ヒツジ 品種

ヒツジ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/15 17:19 UTC 版)

品種

砂漠や山岳地帯など、さまざまな環境に適応した固有の種がある。家畜用のヒツジは、毛用種、肉用種、乳用種に大別されるが、代表種のメリノをはじめ、兼用の品種も多い。

原種
  • アルガリ - 野生のヒツジで、ヒツジとしては最大の種。体高120センチ、体重100-180キロに達する。毛は褐色から赤褐色。角は渦巻き状で長い。アジアの高山地帯に分布する。マルコ・ポーロの『東方見聞録』でも紹介されている。家畜ヒツジの原種の一つと考えられている。
  • ムフロン - 小型の野生のヒツジで、最初期に家畜化されたヒツジの原種の1つと考えられている。ヨーロッパ・ムフロン、アジア・ムフロン(レッド・ムフロン)が知られ、赤色から赤褐色、赤黄色の毛色をもつ。

ヨーロッパ

アイスランディック
北欧の肉用種。アイスランド原産で、アイスランドでは40万頭以上飼育されている。9-10世紀にバイキングが持ち込んだヒツジの子孫で、地理的に隔絶されていたために交雑が行われなず、純血家畜用ヒツジとしては世界最古。
アラゴネセ
スペインの最高級肉用ヒツジ。スペインでは最古の品種。
イースト・フリージャン
ドイツの代表的な品種。顔、四肢は白い。世界最高の乳用羊として著名で、脂肪分の高い羊乳からチーズがつくられる。
コーカシアン
ロシアや旧東欧諸国の主流品種。毛・肉ともに優れる。
サフォーク
顔と四肢が黒い。イギリス・サフォーク州原産。戦後日本に導入され、主に肉用。国産のラム肉の多くは本種。原産地のイギリスでもラム肉の5割を占める。日本で最もポピュラーな品種で、近年は日本最多の登録数を占める。
シャロレー
フランス原産。繁殖能力に優れ、雑種生産用として人気がある。ヨーロッパやアメリカで多く飼育され、ヨーロッパではシャロレーを父に持つ雑種はプレミア価格となる。
チェビオット
イギリスを代表する山岳品種で、15万頭以上が飼育されている。スコットランドのツイードの原料として知られる。
テクセル
オランダ原産の肉用種。飼育が容易で肉量が多く、50万頭が飼育されている。ヨーロッパ全域のほか、アメリカ、アフリカ、オセアニア、アジアの各大陸でも飼育される。
メリノ
最も有名な細毛品種。イベリア半島原産。原種は西アジア産で、地中海経由でイベリア半島に持ち込まれた。古代から中世にかけて、フェニキア人、ローマ人、ムーア人によって、中東の褐色のヒツジから白色のヒツジへと改良された。1300年代のカスティリヤで現在の原型が登場した。きわめて繊細な細毛が最大の特徴で、スペインの繊維産業の主力として国費によって飼育・改良され、近代までは国外への輸出が禁じられていた。現在は世界中に輸出されてスペインの独自性が喪失されたのとともに、化学繊維の普及によって飼育頭数は激減したが、それでもスペインで300万頭以上が飼育されている。18世紀にオーストラリアに持ち込まれて普及・改良されたオーストラリアン・メリノ種は1億3000万頭が飼育され、オーストラリア産の羊毛の7割を占める。顔や四肢は白く、メスは無角。毛肉兼用。
ロムニー
イギリスケント州のロムニー原産。長毛の肉用種。顔や四肢は白い。ロムニー・マーシュはその名の通り沼沢地を好み、湿潤な気候に適することから日本にも多く導入された。改良種のニュージーランド・ロムニーはニュージーランドの飼育頭数の9割を占める代表種で約2700万頭飼育されている。

オセアニア

コリデール
ニュージーランド原産。メリノ種の雌にリンカン種、ロムニー種、レスター種の雄を交配した[20]。冷涼な気候を好むヒツジの中で適応性に富み、世界中に広まった。温暖湿潤な日本の環境にも適応し、かつて日本で主流だった。角はなく、顔や四肢は白く、長毛。毛肉兼用だが、戦前の日本では専ら羊毛用に飼育され、100万頭近く飼育されていた。毛織物産業に化学繊維が登場すると廃れ、1万頭弱まで減少した。
ドライスデール
ニュージーランド原産。オセアニアで毛肉両用として人気があり、毛はカーペットの材料となる。ニュージーランドだけで60万頭以上飼育されている。

