アスリートの性的画像問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/28 15:27 UTC 版)
解説
女性アスリートが性的な目的で撮影され、その画像や動画が拡散される被害は長らく問題視されてきた[2]。2020年に陸上の現役女子選手がその被害をアスリート委員会に相談したことをきっかけに表面化し、社会問題として本格的な調査・対策が始まった。
調査により多くの事例が確認されたことから、関係団体は事態を重くみた。日本オリンピック委員会(JOC)や日本スポーツ協会などの関係7団体は2020年11月、これらの行為を「卑劣な行為」「アスリートへの写真・動画による性的ハラスメント」と非難し、被害防止に向けた共同声明を発表した[7][2]。JOCは公式サイトに被害通報窓口を設置し[8]、競技会場での盗撮や、画像や動画の悪用、悪質なSNS投稿などの情報提供を呼びかけている。
こうした性的な盗撮画像は、商品として流通することもあり、その販売サイトも存在する[9][4]。
明治大学教授の高峰修は、「アスリートとチアリーダーの盗撮問題は昔からあったが、表沙汰になったのはこの2・3年前でしかない。スポーツ連盟組織や大会の主催団体に、性被害の問題に正面から取り組もうという意識が低く、対応が後手後手になっている」と指摘している[10]。
被害実態
例えば次のような調査結果が報告されている。この他、有名選手の個別事例も多く報告されている。また、男性アスリートの被害も確認されている[11]。
- JOCが2020年11月から公式サイトに開設している被害通報窓口に、2021年7月時点で約1,300件の被害情報が寄せられている[12][13]。
- 日本陸連の2021年の調査では、37の加盟・協力団体のうち20団体が、直近3年で警察への通報・相談していた[14]。
- 共同通信の2021年の調査では、その年の春の甲子園でチアリーディングを予定する15校のうち8校が、被害を把握していた[15]。
チアリーダーの盗撮被害
選手を応援するチアリーダーの盗撮の被害もしばしば報告されている[10]。例えば、大分県の明豊高等学校では、過去の阪神甲子園球場のアルプススタンドで応援していたチアリーディング部員が、保護者席に座っていた男からスカートの中にスマートフォンを入れられていた[10]。試合後に学校関係者が被害届を提出したものの、男の消息は不明なままである[10]。チア部の顧問は「被害の翌日、部員の顔が真っ青で夜眠れなかったと聞き、すぐに動かなければ」と判断、学校も事態を重く受け止め、チア部のユニフォーム見直しを提案した[10]。その結果、同校は半袖シャツとスカートにアンダーパンツのユニフォームを改め、夏はスカートにレギンス、冬はスキニーパンツに変更した[10]。この変更には保護者から反感もあったが、盗撮が実際に起きたこととデジタルタトゥーの問題を説明すると、保護者にはすぐに受け入れられた[10]。レギンスとスキニーパンツは日焼け・寒さの対策としても、部員から受け入れられている[10]。
2023年度の夏の甲子園では、盗撮被害を防ぐために少なくとも4校がスカートではなく野球のユニフォーム風のコスチュームを採用した[16]。
日本高校野球連盟も、大会期間中には何件か被害の報告があり、出場校の関係者や保護者には対策を行っているが、一般の来場者には対策を行っていない[10]。
反応
メディア
メディアが性的な意図で画像を使用することは何十年も前から行われており、メディアの報道姿勢が問われることもある[17]。一例として、元体操日本代表の田中理恵は、競技中の写真が「週刊誌の袋とじになっていた」ことがあると明かした[17]。チアリーディングにおいても、「メディアによって、理想のチアリーダー像が作り上げられている」「結局、実力主義ではない」と現役部員によって指摘されている[17]。
スポーツとジェンダー問題を研究する関西大学准教授の井谷聡子は、商業化されたスポーツ界におけるマーケティングにおいて、「男性目線から見て、どうやって男性のオーディエンスに受ける形で女子スポーツを提供するか」に主眼が置かれており、女性のオーディエンスが軽視されていると指摘した[17]。その上で、「次の世代の女子選手たちが、希望と夢を持ってスポーツに取り組んでいくためには、小さい子供たち、女の子たちの目から見ても、かっこいい、すてきだと、ああいう選手になりたいというものを見せてほしい」としている[17]。
撮影者の意見
例えば以下のような擁護や被害者非難を行う者もいる。
- 撮影者には表現の自由があり、現役アスリートから被害相談があっても迷惑行為ではないという意見がある[9]。この撮影者は、日本で規制が強まるため、逃れるために中国に移住し、広い中国での撮影・移動の費用を稼ぐためにやむなく画像を販売し、収入を費用にあてていると主張している[9]。
