ヒツジ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/08 19:40 UTC 版)
文化
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キリスト教での象徴性
キリスト教、またその母体となったユダヤ教では、ヤハウェ(唯一神)やメシア(救世主)に導かれる信徒たちが、しばしば羊飼いに導かれる羊たちになぞらえられる。旧約聖書では、ヤハウェや王が羊飼いに、ユダヤの民が羊の群れにたとえられ(エレミヤ書・エゼキエル書・詩篇等)ている。
また、旧約聖書の時代、羊は神への捧げもの(生贄)としてささげられる動物の一つである。特に、出エジプト記12章では、「十の災い」の最後の災いを避けるために、モーセはイスラエル人の各家庭に小羊を用意させ、その血を家の入り口の柱と鴨居に塗り、その肉を焼いて食べるというたとえ話がある。のちに、出エジプトを記念する過越祭として記念されるようになる。
また、羊の肉はユダヤ教徒が食べることができる肉として規定されている。カシュルートを参照のこと。
新約聖書では、「ルカ福音書」(15章)や「マタイ福音書」(18章)に「迷子の羊と羊飼い」のたとえ話の節がある。愛情も慈悲も深い羊飼いは、たとえ100匹の羊の群れから1匹が迷いはぐれたときでも、そのはぐれた1匹を捜しに行くとしている。この箇所は隠喩となっており、はぐれた羊は、神から離れた者、神に従わない反抗者、罪を犯す者を表し、また羊飼いについては創造主である神を例えている。福音書では、どのような者であっても同じように愛し、気にかけ、大切に想う神の愛を示している。
「ヨハネ福音書」では、イエスが「私は善き羊飼いである」と語るが、イエス自身も「世の罪を取り除く神の小羊」と呼ばれる(1章29節)。
この「神の小羊」は、イエスが後に十字架上で刑死することにより、人間の罪を除くための神への犠牲となる意味があり、イエスが刑死したのも前述の過越祭の期間であったことから、パウロは第一コリント5章7節で、イエスは「過越の小羊として屠られた」と表現する(ミサ・ミサ曲)。
また、「ヨハネ黙示録」において、天上の光景のなかで啓示されるイエスの姿は「屠られたような」「七つの目と七つの角」を持つ小羊の姿である(5章他)。
イスラム教の犠牲祭
イスラム教国においてはヒツジはもっとも重要な家畜の一つであり、特にサウジアラビアや湾岸諸国においてはハラールに適応するようオーストラリアなどから生きたまま羊を輸入し、自国にて屠畜し食肉とすることが行われる。また、ヒツジはイスラム教の祭日であるイード・アル=アドハー(犠牲祭)においてもっとも一般的な生贄である。この日はハッジの最終日に当たり、メッカ郊外のムズダリファにおいてヒツジやラクダ、牛など50万頭にものぼる動物が生贄にささげられる[22]。メッカ以外の、巡礼に参加しなかったムスリムも動物を1頭捧げることが求められており、イスラム教諸国においてヒツジが買われ、神に捧げられる。捧げられた肉は自らの家庭で消費するほか、施しとして貧しい人々に分け与えられる。
シープドッグ
犬種に Shetland Sheepdog(シェットランド・シープドッグ)の様に sheepdog と付くものがあるが、これは「ヒツジに似た犬」ではなく、牧羊犬に適した犬種であることを示している(シェパード Shepherd も同様)。これらは、英語圏を始めとする欧州地域でのヒツジが比較的身近な家畜である顕著な例でもある。
言葉
- 鳴き声を日本語で書き表すと「メー」。漢字では「咩(万葉仮名:め、呉音:ミ、漢音:ビ、現代中国語:miē)」。英語では「バー」。
- 英語圏に、羊を数えることで安眠が得られるという俗説がある。これは、「One sheep, two sheep…」と唱えることでよく似た発音の「sleep」(眠る)と脳に命じる効果があること、また「sheep」という言葉が安眠を促す腹式呼吸を誘う発音であることに由来する、といわれる[23]。なお、英単語「sheep」は、単数形・複数形が同形である。
- 黒羊(ブラックシープ)は、白い羊の中で目立つことや、羊毛を染められないため価値が低いとされたことから、厄介者という消極的な意味や型にはまらない変わり者など肯定的な用法として要いられる。同義語:白いカラス(ロシア)。
- 詳細は「黒い羊 (慣用句)」を参照
- Schafskälte - ドイツ語で「羊が寒がる」という意味で、アルプスの6月で急に冷え込む気象現象のこと。
