とレンキスト判事はそれぞれ反対意見を執筆し、女性の中絶の権利を認めた多数意見を批判した。反対意見は第一に、明文規定のないプライバシー権、とりわけ女性の中絶の権利を最高裁が認めるべきでないと論じる。レンキスト判事の反対意見は、修正第14条が採択された1868年までに36の中絶禁止法が制定されていたにも関わらず、採択時にこれらの法律が憲法上問題視されなかったことを指摘し、多数意見が明文および起草者の意思に反する新たな権利を作り出したことを批判した。さらに反対意見は、胎児の成長と女性への影響という二つの相反する価値の調整に裁判所が足を踏み入れるべきでないと指摘する。ホワイト判事は、中絶の是非は人々による民主的な意思決定過程に委ねられるべきだと主張した。


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