ベンドア
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/19 10:04 UTC 版)
タドカスターとの入れ替わり
ダービーのあと、2着に敗れたロバートザデヴィルの馬主が、ベンドアの血統に不正があり、別馬とすり替えられていたと異議申し立てをして、賞金の引き渡しを要求した[1]。すり替えられた相手の馬の名は「Tadcaster」(タドカスター)だという[1][2][注 1]。
「タドカスター」もベンドアと同じく初代ウェストミンスター公爵の生産・所有馬で[1][2]、どちらも栗毛で[2]、父馬も同じドンカスター、母はクレメンスといい、母の父はソーマンビーではなくニューミンスターだった[2]。ところが牧場時代に2頭が入れ替わってしまったのだという[2]。
この話の出どころは初代ウェストミンスター公爵の牧場をクビになった馬丁で、死の床で「真実を告白した」というふれこみだった[2]。当時の裁決委員は、調査の結果、この「告白」は虚偽だと結論づけた[2]。同時代の証言によれば、本馬と母ルージュローズは蹄や仕草がたしかに似ているし、他のルージュローズ産駒とも似ているという[2]。一方のタドカスターは、「母」のクレメンスと似ているという[2][注 2]。裁決委員は、この馬丁が、初代ウェストミンスター公爵の牧場をクビにされたのを逆恨みして、悪意をもって嘘をついたのだろうと裁定した[2]。これにより、本馬は血統登録通りにルージュローズの産駒と認められた[2][注 3]。
しかし現代では、ベンドアとタドカスターは本当に入れ替わっていたと考えられている[4]。
2011年にベンドアを含む多数の歴史的名馬の骨格についてDNA調査が行われ、サラブレッドの血統はそれまで考えられていたよりは意外に"正確"なことが判明したが、その中で自然史博物館に保管されている本馬の骨格が、血統書通りの1号族ではなく2号族のミトコンドリアDNA(mtDNA)を保有することが判明した。
ミトコンドリアは母系遺伝するため、血統書に従えばベンドアのミトコンドリアDNAは1号族のものでなければならない。事実、ベンドアの血統書上の母ルージュローズの、現代に生きる牝系子孫(1-k族)たちは1号族固有のmtDNAを持つことが確認されている。一方で、タドカスターの血統上の母クレメンスは2号族に属している。この結果は、ベンドアとタドカスターが入れ替わった(少なくともこの骨格の持ち主がルージュローズの仔でないことは確実)ことを示唆している。
とはいえ、発覚していれば失格は免れない重大な不正ないし過失があったとしても、ダービーで同世代の馬相手に1位で入線し、種牡馬として成功したのは本馬である。なお、タドカスターとされた本来のベンドアは、去勢され障害競走も走ったが、小ステークスを含む5勝に終わった。
注釈
- ^ 同時代の報道では馬名を「Muncaster」(マンカスター)とするものもある[3]。
- ^ たとえば、クレメンスとその子たちは、蹄鉄をつけるのを嫌がるところがあり、タドカスターも同じだった。一方、ルージュローズやその産駒のベンドアは、みな蹄鉄をつけるのがスムーズだったという[2]。
- ^ 後世の調査によると、「ベンドア」と「タドカスター」は同じ栗毛とはいえ、ベンドアには「ベンドア班」があり、タドカスターは赤っぽい栗毛で、耳の形も違っていて、外見も違っていたという。ただしこの点は、ダービー当時には論点にはならなかった[2]。1882年に、初代ウェストミンスター公爵は、タドカスターの母クレメンスにベンドアを配合している。もしも仮にタドカスターとベンドアが入れ替わっていたとしたら、この配合は母と息子の交配ということになる。この件は1914年になって議論の対象となり、初代ウェストミンスター公爵自身が「すり替え」など無かったと信じている証拠とみなされるようになった[2]。
出典
固有名詞の分類
サラブレッド |
フービーガットユー ヒデハヤテ ベンドア エンペラージョーンズ アグネスゴールド |
イギリス調教の競走馬 |
ホワイトマズル サーハリー ベンドア エンペラージョーンズ プリティーポリー |
イギリス生産の競走馬 |
ホワイトマズル サーハリー ベンドア アフリカンローズ スウィンフォード |
1877年生 (競走馬) |
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