ヒツジ 利用

ヒツジ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/15 17:19 UTC 版)

利用

羊肉
ジンギスカン用のラム肉

羊肉は広い地域で食用とされている。羊の年齢によって、生後1年未満をラムlamb、子羊肉)・生後2年以上をマトンmutton)と区別することもある。生後1年以上2年未満は、オセアニアでは「ホゲット」と区別して呼ばれているが、日本ではマトンに含まれる。

日本国内では、毛を刈った後で潰したヒツジの大量の肉を消費する方法として新しく考案されたジンギスカンや、ラムしゃぶ、スペアリブの香草焼き、アイリッシュシチューなど特定の料理で使われることが多い。カルニチンを他の食肉よりも豊富に含むことから、体脂肪の消費を助ける食材とされている。

ラムには臭みが少なく、こちらは日本で近年人気が高まりつつある。羊肉特有の臭みは脂肪に集中するため、マトンの臭みを取り除くには、脂肪をそぎ落とすと良いと言われる。他には、「香りの強い香草と共に炒める」「牛乳に漬けておく」等の方法がある。

海外では、飼育が盛んなオーストラリアニュージーランドをはじめ、特にペルシャ湾岸諸国やギリシャイギリスアイルランドウルグアイで盛んに消費される。湾岸諸国を除いては、いずれも羊が盛んに飼育される国家である。これらの国では、羊肉の年間一人当たり消費量が3kgから18kgにのぼる[18]。湾岸諸国で消費が多いのは豚肉を避けるイスラム教が広く普及しているからであり、他の中東諸国でも羊肉の消費量は多い。マグリブカリブ海インドでも多く消費される。また、東アジアでも、モンゴル中国西北部などでは、代表的な食肉となっており、さまざまな調理法が用いられている。ヨーロッパではラムが、中東や中央アジアではマトンが好まれる傾向にある[19]

インドのマクドナルドには「マハラジャマック」と呼ばれるメニューがあり、これは牛を神聖な生き物とみなすヒンドゥー教の信徒のためにマトンを用いたハンバーガーのことである。

一方、アメリカ合衆国においては羊肉の消費量はわずかである。アメリカ人の年間羊肉消費量は0.5kg以下で、牛肉(29kg)や豚肉(22 kg)に比べてはるかに低い消費量となっている[18]。これは、アメリカでは牛や豚など他の食肉が大量に生産できるうえに安く、さらにアメリカで食用にされるヒツジは羊毛用ヒツジの廃家畜が主であったため、食味などの品質で他の食肉に太刀打ちできなかったからである。さらに他食肉の価格下落に伴い、1960年代から1980年代にかけて羊肉消費量はさらに60%以上減少した[19]

羊乳
フェタチーズ
ヒツジの乳は主にヨーグルトチーズなどの加工用に使用される。生乳の飲用は牛に比べて生産効率が悪いためにほとんど行われない。特にチーズへの加工が多く、フランスロックフォール・チーズイタリアペコリーノギリシャフェタチーズなど羊乳を原料としたチーズも多い。
羊毛
羊の飼育上もっとも重要な利用対象はメリノ種などから取る緬毛(ウール)である。詳細は緬毛の項目を参照。
羊皮紙
羊皮紙はヒツジの皮を原料とするが、ヤギウシなど、ヒツジ以外の生き物の皮が使われることも多かった。
中近東中世西洋などでは、東洋から製の技術が伝播するまで、羊皮紙はパピルス粘土板と共に、宗教関連の記録や重要な書類の作成に、長い間使用されていた。
ラノリン
羊毛の根元に付着しているワックスエステルを主成分とする油分をウールオイル(ウールファット、Wool fat)またはウールグリースWool grease)という。これを精製したものをラノリンといい化粧品、軟膏の原料にする。また、これとは別に肉から羊脂をとることができ、調理用などに使用される。
革(羊革
ラムスキン、シープスキンムートンとして衣服に用いられる。