- 元バドミントン日本代表の潮田玲子は、「そういう、撮られやすい格好をして出場しているそっちにも問題がある」と言われた[18]。
- ^ “〈女性アスリートの性的画像問題〉被害選手に聞く「相談窓口作って」”. 東京新聞. (2020年10月18日) 2021年7月6日閲覧。
- ^ a b c d e 佐藤大 (2021年5月11日). “女性アスリートの性的画像拡散 選手自身が被害訴え 「盗撮罪」を求める声も”. 東京新聞 2021年7月6日閲覧。
- ^ “女性アスリート性的画像問題「立件はいい前例」被害の深刻さ訴える声も”. サンスポ. (2021年5月11日) 2021年7月6日閲覧。
- ^ a b “隠し撮り画像流出、チアリーダー「身の危険感じた」”. 全国新聞ネット. (2021年7月2日) 2021年7月6日閲覧。
- ^ “女性アスリート画像の性的悪用被害300件、JOCが警視庁に新たに情報提供”. 全国新聞ネット (2021年7月5日). 2021年7月6日閲覧。
- ^ “ただ、走りたかっただけなのに…アスリート盗撮被害の実態”. NHK (2021年5月28日). 2023年8月22日閲覧。
- ^ “JOCなど、性的画像の被害撲滅へ共同声明”. 日本経済新聞 (2020年11月13日). 2021年7月6日閲覧。
- ^ アスリートへの写真・動画による性的ハラスメント防止の取り組みについて - JOC
- ^ a b c 平山連 (2020年12月9日). “性的画像を批判受けても投稿 男性の理解不能な主張”. 日刊スポーツ 2021年7月6日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i “保護者席からスカート内にスマホ差し込み...高校野球チアで盗撮被害、ユニフォーム見直す学校も。生徒どう守れば”. HUFFPOST (2022年8月2日). 2022年8月5日閲覧。
- ^ “性的画像被害は男性アスリートも JOCが国内競技団体と会議”. スポーツ報知 (2020年10月16日). 2021年7月7日閲覧。
- ^ “女性アスリート画像の性的悪用被害300件、JOCが警視庁に新たに情報提供”. 読売新聞 (2020年7月5日). 2021年7月6日閲覧。
- ^ “アスリートの画像悪用巡り JOCと警視庁が対策会議 五輪前に”. 読売新聞 (2020年7月5日). 2021年7月6日閲覧。
- ^ a b “性的画像「盗撮1人じゃない」陸上界で通報や被害届⇒専門家「取り締まる法律が必要」”. HUFFPOST (2020年6月3日). 2021年7月6日閲覧。
- ^ “チアリーダーも盗撮被害…選抜高校野球、8校把握 応援予定の半数超”. 産経新聞 (2020年3月6日). 2021年7月6日閲覧。
- ^ “チアリーダーの衣装、スカートから野球ユニホーム風ハーフパンツに…盗撮対策で”. 読売新聞社 (2022年8月22日). 2022年8月22日閲覧。
- ^ a b c d e 品川絵里 (2021年7月3日). “スポーツメディアの容姿報道に疑問 「結局、実力主義ではない」【性的画像問題】”. 全国新聞ネット. 共同通信 2021年7月6日閲覧。
- ^ “「そういう格好をしてるからだと言われた」…潮田玲子、石黒由美子、宇垣美里が語る、女性アスリートとメディア、ファンの関係性”. ABEMA TIMES (2021年4月22日). 2021年7月6日閲覧。
- ^ a b 田村崇仁 (2021年5月23日). “性的画像対策、東京五輪にも波及の背景 警視庁初摘発、欧州でも選手ら抗議の動き”. 全国新聞ネット. 共同通信 2021年7月6日閲覧。
- ^ “体操女子でボディースーツ 独選手、性的画像に抗議”. 朝日新聞. (2021年4月26日) 2021年7月6日閲覧。
- ^ “ビーチハンド選手のビキニ拒否問題、ノルウェー側が処分を批判”. www.afpbb.com. 2021年8月2日閲覧。
- ^ a b c d “女性スポーツ選手の性的動画販売した会社員の男逮捕 名誉毀損容疑で全国初摘発 千葉県警”. 千葉日報 (2020年6月21日). 2021年7月6日閲覧。
- ^ “女性選手画像を無断転用疑い サイト運営者の男逮捕”. 日本経済新聞 (2021年5月11日). 2021年7月6日閲覧。
- ^ “テレビの女性アスリート水着画像、アダルトサイトに掲載で書類送検”. 日本経済新聞 (2021年6月25日). 2021年7月6日閲覧。
- ^ AthleteRanking.com ver 2.0
- ^ “競技中に狙われる軽装の女子選手…望遠カメラ向けたら職務質問、私服警官が目を光らす”. 読売新聞オンライン
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