- ベルウェザー - 鈴が首につけられた去勢された牡羊である。去勢された牡羊(ウェザー)は羊飼いに従順になり、羊飼いの訓練を経て、羊の群れを率いるリーダーとしての役割を与えられる[24]。このことから政治リーダーや株式の指標銘柄、先例裁判、トレンドを作る人間、環境の変化を敏感に感知する動物などを呼び表すのに使われる[25]。
その他
- オークション
- 2009年、「デブロンベール・パーフェクション」という名の羊が23万ポンド(約3200万円)で落札された。
- 2020年8月にスコットランドのラナークで行われたオークションで、「ダブル・ダイヤモンド」という名のテクセル種の子羊が35万ギニー(イギリスの家畜の売買では、通貨の単位として伝統的にギニーが使われる)(約5200万円)で落札された。[26]
注釈
出典
- ^ http://jlta.lin.gr.jp/report/detail_project/pdf/150.PDF めん羊の採食特性を活用した草地の造成と維持管理に関する調査
- ^ “毛が伸び放題のヒツジを救出、30キロ分刈り取る 豪州”. CNN. 2021年2月25日閲覧。
- ^ ナショジオ シロサイと仲良くなったヒツジ( ナショジオ 〜) - YouTube ナショナルジオグラフィック
- ^ a b c [https://hal.science/hal-03759454/document Broad maternal geographic origin of domestic sheep in Anatolia and the Zagros]
- ^ 「品種改良の世界史」,2010,正田陽一編,悠書館,ISBN 978-4-903487-40-3
- ^ 「オセアニアを知る事典」平凡社 p279 1990年8月21日初版第1刷
- ^ a b c d e 賀来(2015)、p.106
- ^ a b “日本のめん羊事情”. 公益社団法人 畜産技術協会 (1991年12月). 2020年11月28日閲覧。
- ^ a b 賀来(2015)、p.115
- ^ 小林忠太郎「民営牧羊経営の成立と崩壊」、『日本畜産の経済構造』16 - 18頁。
- ^ 小林忠太郎「民営牧羊経営の成立と崩壊」、『日本畜産の経済構造』20 - 21頁。
- ^ 小林忠太郎「民営牧羊経営の成立と崩壊」、『日本畜産の経済構造』24頁。
- ^ 小林忠太郎「民営牧羊経営の成立と崩壊」、『日本畜産の経済構造』31- 32頁。
- ^ 小林忠太郎「民営牧羊経営の成立と崩壊」、『日本畜産の経済構造』32- 36頁。
- ^ a b “FAO Brouse date production-Live animals-sheep”. Fao.org. 2012年12月30日閲覧。
- ^ 「オセアニアを知る事典」平凡社 p240 1990年8月21日初版第1刷
- ^ https://www.mofa.go.jp/mofaj/kids/ranking/sheep.html キッズ外務省:羊の頭数の多い国 日本国外務省 2012年12月30日閲覧
- ^ “日本のめん羊事情”. 公益社団法人畜産技術協会 (1991年12月). 2014年3月22日閲覧。
- ^ a b http://www.nytimes.com/2006/03/29/dining/29mutt.html Apple Jr., R.W. . "Much Ado About Mutton, but Not in These Parts". ニューヨーク・タイムズ、(2006年3月29日)2012年12月30日閲覧
- ^ a b 『ケンブリッジ世界の食物史大百科事典2 主要食物:栽培作物と飼養動物』 三輪睿太郎監訳 朝倉書店 2004年9月10日 第2版第1刷 p.666
- ^ コトバンク
- ^ 「メッカ」p157 野町和嘉 岩波書店 2002年9月20日第1刷
- ^ Asa-Jo「羊が一匹、羊が二匹…」日本人が羊を数えても眠れない理由が判明した!
- ^ トレイルズ 「道」と歩くことの哲学 著者:ROBERT MOOR
- ^ Bellwether species 掲載サイト:Encyclopedia.com
- ^ “羊一頭、史上最高額の5200万円で落札 英国”. CNN. 2020年9月3日閲覧。
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