注釈

  1. ^ これとは別に、紀元前11000年ごろのイラクや紀元前7000-5000年頃のインドの遺跡からも小さい羊の骨や痕跡が出土しているが、単に子羊の骨であるなど、家畜化の証拠としては疑問がもたれている。
  2. ^ ウリアルはアジアムフロンの亜種とする説もある。
  3. ^ 紀元前の中国、ドイツ、北アジアにその痕跡があるが、はっきりしたことはよく分かっていない。
  4. ^ 一般的には「バビロン」は“神の門”を意味するとか、創世記に登場するバベルの塔の逸話に因む“混乱”の意であるとかといった説が主流であるが、最古期の語源は言語が解読されておらず不明とされている。

出典

  1. ^ http://jlta.lin.gr.jp/report/detail_project/pdf/150.PDF めん羊の採食特性を活用した草地の造成と維持管理に関する調査
  2. ^ 毛が伸び放題のヒツジを救出、30キロ分刈り取る 豪州”. CNN. 2021年2月25日閲覧。
  3. ^ シロサイと仲良くなったヒツジ - YouTube ナショナルジオグラフィック
  4. ^ 「品種改良の世界史」,2010,正田陽一編,悠書館,ISBN 978-4-903487-40-3
  5. ^ 「オセアニアを知る事典」平凡社 p279 1990年8月21日初版第1刷
  6. ^ a b c d e 賀来(2015)、p.106
  7. ^ a b 日本のめん羊事情”. 公益社団法人 畜産技術協会 (1991年12月). 2020年11月28日閲覧。
  8. ^ a b 賀来(2015)、p.115
  9. ^ 小林忠太郎「民営牧羊経営の成立と崩壊」、『日本畜産の経済構造』16 - 18頁。
  10. ^ 小林忠太郎「民営牧羊経営の成立と崩壊」、『日本畜産の経済構造』20 - 21頁。
  11. ^ 小林忠太郎「民営牧羊経営の成立と崩壊」、『日本畜産の経済構造』24頁。
  12. ^ 小林忠太郎「民営牧羊経営の成立と崩壊」、『日本畜産の経済構造』31- 32頁。
  13. ^ 小林忠太郎「民営牧羊経営の成立と崩壊」、『日本畜産の経済構造』32- 36頁。
  14. ^ a b FAO Brouse date production-Live animals-sheep”. Fao.org. 2012年12月30日閲覧。
  15. ^ 「オセアニアを知る事典」平凡社 p240 1990年8月21日初版第1刷
  16. ^ https://www.mofa.go.jp/mofaj/kids/ranking/sheep.html キッズ外務省:羊の頭数の多い国 日本国外務省 2012年12月30日閲覧
  17. ^ 日本のめん羊事情”. 公益社団法人畜産技術協会 (1991年12月). 2014年3月22日閲覧。
  18. ^ a b http://www.nytimes.com/2006/03/29/dining/29mutt.html Apple Jr., R.W. . "Much Ado About Mutton, but Not in These Parts". ニューヨーク・タイムズ、(2006年3月29日)2012年12月30日閲覧
  19. ^ a b 『ケンブリッジ世界の食物史大百科事典2 主要食物:栽培作物と飼養動物』 三輪睿太郎監訳 朝倉書店  2004年9月10日 第2版第1刷 p.666
  20. ^ コトバンク
  21. ^ 「メッカ」p157 野町和嘉 岩波書店 2002年9月20日第1刷
  22. ^ Asa-Jo「羊が一匹、羊が二匹…」日本人が羊を数えても眠れない理由が判明した!
  23. ^ トレイルズ 「道」と歩くことの哲学 著者:ROBERT MOOR
  24. ^ Bellwether species 掲載サイト:Encyclopedia.com
  25. ^ 羊一頭、史上最高額の5200万円で落札 英国”. CNN. 2020年9月3日閲覧。





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