アジア

アワシ
中近東で5000年以上飼育されてきた品種で、南・西アジアでは現在も主流のヒツジ。毛はペルシア絨毯に、肉と乳は食用になる。顔は黒色、褐色、白色と多様。
カラクル
中央アジアの高級品種。中央アジアの砂漠地帯の暑さと夜の寒さや乾燥に耐える。顔、四肢は黒い。世界の代表的な毛皮品種で、幼年時は黒色の毛で、成年になると灰褐色となる。子羊の皮はアストラカンと呼ばれる最高級品となる。品種名は原産地のウズベキスタンの村の名前に由来する。
蔵羊
中国の代表品種。中国内陸部の高原地帯からインドまで広く飼育され、その数は2800万頭といわれる。肉・毛のほか、荷駄用にも。
寒羊
モンゴルの品種。毛肉兼用で尾に脂肪を蓄える。

注釈

  1. ^ これとは別に、紀元前11000年ごろのイラクや紀元前7000-5000年頃のインドの遺跡からも小さい羊の骨や痕跡が出土しているが、単に子羊の骨であるなど、家畜化の証拠としては疑問がもたれている。
  2. ^ ウリアルはアジアムフロンの亜種とする説もある。
  3. ^ 紀元前の中国、ドイツ、北アジアにその痕跡があるが、はっきりしたことはよく分かっていない。
  4. ^ 一般的には「バビロン」は“神の門”を意味するとか、創世記に登場するバベルの塔の逸話に因む“混乱”の意であるとかといった説が主流であるが、最古期の語源は言語が解読されておらず不明とされている。

出典

  1. ^ http://jlta.lin.gr.jp/report/detail_project/pdf/150.PDF めん羊の採食特性を活用した草地の造成と維持管理に関する調査
  2. ^ 毛が伸び放題のヒツジを救出、30キロ分刈り取る 豪州”. CNN. 2021年2月25日閲覧。
  3. ^ シロサイと仲良くなったヒツジ - YouTube ナショナルジオグラフィック
  4. ^ 「品種改良の世界史」,2010,正田陽一編,悠書館,ISBN 978-4-903487-40-3
  5. ^ 「オセアニアを知る事典」平凡社 p279 1990年8月21日初版第1刷
  6. ^ a b c d e 賀来(2015)、p.106
  7. ^ a b 日本のめん羊事情”. 公益社団法人 畜産技術協会 (1991年12月). 2020年11月28日閲覧。
  8. ^ a b 賀来(2015)、p.115
  9. ^ 小林忠太郎「民営牧羊経営の成立と崩壊」、『日本畜産の経済構造』16 - 18頁。
  10. ^ 小林忠太郎「民営牧羊経営の成立と崩壊」、『日本畜産の経済構造』20 - 21頁。
  11. ^ 小林忠太郎「民営牧羊経営の成立と崩壊」、『日本畜産の経済構造』24頁。
  12. ^ 小林忠太郎「民営牧羊経営の成立と崩壊」、『日本畜産の経済構造』31- 32頁。
  13. ^ 小林忠太郎「民営牧羊経営の成立と崩壊」、『日本畜産の経済構造』32- 36頁。
  14. ^ a b FAO Brouse date production-Live animals-sheep”. Fao.org. 2012年12月30日閲覧。
  15. ^ 「オセアニアを知る事典」平凡社 p240 1990年8月21日初版第1刷
  16. ^ https://www.mofa.go.jp/mofaj/kids/ranking/sheep.html キッズ外務省:羊の頭数の多い国 日本国外務省 2012年12月30日閲覧
  17. ^ 日本のめん羊事情”. 公益社団法人畜産技術協会 (1991年12月). 2014年3月22日閲覧。
  18. ^ a b http://www.nytimes.com/2006/03/29/dining/29mutt.html Apple Jr., R.W. . "Much Ado About Mutton, but Not in These Parts". ニューヨーク・タイムズ、(2006年3月29日)2012年12月30日閲覧
  19. ^ a b 『ケンブリッジ世界の食物史大百科事典2 主要食物:栽培作物と飼養動物』 三輪睿太郎監訳 朝倉書店  2004年9月10日 第2版第1刷 p.666
  20. ^ コトバンク
  21. ^ 「メッカ」p157 野町和嘉 岩波書店 2002年9月20日第1刷
  22. ^ Asa-Jo「羊が一匹、羊が二匹…」日本人が羊を数えても眠れない理由が判明した!
  23. ^ トレイルズ 「道」と歩くことの哲学 著者:ROBERT MOOR
  24. ^ Bellwether species 掲載サイト:Encyclopedia.com
  25. ^ 羊一頭、史上最高額の5200万円で落札 英国”. CNN. 2020年9月3日閲覧。





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