舟艇泛水設備
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/12 05:18 UTC 版)
神州丸の最大の特徴として先進的な上陸用舟艇の搭載・泛水方法がある。その船体内に広い舟艇格納庫を設けて大発等多数の舟艇を搭載し、船尾に主要な発進口が設けられている。一見するとドック型揚陸艦に類似するが、ドック型揚陸艦がその名のとおり船内のドックに海水を導き舟艇を浮かび上がらせて発進させるウェルドック方式なのに対して、神州丸では喫水線より上に位置する格納庫から船尾のスロープ(滑走台)によって舟艇を発進させる泛水方式であった。舟艇格納庫内にはローラーを利用した軌道が敷かれ、天井に設置されたトロリーワイヤーを利用して舟艇を軌道上で移動させる。この軌道は船尾まで伸びており、シーソーを経由して滑走台に、そして大型ハッチ(門扉。船尾泛水扉)を有す並列2箇所の泛水口へ通じている。船尾の並列2箇所の泛水口には曲線を描く計4枚の跳ね上げ式大型ハッチがあり、揚陸作業時にはバラストタンクに注水し船尾を沈下させるとともにこのハッチが開き、スロープの後端が海面に接するようになっている。これらの設備によって滑走台の軌道の上を舟艇が順次移動し、連続して泛水、大部隊を揚陸させる事が可能となった。船尾ハッチの構想自体は陸軍原案からあるものだが、それを全通式格納庫としたのは海軍による設計変更後である。同様の設備があきつ丸以下量産型の各特種船にも承継されている。 この全通格納庫・軌道・滑走台の組み合わせは、後のドック型揚陸艦と構造的に大きく異なるが、同様の能力を有していた。ただし、必然的に隔壁が少なくなる舟艇格納庫が喫水線付近に存在する構造は、浸水に対して脆弱という弱点もあった。日本以外ではイギリス海軍が類似のスターンシュート型揚陸艦(フェリー改装)のアイリス(プリンセス・アイリス)、ダフォディルを運用しているが、やはり防御力の低さが問題視されて前線使用は制限された。 神州丸では船尾のみならず両舷側にも大型ハッチが設けられており、舟艇をホイストを用いて泛水可能である。この舷側ハッチも海軍による設計変更で追加されたものである。その後の陸軍特殊船にはこのような舷側ハッチが設けられなかった。 各種舟艇は格納庫だけでなく前部・中部・後部の全ての端艇甲板上にも多数搭載可能であり、これらは一般の軍隊輸送船のようにデリックやダビットを用い泛水する。装甲艇(AB艇)・高速艇甲(HB-K)やカタパルトの吊り上げが可能なようにデリックは強力なものであり(デリック強化は海軍の設計変更で大幅に強化された点である)、小発用の中部上甲板には各々専用のダビットが用意されていた。
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