マンホールの蓋
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/19 09:44 UTC 版)
概要
マンホールの蓋は、車両をはじめとする交通機関が蓋の上を通過する際、蓋に十分な重さがなければ、所定の位置から外れてしまう恐れがある。そのため、公共のマンホール蓋は強固かつ重量のある鋳鉄製を採用している自治体が多い[2]。その理由として鋳鉄ならば鋳型さえ起こせば比較的安価に大量生産できること、加工のしやすさが挙げられる[3]。鋳鉄の改良も行われ、1960年代までは一般ダクタイル鋳鉄(FCD)が用いられていたが、1965年頃に開発された鉄蓋専用のダクタイル鋳鉄(FCD700・FCD600)が現在は主流となっている[4]。コンクリート製の蓋も存在するが、鋳鉄と比較すると強度が低く軽量化ができないため鋳鉄より少ない[5]。
かつては80キログラム以上もある鋳鉄蓋もあった[6]が、現在は性能が向上し、軽量化と強度の向上が図られたため、40キログラム程度になっている[7]。耐用年数は、車の通行量が多い場所は磨耗するため15年ほど、それ以外では経年劣化のため30年が目安とされる[7]が、何らかの偶然が重なると摩耗した蓋が交換されずに残ることもあり[8]、例外的に100年以上使用されている蓋も存在する[9]。
水害の際には、マンホール内を通る水圧の影響及びエアーハンマ現象という空気圧の急激な上昇[10]によりマンホールの蓋が外れ、マンホール内に人が落ちてしまう二次災害が発生することがある[11]。その対策として、大量の雨水が管内に流れ込んできたときでも空気の逃げ場ができるよう予めガス抜き用の穴が開けられ、内側に空気弁が設けられ[5]ているほか、蓋の鍵によって水害で外れることを防ぐための浮上防止機能がある[12][13]。国際会議や各国の要人の来日に際しては、マンホールを利用したテロを防ぐ治安対策として、所管の警察によりマンホールの蓋に封印がされることがある[14]。
レーシングカーがタイヤのグリップ力を確保するために発生させるダウンフォースの反作用で路面とマシンとの間に発生する負圧によってマンホールの蓋が飛散することがあると言われ、1990年のスポーツカー世界選手権のジル・ヴィルヌーヴ・サーキットではヘスス・パレハのポルシェ・962を直撃してマシンが炎上し[15]、市街地コースでのグランプリ期間中は溶接などによって路面に固定される[16]。怪しい伝説による実験でインディカー・シリーズを240km/hで走行させた結果、発生した力は37ポンド(16kg)でマンホールの蓋を持ち上げるには不足とされたが[17]、2019年アゼルバイジャングランプリのバクー市街地コースではマンホールを固定していた3本のボルトの内一本が取り付けられておらず、ジョージ・ラッセル (レーシングドライバー)のマシンに直撃する事故が起きた[18]。 地下の爆発によって飛散することもあり、1957年にニューメキシコ州ロスアラモスで行われたプラムボブ作戦により約66km/sで吹き飛んだ鋼鉄の蓋は史上最大のジャガイモバズーカと言われている[19]。
注釈
出典
- ^ a b “意匠分類定義カード (L2)” (PDF). 特許庁. 2016年10月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年10月29日閲覧。
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- ^ “マンホール「ドイツ蓋」撤去 浜松市保管へ 国内で唯一現存”. 静岡新聞. (2023年8月15日) 2023年8月15日閲覧。
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- ^ “栃木県/マンホールの蓋ができるまで”. 栃木県下水道管理事務所. 2023年6月24日閲覧。
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