ピアノソナタ (リスト) 概要

ピアノソナタ (リスト)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/23 20:09 UTC 版)

概要

1852年から1853年にかけて作曲され[2][3](ただし現存する最も早いスケッチは1849年に遡り、また同年の時点で初期形が演奏されることがあったと考えられる[4])、1854年ブライトコプフ・ウント・ヘルテル社から出版、『幻想曲 ハ長調』への返礼としてロベルト・シューマンに献呈された(しかしシューマン自身は献呈譜を受け取る前の2月27日に自殺を図り、未遂に終わるも精神病院に入院している[注 2])。この作品が書かれたのは、ピアニストを引退したリストがヴァイマル宮廷楽長に就任して5年近く経ち、もっとも充実していた時期だった[3]。公開初演は1857年1月27日ベルリンで、ハンス・フォン・ビューローによって行われた[5]

このピアノソナタの特徴としては、ソナタであるにもかかわらず明確な楽章の切れ目は無く、単一楽章で構成されていること、また主題変容の技法(主題がその構成要素を基に変容され、ある部分で粗暴さを見せたかと思えば、一方で美しい旋律に展開されていく等)によって曲全体が支配されていることが挙げられる[6][7]。このような技法によって、楽曲全体が高い統一感を示している[8]

なお、リストの大規模作品では珍しく[9]標題にあたるような言葉をリスト本人は一切残していない[10][11]アルフレート・ブレンデルは「ロ短調ソナタは、標題を必要としていない」[12]と述べた。しかし標題的な読解がいくつも提案されており[11]、特にヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの『ファウスト』と結び付ける解釈について、クラウディオ・アラウは「リストの弟子たちの間で承認されていた(granted)ことなのです」と述べている[13]


注釈

  1. ^ 現存する唯一のピアノソナタ。リストは1825年(14歳)にも3曲のピアノソナタと1曲の四手連弾のためのソナタを作曲しているが、いずれも紛失している。うちヘ短調のもの(S.692b)とハ短調のものは冒頭の断片が遺されている[1]
  2. ^ ウォーカーは、完成したソナタをシューマンが入院前に耳にしたとする証拠はないとしている[5]
  3. ^ 新自由新聞英語版1881年2月28日付。
  4. ^ ただし20世紀初頭の時点で、オイゲン・シュミッツドイツ語版[22]エルンスト・フォン・ドホナーニ[21]同様の解釈を行っている。
  5. ^ ウォーカーは「ソナタを覆うソナタ」(a sonata across a sonata)[7]カール・ダールハウスは「単一楽章性における多楽章性」(Mehrsätzigkeit in der Einsätzigkeit)[25]と表現している。
  6. ^ シャロン・ウィンクルホーファー(Sharon Winklhofer)はこれに従わず、副次楽章(slow sub-movement)を含む単一楽章制としている[21]
  7. ^ レスリー・ハワードの録音は24分04秒、ワレリー・アファナシエフの録音は41分38秒をかけている。
  8. ^ 野本やアミ・ドメル=ディエニー英語版は、動機bと動機cを一つの主題の前・後半としている[8][29]
  9. ^ ニューマンは導入部の存在を認めず、ロングイヤーやドメル=ディエニーは動機aまでを導入部、動機bを提示部の開始としている[21][29]
  10. ^ ウィンクルホーファーは、主題上の提示部(第1小節~)と調性上の提示部(第32小節~)が分離していると分析する[21]
  11. ^ ウィンクルホーファーや野本は第205小節から[8]、ロングイヤーは第179小節から[21]、ドメル=ディエニーは第171小節から展開部が開始しているとする[29]
  12. ^ ウォーカーは、リストにとって嬰ヘ長調は、「孤独の中の神の祝福」「小鳥に説教するアッシジの聖フランチェスコ」、「ダンテを読んで」の「天国」を表す部分、「エステ荘の噴水」のような作品に使われる、「神聖な」「至福の」調であると述べている[32]
  13. ^ ウィンクルホーファーは、この第453小節からを全体における再現部としている[21]
  14. ^ 自筆譜では楽譜が書かれず、「第2頁へ 数字を振られた21小節間を繰り返すこと」(第32-52小節を指す)と注記されている[33]
  15. ^ コーダの開始は、ロングイヤー、ウィンクルホーファーは第650小節から[21]、ドメル=ディエニー、ブレンデルは第711小節のAndante sostenutoから[35][31]、野本は第729小節からとしている[8]

出典

  1. ^ Hamilton 1996, pp. 15–16.
  2. ^ Walker 1989, pp. 150.
  3. ^ a b c d e f 野本 2011, pp. 5–6.
  4. ^ a b c Herttrich 2016.
  5. ^ a b Walker 1989, pp. 156–157.
  6. ^ ピアノソナタ ロ短調 - ピティナ・ピアノ曲事典
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p Walker 1989, pp. 151–156.
  8. ^ a b c d e f g h i j k l 野本 2011, pp. 6–12.
  9. ^ Carter 2006, p. 11.
  10. ^ 福田弥『〔作曲家・人と作品〕リスト』音楽之友社、2005年、196頁。 
  11. ^ a b Walker 1989, pp. 150–151.
  12. ^ ブレンデル 1992, p. 235.
  13. ^ ジョーゼフ・ホロヴィッツ 著、野水瑞穂 訳『アラウとの対話』みすず書房、2003年、159頁。 
  14. ^ Carter 2006, pp. 155–156.
  15. ^ ナンシー・B・ライクドイツ語版『クララ・シューマン -女の愛と芸術の生涯-』高野茂訳、音楽之友社、1986年、425頁。
  16. ^ Hamilton 1996, p. 70-71.
  17. ^ Hamilton 1996, pp. 71–72.
  18. ^ Walker 1989, pp. 149.
  19. ^ ブレンデル 1992, p. 232.
  20. ^ Hamilton 1996, p. ix.
  21. ^ a b c d e f g h i j Hamilton 1996, pp. 28–34.
  22. ^ a b c d Moortele, Steven Vande (2009). Two-Dimensional Sonata Form: Form and Cycle in Single-Movement Instrumental Works by Liszt,Strauss, Schoenberg, and Zemlinsky. Leuven University Press. pp.35-37
  23. ^ Hamilton 1996, pp. 43.
  24. ^ ドメル=ディエニー 2005, pp. 67, 73.
  25. ^ Carl Dahlhaus (1988). "Liszt, Schönberg und die große Form Das Prinzip der Mehrsätzigkeit in der Einsätzigkeit". Die Musikforschung 41 (8): 202-213
  26. ^ Hamilton 1996, p. 11.
  27. ^ Hamilton 1996, pp. 15–22.
  28. ^ a b c d Walker 2001, pp. 774–775.
  29. ^ a b c d e f g h i ドメル=ディエニー 2005, pp. 64–75.
  30. ^ a b c d e f g h i j k l Hamilton 1996, pp. 34–48.
  31. ^ a b c d e ブレンデル 1992, pp. 233–241.
  32. ^ Walker 1989, p. 154.
  33. ^ 野本 2011, p. 16.
  34. ^ ドメル=ディエニー 2005, p. 76.
  35. ^ ドメル=ディエニー 2005, p. 77.
  36. ^ Hamilton 1996, pp. 56–58.
  37. ^ a b Carter 2006, pp. 44–61.
  38. ^ Carter, Gerard; Adler, Martin (2011). LISZT PIANO SONATA MONOGRAPHS: Arthur Friedheim's Recently Discovered Roll Recording. Wensleydale Press. p. 20 
  39. ^ Hamilton 1996, p. 49.





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